Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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62 巻, 3-4 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 奥谷 喬司, 橋本 惇, 三浦 知之
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 91-96
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    鹿児島湾の水深100m前後の海底には,古来から漁業者が「たぎり」と呼ぶ噴気孔がある。その周辺には有鬢動物の1種サツマハオリムシの大群集の存在が知られているが,それに伴って出現するキヌタレガイ科の1種を研究した結果,Solemya(Solemya)に属する新種と考えられるので記載する。Solemya(Solemya) tagiri n. sp.タギリキヌタレガイ(新種・新称)殻長2cm前後,外見は他のキヌタレガイ類と似ていて,細長い亜方形,殻頂はほとんど聳えず,後位7/9付近。漆塗り様の殻皮の色はややうすく,放射状彫刻に沿って細い赤褐色の色帯がある。靱帯は後位,外からは見えず後背縁と靱帯受との間にある。後背縁は僅かに持ち上がる。内部に支柱はない。消化管を欠き,鰓は著しく大きい。鹿児島湾の水深76〜116mの「たぎり」付近。備考:日本産の小型種,アサヒキヌタレは明らかな外靱帯があり(Acharax),またキヌタレガイでは靱帯は内在し(Petrasma),靱帯受にひだがある点で異なる。東太平洋のSolemya reideiはやや大きく(6cm)で,内面に靱帯葉と弾帯受に支柱を持つ点で区別される。
  • 奥谷 喬司, 藤倉 克則, 佐々木 猛智
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 97-110
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    八重山諸島沖の黒島海丘のメタン噴出孔付近の水深600m付近に棲むシンカイヒバリガイ属の2種はこれまでshort-typeとlong-typeと仮称されてきたが,それらを精査した結果,いずれも未記載種であることが明らかとなった。Bathymodiolus hirtus n. sp.クロシマシンカイヒバリガイ(新種・新称)殻頂が前方に寄り,前縁とほとんど同レベルにあるところは,ヘイトウシンカイヒバリガイ B. platifronsと概形が極めてよく似ているが,殻表には毛状の装飾があり,若い個体などは一見,潮間帯のヒバリガイを彷沸とさせる。殻長8cm。Bathymodiolus securiformis n. sp.テオノシンカイヒバリガイ(新種・新称)殻は長く,前域は極めて低いが,後域は広がる。腹縁は著しく凹みブーメランか手斧を思わせる。殻表は黒っぱく,殻皮に毛はない。殻長13cm。
  • 家山 博史, 高橋 茂
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 111-116
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    群馬県片品村花咲のイワナ養魚池で採集されたマメシジミ属の1種はPisidium conventus aff. akkesienseと同定されたので,その形態を調べた。靭帯が内在し殻内側へ裸出しないこと,外鰓がないことから本種はNeopisidium亜属に属する貝であることが分かった。また,入水開口はないがpresiphonal sutureがあること,内鰓には極めて小さい上昇葉があり,育児嚢は内鰓の下部にできることからP. conventusの特徴と合致したが,腎臓側葉の位置,外套膜放射状筋の筋束痕について異なっていた。P. conventus akkesienseアッケシマメシジミの解剖学的知見はまだ報告されておらず,また,殻の形や靭帯の形状に若干の違いが見られたので本種を仮にP. conventus aff. akkesienseとした。
  • ローゼンバーグ G., カロモン P.
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 117-124
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
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    ノミテツヤタテThala maxmarrowi Cernohorsky,1980をタイプ種として新属Thalutaを提唱し,その属の第2種として従来ノミテツヤタテに混同されていた日本産の種類をオゴクダヤタテThaluta takenoko n.sp.として新種記載した。Thaluta n. gen.ノミテツヤタテ属(新属)貝殻は小型(10mm以下)で,幼貝では均整のとれた紡錘形だが,成長すると殻口前部が著しく側方に張り出す。胎殻は平滑。成殻の初期螺層では縦肋が強いが,体層では弱まるか消失する。微細で不明瞭な螺肋は成殻の一部あるいは全体にあり,体層の底部には5〜7の強い螺肋が現れる。成貝では軸唇に4つの襞と厚い板状の滑層が,また殻口外唇内側には襞を持つ。タイプ種(原指定):Thala maxmarrowi Cernohorsky,1980ノミテツヤタテ付記:本属は殻口外唇内に襞を持つことでThalaと異なり,また成熟個体で殻口外唇下部が外向きに広がることで他のツクシガイ科のいずれの属とも異なる。また,ガクフボラ科の一部の種類で見られるように,軸唇の最も前端に位置する襞が,水管溝の左側の境界を形成することもツタシガイ科のほかの属ではみられない特徴である。Thaluta takenoko n. sp.オゴクダヤタテ(新種新称)殻はノミテツヤタテに酷似するが,やや小型で殻高5.9mmまで,殻の地色もやや暗い。彫刻も弱く,体層で縦肋が消失する。最も顕著な違いは胎殻の形と螺層数にあり,ノミテツヤタテの胎殻が4層かそれ以上あるのに対して,本種では1.5層かそれ以下で,より脹らみが強く,殻質が薄い。タイプ標本:ホロタイプ,ANSP 410355,殻高5.4mm。パラタイプNo.1,NSMT-Mo 73573,殻高5.9mm。タイプ産地:和歌山県串本町潮岬オゴクダ浜(打ち上げ)分布:これまでのところ紀伊半島南部からしか採集されていない。生きた個体は水深20m付近(南部町沖)から,死殻は打ち上げ(潮岬)で得られた。近似種のノミテツヤタテが沖縄から南アフリカに至るインド西太平洋に広く分布するのに比して,本種の分布が著しく狭いのは,胎殻の形態から前者が長い浮遊幼生期を経るのに対し,本種は浮遊幼生期間を欠くと考えられることに起因するものであろう。
  • 濱谷 巌, 大隅 大
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 125-128
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    体形が一見ハダカモウミウシ属(新称)Limapontiaあるいはオカダウミウシ属Veyssiereaに似て体は小形で,さらに体色が黒い無鰓の裸鰓類が著者の一人大隅によって,1999年から2000年にかけて発見された。産地は鹿児島県鹿児島湾の稲荷川河口部に近い水深5〜20mの海底の砂泥中であった。筆者らはこの裸鰓類を精査の結果,キヌハダウミウシ属Gymnodoris Stimpson,1855に属する新種であると判断した。Gymnodoris inariensis n. sp.クロヒメキヌハダウミウシ(新種・新称)体(Fig.1A)は背面に暗黒褐色の小点が密在するために一見黒い。体は小形で,体長は5mmまで。体表は平滑,その横断面は丸く,肉体周縁には襞がない。背面には鰓葉が完全にない。触角(Fig.1B)は小さく,無色半透明か薄い黄色ないし橙色。模式個体の触角は細長い三角形で,先端が細くなるが,他の個体では先端が丸い梶棒状のこともある。触角は収縮性で,左右が相接近する。触角の襞はその左右に3個あり,微弱で,よほど注意深く観察しないと認めがたい。触角鞘は見当たらない。日は触角の基部直後の皮下に深く埋もれて位置し,外部からは見えない。口触手は見当たらない。肛門は内臓嚢の後部の背面正中線上に位置する。生殖門は右体側の前方にある。蹠面は細長く,その周縁は襞状で,背面の幅より僅かに広い。陰茎の吻針と輸精管の内壁の小棘は見当たらない。歯舌(Fig.1C)は属特有の形状を示す。大きい個体(体長5mm)の歯式は36×8・1・0・1・8,他の小さい個体ではそれぞれ18×6・1・0・1・6と14×8・1・0・1・8であった。中央歯はない。第1側歯は大きく,鎌形を呈する。第2側歯以下は第1側歯より小さく,最外側歯に向かって次第に細長く,かつ小さくなる。それぞれの歯に鋸歯を欠く。本新種は,(1)体が非常に小さいこと,(2)体が黒いこと,(3)鰓葉を欠くこと,(4)触角が非常に小さく,襞が極めて微弱であること,(5)生息環境が河口に近い海の砂泥中であること,が同属の他の多くの種と異なり,特異である。備考:本種は背面に鰓葉を欠き,体形が一見LimapontiaやVeyssiereaに似るが,これらの属とは主に次の点で異なる。Limapontiaは触角(一部の種は触角状の突起を有する)を欠くが,本種には小さいが触角がある。Veyssiereaの触角は指状で襞を欠くが,本種の触角には微弱ながら少数の襞がある。歯舌はGymnodorisそのものの特徴を示す。体色が黒い点ではスミゾメキヌハダウミウシGymnodoris nigricolor Baba,1960に似るが,本種の体長が極めて小さいこと,鰓を完全に欠くこと,さらに歯の形状が異なることで明らかに別種である。
  • 濱谷 巌, 馬場 菊太郎
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 129-134
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本邦でのショウワアメフラシAplysia(Varria)extraordinaria(Allan,1932)の最初の記録は相模湾葉山近傍の名島近海から漁師の網にかかった1個体が,皇居内生物学御研究所に寄託され,同研究所によって作画されて馬場のもとに送られた(1949,1個体,体長6cm)。それを受けて馬場は同定を試みたが,同定に困難な点が多く,慎重を期して保留になっていた。その後高岡生物研究会によって富山湾からも採集された(1961,1個体,体長13.5cm;1993,1個体,体長8cm)。最近,駿河湾の真崎(清水市・三保)付近の海域で2003年4月,多数のよく泳ぐアメフラシが東海大学海洋科学博物館の毎原泰彦博士によって発見・採集され,その生きた個体(3個体)とカラー写真が濱谷に送られてきた。濱谷はこれらを研究し,馬場の遺稿(未発表)をもとにさらに所見を追加して記載した。Aplysia(Varria)extraordinaria(Allan,1932)ショウワアメフラシ(馬場新称)本種は日本産の最も普通種であるアメフラシAplysia(Varria)kurodai(Baba,1937)に似る。アメフラシ類としては比較的大形で,体長は約20cm迄(毎原氏私信)。両種共に体表は平滑であるが,本種は暗黄褐色(茶色ないし飴色)の地色の上に多数の大小の乳白色斑紋と,少数の大小の黒色斑紋を散布し,さらに黒色細線からなる粗い網目状の模様がある。翼足の内面には黒い網目状の細線がない。翼足は薄く,大きく拡がり,後方で合一することがなく,遊泳の具となる。触角は左右が相接近して位置し,先は細い。口触手は拡げると大きく,広い。貝殻は幅広の卵円形で,大きく,扇平,無色透明なキチン質であるが,ごく僅かな石灰化が見られる。本鰓は大きい。肛水管は幅広く,長い。尾は短い。蹠面は淡褐色で,その後方には吸盤を形成しない。陰茎に吻針がない。相模湾産の個体(No.1)の歯式は40×20・1・20,駿河湾産の個体(No.2)では37×25・1・25。中央歯には主歯尖と,その両側に1〜2個の副歯尖があり,主歯尖の両側には鋸歯が列生するが,副歯尖には鋸歯がない。側歯の主歯尖の両側にも鋸歯列があり,副歯尖は主歯尖の外側に2〜3個あり鋸歯がない。最外側に近い歯は次第に退化的になる。種の模式産地はオーストラリア(シドニー港),模式固体は体長30cmで,遊泳する(Allan,1932)。分布:オーストラリア,クインズランド,ニュージーランド,ハワイ諸島,日本(相模湾,富山湾,駿河湾)。附記:ショウワアメフラシは馬場によってJANOLUS 101:4-10.2000.(高岡生物研究会)に新称として簡単に紹介された。同好会誌JANOLUSは仮綴じで,且つ同好会の内部にのみ配布されたものであるため,ここに正式公表するものである。
  • 湊 宏
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 135-140
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本新種イソムラマイマイは長らく未記載であった。この度,電子顕微鏡によって殻皮を観察できたのを機会に本種を記載した。Aegista stenomphala n. sp.イソムラマイマイ(新種・新称)貝殻は小形(殻径 約6.4〜7.3mm),低円錐形,薄質,暗褐色を呈して,その殻表に光沢がなく,新鮮な個体にあっては成長脈に沿って微細な毛状殻皮に覆われる。螺層は5.5層。体層は大きく,その周縁は成貝では円いが,幼貝で多少の稜角が認められる。殻口縁は薄くて,外縁や底縁では拡張して反曲する。臍孔は狭くて深く,その幅は殻径の1/4を占める。ホロタイプ:殻高5.0mm,殻径6.9mm(NSMT-Mo 73488)。タイプ産地:香川県木田郡牟礼町五剣山。分布:模式産地のほか香川県高松市峰山町(矢野重文氏私信)。備考:本新種の貝殻は,円錐形状で周縁部が円いこと,狭い臍孔からオトメマイマイ属Trishoplitaの貝殻にも似ているが殻表に毛状殻皮を持つ点で相違する。外観的にはマヤサンマイマイAegista mayasana(Azuma,1969) (模式産地・神戸市摩耶山)に類似するが,後種では殻皮が鱗片状になること(本新種は先の尖った細毛になる),生殖器の粘液腺がかさばって大きくなることで識別は容易である。また,本新種はモリサキオオベソマイマイAegista intonsa (Pilsbry & Hirase,1902)に殻皮の先の尖った細毛が近似しているが,後種は大形で殻高が低いこと(殻高8mm,殻径12mm)などから異なる。和名は本種を初めて採集された磯村貞成氏にちなむ。
  • 冨田 進, 棚部 一成
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 141-148
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    三重県安芸部美里村家所に露出する新第三系下部中新統一志層群大井累層三ヶ野砂岩頁岩部層から頭足類顎板化石が単独で発見された.大きさは最長39.7mmあり,外部角質層と内部角質層で構成され,前部には石灰質先端部がある.外部層は後方に伸張した左右一対の翼状部を構成している.この顎板は全ての現生頭足類の上顎板にある強い膨らみや後方へ伸張した内部層を欠いていることから,下顎板であるとみなせる.下顎板にある石灰質先端部の存在を含めた全体の形態は系統学的に現生の鞘形類よりはオウムガイに近縁であることを示すので,ここではオウムガイ目のものとした.しかしながら,この標本では両翼がNautilusの下顎板よりは更に前後方向に伸長している.この顎板化石はAturia cubaensisと同層準から産出したことから,この頭足類顎板は留保つきではあるが,Aturiaのものであると考えられる.
  • 生形 貴男
    原稿種別: 本文
    2004 年 62 巻 3-4 号 p. 149-160
    発行日: 2004/01/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    イタヤガイ科(二枚貝)の63種について,楕円フーリエ解析を用いて,殻の輪郭を族(tribe)及び生活型の間で比較した。その結果,足糸付着型のものと自由生活型のものとの間でも,また族の間でも,フーリエ係数やその主成分の分布に差異が検出された。祖先的な生活型と考えられる足糸付着型のもの同士で比較すると,イタヤガイ亜科に属するものの方が,カミオニシキ族やヒオウギ族のものよりも,丸くて対称性の高い輪郭成分の割合が大きい傾向にある。一方,自由生活型のものは,キンチャクガイ族の一部を除いて,従来言われていた通り,丸くて対称性の高い輪郭成分が卓越する。以上の結果は,カミオニシキ亜科よりもイタヤガイ亜科の方が,もともと自由生活に適した丸くて対称性の高い形態を獲得しやすかったことを示唆する。このことは,自由生活者がイタヤガイ亜科に多くカミオニシキ亜科に少ないことの理由のひとつであるかもしれない。また,本研究で扱った材料の中でカミオニシキ亜科唯一の自由生活者であるホタテガイ(カミオニシキ族)は,イタヤガイ亜科の自由生活者の多くのものよりも,高さ/長さ比がやや大きくて縦長である。これは,カミオニシキ族に顕著な縦長の輪郭要素が,自由生活型に進化したホタテガイにおいてもなお祖先形質として保存されているからだと考えられる。
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