Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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68 巻 , 3-4 号
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原著
  • Paul Callomon, Martin Avery Snyder
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 101-112
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,中国大陸沿岸および沖合いのイトマキボラ科に関する知見は急速に増大しつつあり,2006年以降にこの海域から4種の新種が記載されている。著者らは,この度中国沖の東シナ海からさらに新たなナガニシ属の種を見出したので,ここに新種として記載する。
    Fusinus emmae n. sp. シマリスナガニシ(新種・新称)
    殻はこの属としては中型(5個体の平均殻長104 mm,最大殻長105.9 mm),原殻は2.5~3層で,最初は平滑で膨れるが,最後の層では幅が狭まり弓状の細い縦肋が現われる。成殻はおよそ9層,初期の螺層は6本の主螺肋を具え,縦肋と交叉して顆粒状となる。主螺肋の間には二次肋があり,徐々に発達し,数も増えて,体層では主螺肋間に2~3本となる。縦肋は太く,肋間には多数の縦皺が認められる。水管はこの属として中庸の長さ,先端に向かって細まるがむしろ直線的。殻口は葉状,内部は白く陶器質で,外唇縁は薄い。軸唇の滑層は成熟するとやや遊離する。
    比較:中国本土,および台湾沖の東シナ海から知られているナガニシ属の近似種2種のうち,Fusinusdiandraensis Goodwin & Kosuge, 2008とは,初期螺層の螺肋の数が多く顕著であること,各螺層の主螺肋の位置が周縁かその下にあること,螺肋と縦肋の交差点が葉状となることなどで異なる。また,F.flavicomus Hadorn & Fraussen, 2006は,初期螺層に疣列を伴う2本の螺肋を持ち,周縁の疣列は体層まで持続することで区別される。そのほか,ナガニシF. perplexus(A. Adams, 1864) の一部の表現型のうち,特に日本海に分布する型に類似するが,彫刻が粗いこと,水管が太いことで区別される。
    タイプ産地:中国大陸沖の東シナ海,水深150~380 m。分布:東シナ海中国大陸沿岸の陸棚上,水深140~160 mの砂礫底から主に採集されるが,ホロタイプを含む幾つかの標本は350~380 mの深さから採集されたとされる。
    Fusinus sp.
    本研究において調べた標本の中には,少なくとも2つの一貫した形態の違いによって前種から区別される個体が見出された。すなわち,成熟サイズが前種(平均殻高104 mm,n=5)よりも小さく(平均殻高54.6 mm,n=11),縦肋がより弱くかつ数が多く,殻の全体に認められる。また水管はやや短く,より強く反り返る。しかし,同じサイズの個体を比較すると両者の違いはむしろ不明瞭で,ナガニシ類の他の種類で成熟サイズに大きなバリエーションを示す例があることを考慮すると,この場合も種内の表現型である可能性もある。
  • 濱谷 巌, 窪寺 恒己
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 113-120
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    深海性後鰓類シンカイウミウシ属Bathydorisの1種1個体が,北海道釧路沖の日本海溝の深海(3108~3265m)から採集された。本属の既知種は世界に9種あるとされ,何れも深海産で,本記録が追加され10種となる。シンカイウミウシ属は咽頭部が強大な顎板によって保護される。触角は左右が離れ,非退縮性で,触角鞘を欠く。鰓葉は個々に独立し非退縮性である。
    Bathydoris japonensis n. sp. ヤマトシンカイウミウシ(新種・新称)
    生時の背面は淡紫色を呈し,触角と鰓葉の基部は黒褐色の輪状色で囲まれる。固定標本は大形(体長125 mm)で楕円形。鰓葉は約12葉で約6群にまとめられ,円形に配列する。外形はB. ingolfianaに似るが,本種の雌性生殖門の外部の襞には切れ込みが無く平滑である。口球は大きく,歯式は49×n・1・n。中央歯は概ね台形で通常歯尖を欠くが,歯尖を有するものが稀にある。本種の側歯はすべて歯尖を有し歯尖は斜立する傾向があり,鋸歯を欠く。第1側歯は中央歯よりやや大きい。側歯列は外側歯に移るに従って,基板は次第に縦長の長方形を呈する。しかし数個の最外側歯の基板は次第に幅広く,縦方向が短くなる。歯尖は歯列の中程のもの程細長く,数個の最外側歯の歯尖は次第に短くなる。
    タイプ産地:北海道釧路沖の日本海溝(水深3108~3268 m)。
  • 中野 智之, 栗原 行人, 三好 博文, 樋口 滋雄
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 121-137
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    エゾボラ属Neptuneaは,エゾバイ科Buccinidaeの中で最も種数の多いグループであり,北極海から北太平洋,北大西洋の幅広い水深に分布している。これまでにエゾボラ属の系統分類は,形態学的にいくつかのグループに細分されているものの(例えば,Goryachev, 1987; Tiba & Kosuge, 1988; Fraussen &Terryn, 2007),それぞれの分類は整合的ではなかった。そこで本研究では,エゾボラ属の3亜属全ての模式種を含む10種を解析の対象とし,ミトコンドリアDNAの16S rRNAとCOI遺伝子の部分配列に基づき,分子系統解析を行った。その結果,エゾボラ属はNeptunea s.s., N. (Barbitonia), N. (Golikovia)の3つのグループに区分でき,Tiba & Kosuge (1988) の分類を支持する結果となった。また,三好・他(2009)で報告された遠州灘産のNeptunea sp.は,同所的に産出するヒメエゾボラモドキと遺伝的に異なり,さらには化石種ヨコヤマエゾボラN. yokoyamai Kuroda, 1961とノボリエゾボラN. noboriensis Ozaki,1956とも形態学的に区別できる事から,下記のように新種 として記載した。
    Neptunea mikawaensis n. sp. ミカワエゾボラ(新種・新称)
    殻長は7 cm前後。殻は紡錘型で丸みは弱く,なで肩である。殻表には数本の強い螺肋があり,螺肋の間には細い間肋がある。殻は茶褐色で,殻表には薄いフィルム状の殻皮がある。体層はやや膨れ,殻底はくびれる。縫合は不顕著。殻口内壁は紫褐色で,前管溝はやや長く突きでる。
  • 横川 浩治, 石川 裕, 濱村 陽一
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 139-149
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    カラマツガイSiphonaria japonicaは日本各地の海岸の岩礁帯に生息する普通種だが,殻が大きくて殻高が高い型(高頂型)と小型で殻高が低い型(低頂型)の2型が存在する。本研究ではこれら2型についてアイソザイム系遺伝子による遺伝的差異を調べ,両者の実体を明らかにすることを試みた。用いた材料は,高頂型は香川県高松市産の20個体,広島県呉市産の29個体,愛媛県愛南町産の16個体の3標本群,低頂型は広島県呉市産の45個体,愛媛県愛南町産の16個体の2標本群であり,外群として沖縄県西表島産のコウダカカラマツS. laciniosa 13個体,愛媛県愛南町産のシロカラマツS. acmaeoides 16個体も合わせて調べた。
    アイソザイム分析の結果,高頂型と低頂型に共通して17酵素を検出し計26遺伝子座を推定したが,両者の遺伝子組成は著しく相違し,18遺伝子座で対立遺伝子が完全置換かそれに近い状態であった。各標本群の遺伝子頻度からNeiの遺伝的距離(D値)を計算したところ,高頂型間のD値は0.0060~0.0126,低頂型間のそれは0.0181とかなり大きく,いずれも地域による遺伝的分化が大きかった。一方,高頂型と低頂型の間のD値は1.3882~1.5114となり,一般的な生物の種間の水準を超えて属間の水準に達していた。また2型間のD値は高頂型とコウダカカラマツとの間のD値よりも大きく,両者の遺伝的分化はカラマツガイ科既知種の種間水準より大きいことが示された。以上の結果から,カラマツガイの高頂型と低頂型は明らかに別種であるものと思われ,今後の分類学的整理が望まれる。
  • 白井 亮久, 近藤 高貴, 梶田 忠
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 151-163
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    琵琶湖固有の絶滅危惧種イケチョウガイと中国からの移入種ヒレイケチョウガイの交雑の実態を探るため,分子マーカーを用いて解析を行った。ミトコンドリアのCox遺伝子と核rRNA遺伝子のITS1領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,両種はいずれの分子マーカーでも区別されることが分かった。遺伝的組成を調べたところ,琵琶湖と霞ヶ浦の淡水真珠養殖場では両種の交雑に由来すると考えられる個体がみつかった。琵琶湖の養殖場は自然環境とは完全には隔離されていないため,逸出した養殖個体とイケチョウガイの野生個体との交雑が懸念される。姉沼の野生集団は移植された養殖個体の逸出に由来するものの,唯一交雑の影響を受けていない純粋なイケチョウガイの集団であると考えられるため,保全上非常に重要である。
  • 天野 和孝, 鈴木 明彦
    原稿種別: 原著
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 165-171
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    北海道東部の知床半島の上部中新統ルシャ層から,記載が不十分であったArchivesica shiretokensis(Uozumi,1967)シレトコシロウリガイ(新称)の追加標本が採集された。本種はシロウリガイ属としては北海道ばかりでなくオホーツク海沿岸からの唯一の化石記録である。また,後期中新世は日本におけるシロウリガイ属が出現した時期に相当する。採集された標本の記載は以下のとおりである。
    Archivesica shiretokensis(Uozumi,1967)シレトコシロウリガイ(新称)
    殻は長楕円形で,大きく最大殻長152.6 mm,殻高67.6 mmに達する。腹縁は弱く凹む。殻頂は殻長の1/5前方に位置する。右殻の前主歯は小さく薄い。中主歯は板状で,前方に傾く。後主歯は薄く,後方に傾き,弱く二分される。殻頂下洞は小さく,浅い。套線はごく広く,浅い。
    産地:北海道斜里町ルシャ川2.3 km上流
    比較:殻の大きさや外形は現生種のシロウリガイArchivesica soyoae(Okutani,1957)に類似する。また,右殻の主歯はシロウリガイの幼貝に類似する。しかし,殻頂はより前方に位置し,右殻の中主歯が前方に傾斜し,後主歯の傾斜がゆるい点でシロウリガイの成貝と異なる。
短報
  • 中山 大成
    原稿種別: 短報
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 173-175
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    和歌山県立自然史博物館に所蔵されている永井誠二氏のコレクション中に見出された日本産イトカケガイ科の1新種を記載する。
    Opalia levis n. sp. カタイトカケガイ(新種,新称)(Figs. 1~6)
    殻は10~12 mmの小型で厚く,尖塔形。灰白色。各層に不規則な縦張肋をなす。胎殻は平滑で円錐形,浸蝕されていることが多い,体層は強い角張りの底盤を持つ。次体層は10層内外で,殻表は繊細な微穴からなる螺列と非常に弱い縦肋を持つ。殻口は楕円形で外唇厚くなるが著しい張り出しにはならない。
    ホロタイプ:殻高 11.0 mm; 殻径3.5 mm(WMNH-Mo-Na-765)。
    パラタイプ1:殻高11.8 mm; 殻径 3.5 mm(WMNH-Mo-Na-57),紀伊半島沖水深80~160 m。
    パラタイプ2:殻高10.0 mm; 殻径 3.8 mm(WMNH-Mo-Na-764),奄美大島沖水深80 m。
    タイプ産地:和歌山県串本町沖,水深80 m。
    分布:紀伊半島沖水深80~160 m,奄美大島沖水深80 m。
    比較のためにネダケイトカケガイCompressiscalajaponicus Masahito & Habe, 1976 殻高14.5 mm;殻径 5.8 mm(三宅島沖水深90 m; WMNH-Mo-Na-505)(Figs. 7, 8)を図示した。ネダケイトカケガイは強い縦肋と大きく傾いた底盤,底盤周縁の竜骨が大きいことで区別できる。
  • 小野田 剛, 鈴鹿 達二郎, 武内 有加, 小長井 利彦, 冨山 清升
    原稿種別: 短報
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 176-178
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    フトヘナタリCerithidea rhizophorarumが交接の際に♂個体が精包を形成して♀個体に受け渡していることがわかり,受け渡し行動を連続写真で示した。精包は乳白色で,大きさは直径約0.5 mm,長さ約3 mmの紡錘形であった。本種は,交尾のための特別な器官をもたず,精包は,♂の頭部の軟体部表面を滑走させて♂から♀に受け渡されることがわかった。精包受け渡しに要する時間は20~25秒程度で,平均20分間かかっている交接行動全体からするとごく短い時間であることがわかった。
  • 栗原 行人, 時田 徹
    原稿種別: 短報
    2010 年 68 巻 3-4 号 p. 179-182
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    Halicardia houbricki Poutiers & Bernard, 1995フーブリックオトヒメゴコロ(和名新称)は熱帯西太平洋のボルネオ島沖の漸深海帯から単一個体に基づいて創設され,原記載以来その産出記録が知られていない稀産オトヒメゴコロガイ科二枚貝である。著者の一人時田は千葉県鴨川市(旧天津小湊町)の海岸に分布する上部中新統安房層群天津層由来の泥岩転石からフーブリックオトヒメゴコロに比較される化石標本3点を採集した。天津層産の化石標本は変形を受けているが,いずれも殻表面に6本の放射肋を持っている。この特徴はニッポンオトヒメゴコロガイ属では唯一フーブリックオトヒメゴコロに特有のものであることから同種に比較できるが,保存不良のためHalicardia sp. cf. houbrickiと同定した。今回の発見は,フーブリックオトヒメゴコロ種群が後期中新世において北西太平洋に分布していたことを示しており,熱帯インド―西太平洋地域の深海性生物相の起源を考える上で重要である。
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