2007年 9~10月に千島海溝南端部において海洋研究開発機構の有人潜水調査船「しんかい 6500」が行った 3潜航によってシロウリガイ類(オトヒメハマグリ科)が 4種採集されたので,それぞれの種について形態学的分類と分子系統分類および共生細菌の分子系統解析を行った。
1)ナギナタシロウリガイ
Calyptogena (
Ectenagena)
phaseoliformis: 水深4819 mから41個体採集された。原記載の時既に本種は千島海溝南端に棲むことが知られていたので再確認となる。今回の個体はタイプ標本を含めて日本海溝のものより大型(殻長20 cmを超す)で堅牢である。
2)ナラクシロウリガイ近似の1種
C. (
E.) sp.: 水深4819 mから1個体。本種は一見,日本海溝の水深 5290~ 6800 m付近に固有のナラクシロウリガイに極めてよく似るが,分子情報からはKojima
et al.(2004)が“Unidentifed vesicomyid”として千島海溝の水深4700~6200 mから報告している種に合う。更に標本を得て種名の決定が必要。
3)ヒロバナギナタシロウリガイ(新称)
C. (
E.)
extenta: 水深3512 mから2個体。本種のタイプ産地はモントレー海底峡谷の水深3041 mであるが,西太平洋からの産出は初。原記載の標本より大型で幾分殻高が高く,腹縁の湾入度が弱い。本種の出現はシロウリガイ
C. soyoaeが東西太平洋に分布する(=カナダ西岸の
C. kilmeriと同種)のと軌を一にしているのか,アリューシャン海溝などを経由し,連続して環亜寒帯分布をするのか明らかではない。
4)チシマシロウリガイ(新亜種・新称)
C. (
Archivesica)
laubieri kurilensis Okutani & Kato, n. subsp. 水深3560 mから 14個体と 3512 m から5個体。101.0×51.9×34.6 mm(ホロタイプ)。ミトコンドリアCOIによる分子系統解析で南海トラフの水深3386~ 3835 mに分布するテンリュウシロウリガイと同一種であることが判った。形態的相違は微弱で,南海トラフのものに比べて,(1)腹縁がやや膨れることで殻長/殻高比が僅かに大,(2)殻頂下主歯2aと2b間の歯槽が狭いこと,及び(3)殻皮が輪肋状にならないこと(或は老成の故かもしれない)などで区別される。南海トラフと千島海溝の海底地形上の非連続性や共生細菌などの非一致性から千島海溝からの集団を南海トラフの個体群から隔離された亜種と扱うのが適当と考える。
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