Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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65 巻, 4 号
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原著
  • 加藤 真, 大須賀 健
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 291-297
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    琉球列島のサンゴ礁のウミヒルモ海草藻場で,ニッコウガイ上科の新種が発見された。この二枚貝は,左右やや非相称で,著しく扁平で小さな殼と,垂直方向に伸びるよく発達した弾帯,痕跡的な外靫帯,間隔のあいた顕著な成長脈,伸長した入水管・出水管,三角形の内・外半鰓によって特徴づけられる。この貝の属の所属については,ニッコウガイ科やアサジガイ科の近縁属の分類の再検討が必要であるが,私たちはこの貝をSemelangulus lacrimadugongiがn. sp.ザンノナミダ(新種・新称)として記載する。この貝の産地はいずれも,ジュゴンが現在でも生息しているか,または近年まで生息していた場所にあたる。
  • 横川 浩治, 中尾 賢一
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 299-317
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    既報では,アワジチヒロ2型(アワジチヒロ型,ヤミノニシキ型)の差異について形態的,生態的,遺伝的に総合的研究を行ない,両型は同一種内の形態的多型であることを明らかにして,種名をVolachlamys hiraseiに続一すべきとした。今回はその続報として日本産アワジチヒロ属Volachlamys貝類の化石標本を調べ,その系統進化と分類学的扱いについて考察した。調べた化石標本は,長崎県の加津佐層(1.7 Ma)と北有馬層(0.9 Ma),兵庫県の舞子層(更新世前期〜中期)と高塚山層(0.49 Ma),愛知県の渥美層(0.45 Ma),千葉県と茨城県にまたがる木下(きおろし)層(0.125 Ma),および香川県高松市の臨海沖積層(0.006 Ma)から産出したものである。これらに加えて香川県沖で得られた現生のアワジチヒロの標本も併せて研究に用いた。標本は殻の計測を行ない,殻の重量を相対的に表わすために殻重量指数(SWI)を計算した。また,殻表にみられる成長輪から既報の方法によって成長を解析した。化石標本群中でヤミノニシキ型が出現したのは,渥美層で44個体中1個体,木下層で2個体中1個体,高松市の沖積層で39個体中17個体で,その他の産地のものはアワジチヒロ型のみの組成であり,このことから更新世中期頃からヤミノニシキ型が出現し始めたものと思われた。形態的に,殻のプロポーションや放射肋数は産地ごとにそれぞれ独特ではあるものの,著しく特殊な形態の個体群はみられなかった。一方SWIは,舞子層の個体群が顕著に小さく,他の産地ものに比べて殻が薄質で軽いものと思われた。また成長解析の結果,舞子層のものだけが著しく卓越した成長度を示し,現生種を含めた他の産地の標本群はかなり類似した成長度であった。これらのことから,舞子層の個体群だけが他の産地のものと生物学的に明らかに別系統であると思われた。日本産アワジチヒロ属の化石は一般にムカシチヒロ(ヤグラニシキ) Volachlamys yaguraiとされ,現生のV. hiraseiと別種とされている。V. yaguraiのタイプ産地である舞子層産の個俗群は明らかに現生種と別種とすべき生物学的特徴を有するが,しかし他の産地の化石個体群は現生種と明確に区別される特徴は見いだせなかった。これらのことから,舞子層産の個体にはV. yagurai,その他の産地の個体には現生種と同じV. hiraseiの学名を適用するのが妥当と考えられた。
  • 佐々木 猛智
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 319-323
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    和歌山県田辺沖から据足類2種の原殼付きの幼貝が採集された。1種は,六角形の断面に強い稜角を持ち,ヤカドツノガイに同定される。別の1種は非常に若い個体で,未同定である。これらの種の原殼を過去に報告された掘足類の原殼と比較すると,ヤカドツノガイの原殼は,後方の平滑部分(原殼A)が小さく,前方の環状彫刻のある部分(原殼B)が極端に長い点でどの種の原殼とも異なる。一方,未同定種の原殼はSteiner (1995)のtype 1として知られるものに一致する。原殼の形態の違いは,腹足類や二枚貝類と同様に幼生生態の違いを反映することが予想されるが,それは今後発生を観察して確かめる必要がある。
  • 松原 尚志, 小守 一男
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 325-331
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    オカミミガイ属は熱帯から暖温帯の上潮干帯および河口域に棲息し,とくにインド-太平洋地域のマングローブ湿地から知られている.本属の化石記録は少なく,日本では中部日本の下部中新統最上部からの数例が知られているに過ぎない.今回,岩手県二戸地域の下部中新統門ノ沢層舘砂岩部層から本属に含まれる1標本が得られた.分類学的な検討の結果,門ノ沢層産の種は現生種のEllobium (Ellobium) aurisjudae (Linnaeus)に比較される.この産出は本属の東アジア地域における新生代を通じての最北の記録となる.門ノ沢層舘砂岩部層の貝類化石群は亜熱帯性のものと考えられてきたが,最近,マングローブ湿地性の二枚貝類Geloinaが発見されている.今回のEllobiumの発見は,熱帯海中気候事件の時期(ca.16.5 Ma)に東北地方北部にマングローブ湿地が存在した新たな証拠となる.
  • 高田 宜武, ルッソ
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 333-343
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    地中海産の藻食性巻貝ヘソアキシタダミGibbula umbilicarisについて,海草葉上での日周期活動と生息場所選好性のサイズによる違いを,室内実験によって調べた。実験に用いた巻貝は, 1995年の12月にイタリアのナポリ湾のイスキア島沿岸の水深3mから採集し,大・中・小の3つのサイズグループに分け,室内の小型水槽に個別に飼育した。各水槽には,2種類の異なった葉上性微小藻類群集をもつ海草の葉片を入れ,巻貝の行動を4種類(休息,足縁の触角の揺動,直線的移動,殼の揺動を伴う摂食移動)に分類して記録した。大型の巻貝は夜間の活動が活発で昼間は不活発という明瞭な日周期的活動パターンを示した。一方,小型の巻貝では昼夜の活動の差が少なくなり,日周期パターンが不明瞭となった。しかし一日単位で見ると,4種類の行動の相対的な頻度はサイズに関わらず同様であった。小型の巻貝は2種類の海草葉片をほぼ同様の頻度で利用した。大型の巻貝は,海草の先端部にあたる葉上性微小藻類群集が発達した葉片の上で摂食移動を行う傾向があった。ウニの1種Paracentrotus lividusの存在下では,小型の巻貝の活動が活発化した。
  • 本間 義治, 牛木 辰男, 武田 正衛, 中村 幸弘
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 345-353
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    浮遊遠洋性の珍蛸アミダコ(♀)が, 2004年11月から2005年2月下旬にかけて,上・中越地方を中心に新潟県沿岸へ漂着したり捕獲されたりして,34個体が記録された.これらの中で,2月15日に掬われ,上越水族博物館へ収容され,18日に死亡した全長53cmの個体を10%フォルマリンで,次いでブアン氏液で固定し,卵巣・卵管の組織標本を作成して,観察した.卵巣重量は40g,抱卵数は60,000個以上であった.卵巣は中央に卵巣腔があり,多数の包嚢からなり,嚢内には様々の発育段階の卵巣卵(非同時発生型)が存在していた.若い卵母細胞は,それぞれ結合組織性の薄膜(層板)に付着していた.初期の卵母細胞には,円形の核(生殖胞)が明瞭であるが,発育が進むと卵は長楕円形となり,卵胞上皮が随所から陥入し始め,複雑に入り組み,卵黄形成が盛んとなる.さらに成熟が遊むと,卵母細胞は大きく球状化して,最大径1.2 mmに達する.卵膜には放射線帯,卵胞膜,莢膜の分化が明瞭となり,卵黄は板状化する.近位卵管内壁の粘膜は高く,複雑にひだ打っているが,遠位卵管壁は厚い結合組織と筋肉層で覆われ,内壁の粘膜は低く,ひだ打ちの程度は小さかった.浮遊遠洋性アミダコ卵母細胞の成熟過程は,沿岸性のマダコや深海性のメンダコ類などと変わらず,多回産卵を行うと推定された.
  • 小林 収, 近藤 高貴
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 355-363
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    Glochidia and juveniles of two species of Margaritifera were examined in the Sakasa River at Togakushi, Nagano Prefecture, and four other localities in Japan. The shape and size of the glochidia were similar in both species, but the surface sculpture of the glochidial shell was different: smoother in M. laevis and rougher in M. togakushiensis. On the other hand, juveniles were oblong and flat in M. laevis, but ovate and inflated in M. togakushiensis. Most of them could be consistently separated using a discriminant function estimated from the shell length and shell height. Juveniles obtained in the other four localities were also identified with one or the other species by using the discriminant function. About 40 days after infection, the glochidia metamorphosed into juveniles on the host and the discriminant function is also applicable to the parasitic juveniles.
短報
  • ウアール
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 365-368
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    クリスマス島沖から採集された1個体の標本に基づき,新種Chicoreus(Triplex) pisori n. sp.を記載した。本新種は同じく熱帯太平洋に分布するクレナイセンジュC. nobilis Shikama, 1977,マイヒメセンジュC. rossiteri (Crosse, 1872)やコセンジュC. aculeatus (Lamarck, 1822)に近似するが,螺状彫刻の形態,水管上の枝突起や蓋の著しい違いから別種と断定した。
  • 佐々木 猛智, ワレン
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 369-371
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    Aliceia okutanii n. sp.タチヒレシャジク(和名新称) 小笠原諸島沖から未知のクダマキガイ科の小型種が得られた。本種は半管状の突起が約180゜ごとに並ぶ特徴的な形態を持っており, Aliceia属に分類される。本属には, A. aenigmatica(北大西洋アゾレス諸島沖水深1800-1980 m)とA. simplicissima(インドネシアおよびタンザニア・ザンジバル沖水深356-470 m)が記載されているのみであり, Kay(1979)によってThatcheriasyrinx sp.として図示された未同定種(ハワイ沖水深700m)も同属であると考えられる。本新種は,螺層が細く殼頂角が小さいこと,殼口が縦に長く伸びること,肩部に顕著な突起を形成すること,偽臍孔が形成されること,原殼の螺肋の数が少ないこと,の5点によって上記の種とは異なる。本新種は,Aliceia属の西北太平洋における新記録である。
  • 佐々木 猛智, 奥谷 喬司
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 372-374
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    静岡県沖,金洲の瀬の水深344〜394mより,ウミタケモドキ上科の未知種が採集された。本種は殼頂が前側に偏った三角形の殼に多数の放射肋があり,〓歯と内靱帯を欠く。この殼形態からPanacca属(サンカクウミタケモドキ属:和名新称)に分類される。本属には世界中から6種が知られているが,そのいずれとも殼形,放射肋の強さ,数,間隔等において一致しない。一方,上田(1994)によってPholadomya sp.として土佐湾から報告された未同定種も本種に類似する点があるが,外形の丸みが強く,放射肋が殼の内面に強く刻まれ,前後の殼縁部にも細肋がある点によって異なる。従って,本種を新種Panacca trigona n. sp.サンカクウミタケモドキ(和名新称)として記載する。
  • 横川 浩治, 中尾 賢一, 松原 尚志
    原稿種別: 本文
    2007 年 65 巻 4 号 p. 375-378
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ムカシチヒロ(ヤグラニシキ) Volachlamys yaguraiは日本の更新統から産出するイタヤガイ科の化石種である。本種はMakiyama (1923)によってPecten yaguraiという学名で新種記載された。しかしその前年に,矢倉(1922)がPecten yaguraiの学名を先行して導入しており,国際動物命名規約条12.2.7によって矢倉(1922)の名義タクソンは適格とみなされる。Pecten yaturai Yagura, 1922は黒田(1932)によって有効な学名として用いられているため,条23.9.1.1によって先取権の逆転は適用できない。以上のことから,発表年の古い矢倉(1922)の名義タクソンが有効となり,Makiyama (1923)の名義タクソンはその新参シノニム且つホモニムとなる。これに伴い,矢倉(1922)により図示された2標本が本種のシンタイプとなる。これらの標本はいずれも消失したと推定されるが,条74.4に従い,矢倉(1922)の図2の右殻をレクトタイプに指定した。さらに, Makiyama(1923)の名義タクソンについても,現存するシンタイプ標本からレクトタイプとパラレクトタイプを指定した。
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