日本において,ムシオイガイ科貝類は現在まで22種(亜種)が報告されているが,九州ではその種類数は多くはない。1978年と1989年に行った宮崎県北部の石灰岩地での調査によって,2新種を確認したのでここに記載した。Chamalycaeus shiibaensis n. sp.シイバムシオイ(新種,新称)貝殻は小形(殻長径約4.3〜4.6mm),低平で円錐形状,淡黄白色を呈する。螺層は4 1/2層,多少の深い縫合のために膨れ,そして螺管はゆるやかに太くなって殻口へ向かう。胎殻は1 1/2層,平滑で光沢があり,続く螺層からは数多くの細かい糸状脈が殻表を覆う。最終層においては,殻口からほぼ1mm程度付近でかすかにくびれて細くなるが著しくはない。そしてその位置から後方に向けて縫合に沿って微小なウジ虫状の呼吸管が横たわる。体層周縁は円い。臍孔は殻径の1/3ほどに広く開き,殻底からは全螺層がみえる。殻口縁は全線で円く,二重唇となるが,外側の唇縁は薄くて鋭く拡がって反曲するものの,内側の唇縁は単純である。蓋は円くて多旋型,角質で薄く,半透明,淡黄白色を呈する。ホロタイプ(NSMT-Mo 73682):殻高2.6mm,殻径4.4mmタイプ産地:宮崎県東臼杵郡椎葉村松木稲荷穴の入り口(石灰岩地)分布:宮崎県(東臼杵郡,西臼杵郡)比較:本新種はその殻の大きさ,殻口の二重唇,殻頂からみた糸状脈などからサドムシオイChamalycaeus sadoensis (Pilsbry & Hirase, 1903)に似ているが,呼吸管から唇縁の間が微細な脈があること口縁外唇が著しく反曲しないことで異なる。Chamalycaeus nishii n. sp.タカチホムシオイ(新種,新称)貝殻は本属の中ではやや中形(殻高:2.2〜2.4mm,殻径:3.8〜3.9mm)に属し,堅固,灰白色。その螺塔は低円錐形,約4 1/2層の螺層を数えることができる。螺管は円く膨らみ,殻頂から殻口に向けて緩やかに太くなる。胎殻は2層,平滑で光沢があり,不透明な白色を呈する。胎殻に続く3層からは細かい成長脈が殻表を覆う。縫合は深くて顕著。ウジ虫状の呼吸管は小さくて細長く,体層の縫合に沿って後方へ伸びている。頸部のくびれは弱くて著しくはないが,頸部の中程に弱いふくらみがある。臍孔は広く開き,殻径の1/3を占める。そして殻底からすべての螺層がみえる。殻口は傾き,ほとんど円形。その口縁は全縁で円く,多少肥厚するが反曲しない。蓋は円形,角質,薄くて多旋型,半透明で淡黄白色を呈する。ホロタイプ(NSMT-Mo 73685):殻高2.3mm,殻径3.8mmタイプ産地:宮崎県西臼杵郡高千穂町黒仁田,柘ヶ滝鍾乳洞(石灰岩地)分布:宮崎県(西臼杵郡,東臼杵郡),大分県(臼杵市),熊本県(八代郡)比較:貝殻の背面外観からみると,本新種は大分県南部の石灰岩地産のオナガラムシオイChamalycaeus takahashii Habe, 1976に近似するが,貝殻がより小さい3.8〜3.9mm)こと,口縁が肥厚しないこと,呼吸管から殻口背面の唇縁までの間に顕著な隆起部を欠くことで相違する。またツシマムシオイChamalycaeus tsushimanus (Pilsbry & Hirase, 1909)は本新種に類似するが,貝殻がはるかに大きい(殻径5.8mm)こと,唇縁部が後種と比較してより肥厚することで識別される。
抄録全体を表示