Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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65 巻, 1-2 号
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総説
  • サルビニ-プラウエン L. v.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 1-17
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    多板綱の体制を介殻類や,無板類の溝腹綱・尾腔綱の体制と比較した。この比較研究は消化管構造の分化の程度や排泄器官の構造について特に注目して行なった。多板綱は枝状器官の発達,多数の鰓,殻板の独特な分化,歯舌歯の鉱物化,卵殻突起の形成,精子の特別な構造などの固有派生形質をもつ単系統群である。多板綱は無板類との間に次のような共有形質をもつ:キチン質のクチタラ層と,小棘や鱗片など石灰質の構造物(スクレライト)を生成する外套膜,側神経の直腸上連合,囲心腔背部が陥人してできる心臓(心室),繊毛の構造,おそらく腹側の縦走筋など。他方,多板綱は介穀類との間に次のような共有形質をもつ:中腸が長軸方向に3区分されること,すなわち食道,中腸腺が付属した胃,多少なりとも旋回する細い腸が区分されること。食道も特別な縦襞と繊毛帯をもつ前部と,腺の分布する対になった食道嚢部,および単純な後部食道に区分される。さらに消化管に関する顕著な共有形質は多板綱と単板類(Tryblidia)との間に見られるほとんど同一の歯舌保持器官である。この両者の近縁な関係は連続する背腹筋の形状・配置によっても支持される。もうひとつの重要な共有形質として,多板綱と介殻類は囲心管(pericardioducts)を"腎臓"に分化させていることがあげられる。すべての軟体動物は心室の上皮にある足細胞による限外濾過によって原尿を作るが,多板綱と介殻類だけがその変化させた囲心管によって原尿から(二次的な)尿を作り出す。これらの形質を比較研究した結果,多板綱は単板綱と近い類縁関係にあるのみならず,介殻類とともに単系統群Testariaとして認識されることを明らかにした。無板類と多板綱のみに共有される形質は共有派生形質ではなく共有原始形質と考えられる。これまでのいくつかの仮説に反して,多板綱は介殻類から派生した(すなわち1枚の貝殻が8枚に分割された)とは考えられず,無板類から,多板綱,そして単板綱へと向かう向上進化的な過程で出現したと考えられる。したがって多板綱の体制は原始的な無板類レベルからより派生的な介殻類レベルへの系統発生上の掛け橋としての役割を演じたと考えられる。
  • シェルテマ A. H., シャンダー C.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 19-26
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    体の背側を覆う外骨格の形成の過程は,先カンブリア紀から現在に至る軟体動物および軟体動物様の動物を見ることによって知ることができる。本研究では,多板類,無板類,ネオピリナ,オウムガイ,イシガイ類,その他の介殻亜門の外骨格形成の様式,そして,Kimberella,Halkieria,Wiwaxia,Maikhanella,Multiplacophora,Acaenoplaxの進化過程についても考察した。骨針(sclerite)と殻は,下記のような段階を経て進化したものと推定される。(1)外套膜の表皮のみ(Kimberella)から,(2)表皮に付着する骨針の発達(Maikhanella)へ発達する。(3)表皮に埋もれた骨針,あるいは骨針と殻が発達し,骨針は陥入した個々の細胞の中で形成される。殻は原殻皮(properiostracum)上に付加されることによって形成される(Halkieria,Wiwaxia,Multiplacophoraを含む多板類,無板類,Acaenoplax)。(4)骨針が消失し,外套膜の縁に殻皮が発達する。殻は外套膜縁の殻皮に付着するようになる。殻は,細胞の内部で形成される円柱状のアラゴナイトによって形成される(オウムガイ,おそらくネオピリナ)。(5)空隙のある殻皮の中層で結晶化が起こるようになる(イシガイ類,イガイ類)。(6)外套膜外液から殻皮上に直接結晶化が起こる。(4)〜(6)の課程では,骨針が消失し,殻は背側を覆う外套膜の外側に形成される。移動のための足の形態には様々な形式が生じ,外骨格は一体化する。AcaenoplaxとWiwaxiaは軟体動物でも環形動物でもなく,むしろ議論の対象となっている全てのグループを含むクレード(Spiculata)の中に位置づけられると考えられる。
  • シレンコ B. I.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 27-49
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    多板類の分類体系はこれまで主に殻板の形質をもとに構築されていたが(Bergenhayn,1955;Van Belle,1983など),本研究では殻板の形質を再検討し,さらに枝状器官,肉帯,歯舌,鰓,各種の腺,卵殻の突起,精子の形態など新しい分類形質を加えて多板類の分類体系を構築した。まず従来の分類で重要視されてきた殻板の形質,特に連接層の形質を再検討した。カンブリア紀から出現した多板類の進化史上,石炭紀後期における連接層の獲得と連接層のその後の発達は極めて重要なできごとであったと考えられる。したがって多板類の系統を考える上で連接層の重要性は変わらないが,それに付随した形質,たとえば着生板や歯隙などは殻表の形態とともに変化しやすく,平行現象が起きているため,系統解析で用いるにあたっては注意が必要である。着生板に歯隙がないナンキョクヒザラガイ属Hemiarthrum,ナンヨウヒザラガイ属Weedingia,マボロシヒザラガイ属Choriplaxが旧分類では原始的なサメハダヒザラガイ亜目Lepidopleurinaに置かれてきたことはこのような平行現象が誤って解釈された例である。新しい分類形質としてはまず鰓の形態と配列があげられる。鰓の配列はこれまでも離肛型(abanal type:最後端の鰓と肛門の間が離れる)と近肛型(adanal type:最後端の鰓が肛門に近接する)に分けられてきたが,離肛型を腎口の直後に原則として1つの鰓のみをもつもの,近肛型を同様に3つ以上もつものと再定義すると,これまでと異なったグルーピングがなされる。さらに鰓の配列と卵殻突起の形態には関連があることが判った。すなわち離肛型のものは卵殻突起の基部が小さく細長い突起をもち,近肛型は基部が大きく,塊状の突起をもつ。このことから現生多板類のうちサメハダヒザラガイ日Lepidopleuridaを除くすべての種を含むクサズリガイ目Chitonidaは離肛型のケハダヒザラガイ亜目Acanthochitoninaとクサズリガイ亜目Chitoninaとに分類される。この分類は精子の微細構造の違いによっても支持され,また分子系統学的研究の結果によっても一部支持される。以上の結果をまとめ,著者自身がこれまで提案した分類体系を再検討して図12に示す分類体系を提案した。要点は以下のようになる。サメハダヒザラガイ目を連接層の発達程度の低いCymatochitonina亜目と発達程度の高いサメハダヒザラガイ亜目に2分した。サメハダヒザラガイ亜目のDeshayesiellaとOldroydiaをサメハダヒザラガイ科LeptochitonidaeからProtochitonidae科に移動した。最も重要な点は上記のようにクサズリガイ目をケハダヒザラガイ亜目とクサズリガイ亜目に2分したことである。これに関しては,すでに移動されていたナンキョクヒザラガイ属に加え,ナンヨウヒザラガイ属とマボロシヒザラガイ属も同様にサメハダヒザラガイ目からクサズリガイ目のケハダヒザラガイ亜日に移動した。なお所属が不明なものとして絶滅群ではScanochitonida,現生群ではハチノスヒザラガイ属Callochitonとサケオヒザラガイ属Schizochitonが残っている。
  • バックランド-ニックス J.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 51-70
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    多板綱の最大の目であるクサズリガイ目Chitonida[sensu Sirenko,1993]の共通祖先は,特異な形態の卵膜を発達させた卵と頭部が糸状に伸長した精子による独特の受精メカニズムを発達させ,この目の特徴となっている。一方,Leptochiton asellusとそのほかのサメハダヒザラガイ目Lepidopleurida[sensu Sirenko,1993]では,祖先形態である平滑な卵膜を持つ卵と突起した先体を持つ精子が遺存している。L.asellusの受精メカニズムは,精子と卵のデザインの基本的な類似性から,堀足綱やその他の軟体動物に類似したものと思われる。その受精過程は,まず先体反応により酵素が放出されてゼリー層と卵黄膜に大きな穴があけられる。その後,先体反応のプロセスにより先体の内膜が重合して伸長し,卵の微絨毛と融合する。さらに,受精丘が卵黄膜より盛り上がり,精子が,その核・中心体・ミトコンドリアおよび鞭毛の一部も含めて吸収される。サメハダヒザラガイ目から,発達した卵膜を持つ卵と縮小した先体の精子を持つクサズリガイ日へと移行するにあたって,その中間段階としての特徴をもつカギヅメヒザラガイDeshayesiella curvataとハンレイヒザラガイHanleya hanleyiは,平滑な卵膜の卵と短い核質の先端部の上に小さな先体を備えた精子を持っている。さらに,ハチノスヒザラガイ属の1種,Callochiton dentatusでは興味深いことに,カギヅメヒザラガイと同様の卵を遺していながら精子はクサズリガイ目の種と同様の特殊化をしている。その受精過程はクサズリガイ目のパターンに沿っており,微小な先体によって卵黄膜に小さな穴があけられ染色質だけが卵内に注入される。受精丘が卵黄膜下で形成されるが,精子の本体が吸収されることはない。精子の細胞小器官は精子の膜に包まれたまま卵表面に遺されているものと思われる。このことから,クサズリガイ目では中心体もミトコンドリアと同様に母系的に伝えられていることが示唆される。上記のハチノスヒザラガイ属の1種,カギヅメヒザラガイ,ハンレイヒザラガイに新たに見られるこれらの形質から,これまで考えられてきた系統関係を以下のように見直すことができる。ハリハダヒザラガイ科Callochitonidaeはクサズリガイ目全体からの姉妹群とされ,サメハダヒザラガイ目Lepidopleurida[sensu Sirenko 1993]には含まれない。さらに,サメハダヒザラガイ目は側系統群となり,クサズリガイ目はより明瞭にクサズリガイ亜目Chitoninaとケハダヒザラガイ亜目Acanthochitoninaの2つの亜目に区分することができる。
原著
  • ブルーカー L., リー A. P., メイシー D. J., ウエッブ J., ブロンズウィック W. v.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 71-80
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    軟体動物門多板綱のヒザラガイ類の摂餌関連器官である歯舌には一列に17本の歯舌歯が並んでいる。そのうちの2本の大側歯の歯冠部は,有機基質の枠組みの中に様々な生体鉱物(バイオミネラル)が含まれる複合材料で形成されている。ヒザラガイ類はこの大側歯を主に用いて岩の表面などに付着した藻類などをかき取って食べている。これまで調べられたヒザラガイ類では,全ての種で大側歯歯冠部にはマグネタイト(磁鉄鉱)が存在することが報告されている。しかし,これらは藻類をかき取る先端や外側の部分(cutting surface)での分析の報告であり,中心部(central core)についてのものではない。そこで本研究では,クサズリガイ亜目の3科に属するヒザラガイ類7種の成熟歯(形成された後歯舌嚢の中に存在し,まだ摂餌には使用されていない歯)を材料に,エネルギー分散型元素分析装置(EDS)を装備した電子顕微鏡とラマン分光分析装置を用いて,前者では歯冠部の元素分布を,後者では存在する生体鉱物種の特定をin situで行った。その結果,中心部は主なバイオミネラルとしてリモナイト,レピドクロサイトおよびハイドロキシアパタイトを含む,様々な元素で構成されていることがわかった。Ischnochiton australisに加えて,クサズリガイ科の5種はアパタイト鉱物を中心部に沈着していたのに対し,Plaxiphora albidaはいかなるカルシウムを含む生体鉱物も沈着していなかった。中心部の鉄の量が比較的少ないI.australisを合め,Acanthopleura echinataを除いた全ての種から水酸化鉄(III)であるリモナイトが見つかった。中心部に高レベルでリンをもつ種においてリン酸塩鉱物が存在する証拠が見つからなかったことから,これまで長い間受け入れられてきたバイオミネラルとしてリン酸塩が存在するだろうという見解について本研究では異議を唱えることになる。本研究で用いたEDSとラマン分光を組み合わせたテクニックは,ヒザラガイが採用した生体鉱物化(バイオミネラリゼーション)の戦略を解析する上で,in situで簡単にしかも効果的に評価する方法を提供してくれる.本研究の結果は,ヒザラガイの生体鉱物化の戦略が系統的類似性を反映するかどうかをはっきりさせるまでにはいたっていないが,ヒザラガイ分類群の広い範囲から種を集め本法による解析を拡大していけば,属や科レベルでの生体鉱物の類似性あるいは違いが明らかになり,多板綱においては歯舌歯のバイオミネラリゼーションが分類上のツールとして利用できるようになるかも知れない。
  • シレンコ B. I.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 81-89
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    1958年から2003年までに各種探検調査等で収集された標本をもとに,マゼラン海峡とその周辺海域の浅海性多板類相を研究した。合計15種の多板類が認められ,そのうち1種は未記載種と考えられる。これらのうち14種はマゼラン海峡,ビーグル水道,エスタドス島に分布し,11種がフォークランド諸島に分布している。このような各地域の多板類相の比較の結果,フォークランド諸島の多板類相はマゼラン海峡の多板類相から構成種数が減っただけのものであることが判った。上記15種以外にこれまでマゼラン海峡から記録のあった9種について再検討を行ったところ,8種は標本ラベルの間違いや誤同定によって誤った記録,1種が実体不明であった。また記録はないが,本海域をはさんでコンセプション水道と南極半島ブランズフィールド海峡から報告されているサメハダヒザラガイ属の1種Leptochiton cf.sykesiは今後本海域でも採集される可能性がある。本海域に分布する種のうち4種に保育習性が観察された。このうちTonicia lebruniとIschnochiton strammeusは本研究が初めての報告となる。前者は雌が卵をトロコフォア幼生まで保育し,後者は殻板が全て形成される時期まで保育することを記録した。
  • 齋藤 寛
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 91-96
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    フィリピン海盆から採集されたヒラタヒザラガイ属の1種を記載した。Ferreiraella tsuchidai n. sp.ツチダヒラタヒザラガイ殻板は本属としては高く隆起する。尾殻頂は低いが,尾板後縁より明らかに高く隆起する。殻表はほぼ平滑で側域はわずかに隆起する。殻表の枝状器官の各末端は大枝状器官の1個の扁平な頂帽と,4〜7個の小枝状器官の指状突起で構成され,頂帽と指状突起は近接する。着生板はない。タイプ標本:ホロタイプ20.3×11.8mm,NSMT-Mo73601;パラタイプ18.2×10.9mm,NSMT-Mo73602。タイプ産地:フィリピン海盆,白鳳丸KH-79-01,St.5-1,05°30.8′N,130°20.2′E to 05°28.0′N,130°19.9′E,水深5567m。比較:本新種はカリブ海の水深6780mから知られる本属のタイプ種Ferreiraella caribbensis Sirenko,1988に類似するが,後者は殻表に明瞭な顆粒をもつことと,枝状器官末端の頂帽と指状突起がやや距離をおいて配列することで区別される。また本属の他種とは着生板をまったく欠くことで区別される。
  • シュワーベ E.
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 97-112
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    パプアニューギニアの多板類相についての研究はほとんど行われていない。同地より4種の多板類が採集されたので報告する。3種,Callistochiton granifer Hull,Chiton(Tegulaplax)hululensis(E.A.Smith),およびLeptoplax unica Nierstrasz,は同地からの初記録である。Lucilina lamellosa(Quoy & Gaimard)の分布も確認された。各種について種の標徴となる形態をカラー写真と電子顕微鏡写真で示した。また,これまでに同地から報告されている全種,7科12属19種のリストを作成した。このリストには新組み合わせ1,新異名1が含まれる。
  • 大越 健嗣, 濱口 昌巳
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 113-122
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒザラガイAcanthopleura japonicaには殻板が黒色から濃い茶色の型と褐色で頭板以外に2つの茶色の斑紋のある2つの型があることがわかった。両者はミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列も異なっており,前者をForm A(クロ型),後者をFormB(メダマ型)とした。宮城県などの東北地方にはForm Aのみが生息し,広島県などの瀬戸内海にはForm Bが,本州中部の静岡県下田市の鍋田湾などでは両者が混在していた。鍋田湾では沖側の岩にはForm Aが生息し,陸側に行くにしたがってForm Bの割合が増加していった。Form Aは大潮時のタ方の満潮時前後に放卵・放精し,Form Bの放卵・放精は明け方に見られた。卵の色も両者では異なっていた。以上のことから,両者は生殖的に隔離された姉妹種とするのが適当と考えられる。
  • 吉岡 英二, 藤谷 絵里加
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 123-139
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    沖縄島瀬底島の潮間帯岩礁で2000年7月から8月,9月から10月の2期間にウニヒザラガイ属2種オニヒザラガイAcanthopleura gemmataとキクノハナヒザラガイA. tenuispinosaの活動パターンおよび帰家習性について調査をおこなった。両種ともに昼は波打ち際状態の時に,夜は波打ち際状態に加え干出状態の時に家の外へ出て活動した。両種ともに移動距離・外出時間とも昼より夜の方が長かった。2種間では,夜の活動でオニヒザラガイはより波打ち際状態で活動するのに対し,キクノハナヒザラガイは干出状態と波打ち際状態で一様に活動することや,昼の活動でオニヒザラガイよりキクノハナヒザラガイの移動距離が短く,移動速度も遅いことなど若干の差が見られた。岩盤の表面温度は,昼の晴天時には50度を超え,水中の捕食者となりうる動物も観察した。したがって,乾燥適応・捕食適応が活動パターンに関与していると考えられた。帰家行動についても,両種で同様に見られ,2期間(通算31日間)を通じてほとんどの個体は1または2カ所の家だけを利用していた。また,家の奪い合いの観察例より,他個体に家を占拠されてもすみやかに近隣の家(pit)に入る行動などから,ヒザラガイは周辺の地形をよく認識していることが示唆された。
  • 高田 宜武
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 141-151
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    九州天草の転石海岸において,ケハダヒザラガイ個体群の密度とサイズ組成を,6年間にわたって観察した。ケハダヒザラガイは中潮帯から低潮帯にかけて分布し,時間的空間的な密度のバラツキはあるものの,平均潮位付近で高密度を示した。平均潮位での密度は,6年間でやや減少する傾向にあった。密度の季節的変動については,第5殻板幅が2〜4mmの個体で冬期に高密度,夏期に低密度になったが,より小型の個体(第5殻板幅が2mm未満)では季節変動は認められなかった。サイズ頻度分布は単峰型もしくは二峰型を示したが,個体の成長や幼稚体の加入にもとづく季節的なモードサイズの変動は認められなかった。したがって,このケハダヒザラガイの個体群では,年間を通して加入率と個体の成長速度および死亡率が低いものと推察された。
  • 沼子 千弥, 築山 義之, 小藤 吉郎
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 153-163
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒザラガイ類は歯舌の中に主成分として磁鉄鉱(Fe_3O_4)を持つことで知られている。先行研究では無機成分により鉱物化された第二側歯の形成過程から,ヒザラガイ類を2,3のタイプに分類していた。本研究では,ヒザラガイAcanthopleura japonicaの歯冠部に含まれる鉱物成分とそれらの2次元分布を求めるために,X線回折(XRD)とX線マイクロプロープアナライザー(EPMA)を用いて研究を行った。XRDにより磁鉄鉱(Fe_3O_4),針鉄鉱(α-FeOOH),鱗鉄鉱(γ-FeOOH),ハイドロキシアパタイト(Ca_5(PO_4)_3(OH))など複数の結晶成分が検出された。EPMAにより歯冠断面の2次元分布においてFeと(Ca,P)の分布が異なることがあることが示された。これらの結果は,歯の構成成分について,どのような種類の鉱物を,歯舌の形成過程の中のどのタイミングで,歯冠の内部のどこにどのような状態で形成するかを緻密にコントロールした,ヒザラガイの生体鉱物化システムを明らかにした。また,これらの結果より,ヒザラガイの第二側歯の形成過程は,5つの段階に分類できることが分かった。
短報
  • 佐々木 美穂, 浜口 昌巳, 西濱 士郎
    原稿種別: 本文
    2006 年 65 巻 1-2 号 p. 165-168
    発行日: 2006/05/31
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    Ferreira(1986)はインド太平洋域におけるウニヒザラガイAcanthopleura spinosaの分布海域は北緯25度以南・東経142度以西としている。沖縄県の先島諸島は一部この範囲内に含まれているが,これまで数報の出現記録はあるものの詳細な生息状況については調べられていない。我々は2002〜2003年にかけて宮古島を中心にウニヒザラガイの分布調査を行ったところ,宮古島北西部および伊良部島全域に生息していることが判明した。また他の先島諸島(石垣島,西表島,与那国島,波照間島)においては,与那国島にのみ生息していた。伊良部島の海岸は発達したサンゴ礁で囲まれた隆起石灰岩からなり,至るところに岩穴やクレバスなどが認められた。この地形は閉所を好む本種の生息環境として好適であると考えられる。また高密度な分布が見られた地点は伊良部,宮古両島間の海峡沿いに集中していることから,この一帯に存在する反時計回りの恒流が幼生の加入に関与していることが推測された。一方,他の先島諸島においても本種にとって地形的に好適と思われる岩礁が多数存在するにもかかわらずほとんど生息が確認されなかったことから,別の環境要因もウニヒザラガイの分布体系に関与している可能性が示唆された。
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