植生学会誌
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35 巻, 1 号
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原著論文
  • 指村 奈穂子, 大谷 雅人, 古本 良, 横川 昌史, 澤田 佳宏
    2018 年 35 巻 1 号 p. 1-19
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/06
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    1. バシクルモンは新潟県,青森県,北海道の海岸に局所分布する希少な植物である.バシクルモンの生育立地特性を考察することを目的として,新潟県の生育地で,143個の方形区を作成し,植生調査を行った.

    2. バシクルモンは,表面が硬く間隙のほとんどない岩場や,堆砂により埋没する砂丘不安定帯や,暴浪による基盤流失のような強い攪乱を不定期に受ける後浜には生育していなかった.また,他種との競争が激しい,Multiplied dominance ratio (MDR)(群落高と植被率の積)が高い風衝草原などにも,バシクルモンは生育していなかった.

    3. バシクルモンは,適度な環境ストレス(例えば,風化の進んだ凝灰岩の崖地の群落)や自然攪乱(例えば,砂丘や礫質海岸の安定帯の群落)および人為攪乱(例えば,海浜後背の斜面などの風衝草原)のもとに成立する群落に高頻度で出現した.これらの群落では他種は大きく繁茂できず,MDRが高くならない立地であるが,バシクルモンは長い地下茎で進入し,高い被度で生育できるようである.

    4. 本研究により,バシクルモンは,地下茎を伸ばせるような基質であり,かつ適度なストレスや攪乱でMDRが抑えられた場所に生育することが明らかになった.

  • 高久 朋子, 清野 達之, 菊地 亜矢子, 小川 政幸, 上條 隆志, 中村 徹
    2018 年 35 巻 1 号 p. 21-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/06
    ジャーナル フリー

    1. 本州中部に位置する筑波大学八ヶ岳演習林内の湿地とこれに隣接する森林の樹木の空間分布形成パターンを明らかにすることを目的に,そのメカニズムに大きく関わっていることが予想される過湿な土壌環境との関連に注目した解析を行なった.調査区内の優占4種であるハンノキ・ズミ・ヤエガワカンバ・ミズナラについて空間分布と地下水位の高さ,土壌の還元状態との関係を解析した.

    2. 解析の結果,ハンノキは地下水位が高く,かつ還元土壌上に偏って分布していた.ズミは,地下水位は高いが,還元状態ではない土壌上に偏って分布していた.ヤエガワカンバとミズナラは地下水位が低く,還元状態でない土壌上へ偏って分布した.

    3. 2種間の空間分布の関係の解析により,ハンノキとズミ・ヤエガワカンバ・ミズナラ間は排他的な分布を示した.このような樹木の空間分布の特徴は,それぞれの樹種の過湿な土壌環境に対する耐性の有無と関連があると考えられる.その一方で,ズミとヤエガワカンバの小スケールでの同所的な分布には,両種間の垂直的な階層の分離が関係していることが推察された.

    4. 本調査地における湿地およびその周辺における樹木の空間分布は,基本的に地下水位に代表される水分条件によって規定されるが,各樹種の最大到達サイズなどの相違に基づく競争関係・共存関係も空間分布パターンに影響していることが示唆された.

  • 石田 弘明, 矢倉 資喜, 黒田 有寿茂, 岩切 康二
    2018 年 35 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/06
    ジャーナル フリー

    1. 口永良部島は屋久島国立公園およびユネスコエコパークに指定されている火山島である.この島の照葉樹林は安山岩質の溶岩原と火山砕屑物の堆積地に分布している.溶岩原では露岩が数多くみられるが,火山砕屑物堆積地では露岩はまったくみられない.しかし,表層地質の違いや露岩の多寡が照葉樹林の種組成や種多様性にどのような影響を及ぼしているのかは明らかとなっていない.

    2. 本研究では,口永良部島においてスダジイの優占する照葉樹林(二次林)の植生調査を実施し,その種組成,種多様性と表層地質,特に露岩の多寡との関係を明らかにすることを目的とした.

    3. 調査対象とした41林分の植生調査資料を用いてTWINSPANとDCAによる解析を行った.TWINSPANの結果,調査林分は4つの林分タイプに分類された.このうちの3タイプは溶岩原,1タイプは火山砕屑物堆積地に分布していた.

    4. DCAによって得られた1軸のサンプルスコアと露岩率の間には順位相関係数で0.645(P < 0.001)というやや強い有意な相関が認められた.

    5. 溶岩原の調査林分は火山砕屑物堆積地の調査林分よりも調査区(100 m2)あたりの出現種数が多い傾向が認められた.また,岩上を好んで生育する植物の出現種数と露岩率との間には順位相関係数で0.731(P < 0.001)というやや強い正の有意な相関が認められた.

    6. 以上のことから,口永良部島では地質条件,特に露岩の多寡がスダジイ林の種組成,種多様性に大きな影響を及ぼしていること,また,溶岩原がスダジイ林の種多様性の保全にとって極めて重要な立地であることがわかった.

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