Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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69 巻, 1-2 号
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原著
  • 齋藤 寛, Luitfried von Salvini-Plawen
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 1-15
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    沖縄島から伊豆半島にかけての南日本の水深26~96 mで採集された橙赤色斑をもつ溝腹類を分類学的に検討した結果,シタナシホソヒモ科クシノハホソヒモ属の新種と判断されたため記載した。
    Anamenia amabilis n. sp. ベニツケクシノハホソヒモ(新種・新称)
    体長50 mm, 体幅2 mmに達する。体は細長く,背部に短い橙赤色横帯が多数並ぶ。橙赤色帯はしばしば癒合し,唇状,環状となる。体表のクチクラ層は厚く中空の小棘で被われる。前腸は長く,中間部に2列式櫛歯状の歯舌をもつ。歯舌は11~14横列で,各歯11~16の細長く伸長した歯尖をもつ。歯舌付近に開口する前腸腺はタイプB(上皮下に杯部が発達し,これを筋肉質の薄膜が被う)。1対の産卵管は全長にわたり癒合することなく存在し,囲心管との接合部付近に左右各13~17個の受精嚢が附属する。背端感覚器官は1個。交尾針と呼吸器官(二次鰓)を欠く。ベニウミトサカScleronephthya gracillima上に棲息する。
    ホロタイプ NSMT-Mo 73149, 19 mm × 1.2 mm
    タイプ産地 沖縄島南西ナガンヌ島沖, 26°14.50′N, 127°32.00′E, 水深53 m。
    備考 本属には7種が知られるが,本種は歯舌が前腸中央部付近にあり,その後部に長い食道が発達することでA. amboinensis(Thiele, 1902)およびA. farcimen(Heath, 1911)に類似するが,本種は食道が後方に伸び,2列式の歯舌を持つことでA. amboinensisと区別され,歯舌の歯尖が細く,先が糸状に伸張することや,足襞後端が外套腔に入らずに終わること,体の腹部筋肉層が厚いことなどでA. farcimenと区別される。
  • 松田 春菜, 上野 大輔, 長澤 和也
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 17-23
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    沖縄県大浦湾の砂底から採集されたフタツアナスカシカシパンEchinodiscus tenuissimusの腹面に見出されたハナゴウナ類をHypermastus ryukyuensis n. sp.フタツアナスカシカシパンヤドリニナ(新称)として記載した。カシパンヤドリニナ属には30種が知られており,フタツアナスカシカシパンヤドリニナはインド西太平洋から報告されたH. tenuissimaeH. serratusH. auritaeに外形が似る。しかし,それらとは胎殻が約2.5層で微突起状に突出し,後成殻から急激に幅が増大する点,螺層の側面がほぼ直線状である点,殻口が比較的小さく外唇縁が前方に傾き,縫合下で湾入することなく滑らかに湾曲する点で区別できる。本種は大小の個体がペアでいることが多く,同属の他種のように大型個体が雌,小型個体が雄と考えられる。日本には本種を含めてカシパンヤドリニナ属3種が認められることになる。フタツアナスカシカシパンからは同属のH. tenuissimaeが知られる。
  • 松田 春菜, 浜野 龍夫, 堀 成夫, 長澤 和也
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 25-39
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ヨツアナカシパンとハスノハカシパンより採集したハナゴウナ科貝類標本とタイプ標本を検討した結果,カシパンヤドリニナHypermastus peronellicolaとトクナガヤドリニナHypermastus tokunagaiにそれぞれ同定されることが明らかになった。標本の形態観察及び計測による比較を行った結果,両種は以下の特徴により区別できた;1)カシパンヤドリニナに比べてトクナガヤドリニナの殻は細長く,殻口は小さい;2)後成殻層の高さと幅の比率がカシパンヤドリニナでは緩やかに変化するのに対し,トクナガヤドリニナでは急激に変化する。側面はカシパンヤドリニナでは各層が凸状に膨らむが,トクナガヤドリニナではほぼ直線状となる;3)カシパンヤドリニナの外唇縁はS字状で,中央より少し上の部分が最も突出するのに対し,トクナガヤドリニナでは扇形に湾曲して中央部が突出する。また,トクナガヤドリニナでは縫合線が一度下がって外唇縁に繋がるのに対し,カシパンヤドリニナでは直接外唇縁に繋ぐ;両種は寄生様式が大きく異なり,カシパンヤドリニナが宿主の殻に孔をあけて吻を体腔まで伸ばしていたのに対し,トクナガヤドリニナは吻を吸盤状にして宿主の表面にくっつけて寄生していた。したがって,両種の摂餌様式も異なる可能性が示唆された。
  • 伊藤 寿茂, 柿野 亘, 吉田 豊
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 41-48
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    栃木県東部の水田用水路に生息するヨコハマシジラガイのグロキディウム幼生の宿主となる生物を調べた。
    生息地においてその寄生を受けていると想定される7種類の魚類(カワムツ類,タモロコ,フナ類,ドジョウ,シマドジョウ,ホトケドジョウ,トウヨシノボリ)を採集し,実験水槽内で継続飼育して,魚体から離脱してきた幼生を観察,計数したところ,ホトケドジョウ,トウヨシノボリ,カワムツ類の3種より,変態を終了させた稚貝が得られた。全離脱数に占める稚貝の出現率はホトケドジョウで83.3%,トウヨシノボリで 89.3%,カワムツ類で6.3~25.0%であった。
    次に,同生息地において8種類の魚類(カワムツ,ヌマムツ,タモロコ,キンブナ,ドジョウ,シマドジョウ,ホトケドジョウ,トウヨシノボリ)とニホンアマガエル幼生を採集し,10%ホルマリン水溶液で固定して魚体に寄生した幼生の状態を観察,計数したところ,上述の3魚種の体に寄生が見られた。寄生部位は大部分が鰓弁であり,ホトケドジョウのみ各鰭や鰓蓋の内側,鰓耙にも寄生が見られた。寄生幼生の被嚢率はトウヨシノボリとホトケドジョウでは92.2%以上と高かったのに対して,カワムツではやや低く75.0%であった。
    これらの結果から,カワムツとトウヨシノボリに加えて,新たにホトケドジョウがヨコハマシジラガイの宿主として有用であることが確かめられ,稚貝の出現率が高い種では,寄生数,被嚢率が高くなる傾向が認められた。
  • 河合 渓
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 49-58
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ウミウサギガイOvula ovum(Linnaeus, 1758)は数個体で集団を形成し,それらの多くは雌雄のペアであると指摘されているが,その明確な理由が解明されていない。そのため,ウミウサギガイのペア形成と繁殖行動の関係について鹿児島県南薩摩市坊津の小さな湾内において2004年5月から2006年10月まで野外観察を行った。調査地の水温は8月ごろに最高水温30°Cを,3月ごろに最低水温15°Cを示す。対象とする個体群では殻長0.9 cm から9.8 cm の個体が観察され,成熟サイズは約7 cm,繁殖期間は低水温期とその後数ヶ月以外ということがすでに報告されている。ペア形成のタイプは大きく4つのタイプに分けられる:(1)2個体が近くに位置するペア,(2)交尾を行っているペア,(3)産卵を行っているメスの近くに他個体が位置するペア,(4)産卵を行っているメスの上にオス個体が位置し,交尾を行っているペア。観察されたペア形成数と繁殖個体数に有意な相関関係が見られた。ペア個体間の距離は繁殖期間中に短くなっており,ペア個体数は繁殖期間中に有意に多く観察された。また,ペア形成個体の追跡観察の結果,観察されたペアのうち44%のペアがなんらかな繁殖行動に関与していた。繁殖期間中には粘液で形成された透明な帯状物が数mにわたり形成されており,これがペア形成に大きく関与する可能性が考えられる。これらの結果はウミウサギガイのペア形成は明らかに繁殖行動と大きく関係していることを示している。
  • 松田 春菜, 浜野 龍夫, 長澤 和也
    原稿種別: 原著
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 59-70
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ハナゴウナ科トクナガヤドリニナHypermastus tokunagaiは不正形ウニ類のハスノハカシパンScaphechinus mirabilisの体表に寄生する。ハスノハカシパン個体群におけるトクナガヤドリニナの分布様式を明らかにするため,山口県東部の瀬戸内海沿岸2ヶ所(馬島,尾国)の個体群で枠取り調査を行った。馬島沿岸におけるハスノハカシパン個体群は帯状を呈しており,その密度は帯の中心線に当たる部分で高かった。1 m2当たりのトクナガヤドリニナ個体数はハスノハカシパンの高密度域で高かったが,寄生率(寄生を受けた宿主の割合)や平均寄生数(宿主1個体当たりの平均寄生数)は,ハスノハカシパンの分布縁辺部の低密度域で高かった。この結果は,トクナガヤドリニナの寄生がハスノハカシパンの分布範囲全体に及んでおり,特に宿主のハスノハカシパンが多い場所ほど多く分布していたことを示す。また,尾国沿岸においてトクナガヤドリニナの寄生状況と潮位,アマモの分布,底質との関係を調べたところ,潮下帯上部のハスノハカシパンほど頻繁かつ多数の寄生を受けていることが明らかとなった。このような分布様式を示す要因として,トクナガヤドリニナの幼生が潮下帯においてハスノハカシパン個体群の広範囲に浮遊・到達し,その上部及び高密度域により多く定着する可能性が考えられる。
短報
  • Roland Houart
    原稿種別: 短報
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 71-74
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    台湾北東沖の彭佳嶼水深80~200 mからアッキガイ属の新種Murex (Murex) huangi n. sp.を記載した。得られた4個体の標本はいずれもエビ底曳き網で得られた死殻であった。本種はこれまで知られている同属のすべての現生種とは明瞭に異なるが,インドネシア・ジャワ島の鮮新世から記載された2種Murex ejectus Martin, 1895とM.lebacanus Martin, 1895にはやや近似する。しかし,本種の殻はより太く,重厚で,肩が張り,異なる彫刻を持つことで区別できる。また,台湾の化石貝類のモノグラフ(Hu & Tao, 1991)にも比較されるべき種類は見当たらない。
  • 福田 宏, 河辺 訓受
    原稿種別: 短報
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 75-79
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ウスコミミガイの学名 Laemodonta exaratoides は黒田(1953, 1958, 1963)によってMS名として公刊されたが,形態の記載文を伴わなかったため長らく不適格名のままであった。黒住(2000)は本種の学名 L. exaratoides の命名者・命名年を「Kuroda, 1957」[正しくは1958]としており,増田・内山(2004),中本他(2007),濱田(2008),早瀬他(2009),野田他(2009)もこれを踏襲しているが,黒田(1958)は分布域に言及しているのみで形態の記載は行っていないため,これを本種の原記載と見なすのは適切でない。
    河辺(1992)はこの学名とともに形態の記載文及び殻の写真を公表したため,その時点で国際動物命名規約上の適格名となった。しかし河辺の原記載は簡素な日本語のみで,ホロタイプやパラタイプの指定も行っていない。これ以後本種は多くの著者によって言及されてきたが,英文による記載は黒住(2000)を除いていまだ存在しない。
    本種は同属の L. exarata (H. & A. Adams, 1854)(恐らくイササコミミガイ), L. monilifera( H. & A.Adams, 1854) マキスジコミミガイ, L. octanflacta(Jonas, 1845) イササコミミガイ, L. siamensis(Morelet, 1875) クリイロコミミガイと殻の形態が近似するため,従来よりしばしば同定が混乱していた。その一方で,ウスコミミガイは近年絶滅が危惧され,生物多様性保全上の重要種として多数のレッドデータブックに登載されるようになった。このため,本種の同定を今後より確実なものとするために,河辺(1992: 6, fig. 1)で図示された個体をレクトタイプ(国立科学博物館所蔵 NSMT-Mo77001)に選定する。タイプ産地は神奈川県三浦市三崎町小網代・小網代湾最奥部北岸(北緯35°09′49″, 東経 139°37′37″)である。レクトタイプはこの種としては著しく大型(殻長 8.7 mm,殻径5.1 mm)の老成個体で,体層上に38本,次体層上に8本の螺肋を巡らし,本種の幼若個体に見られる殻表の微細な殻毛は失われている。
  • 後藤 龍太郎
    原稿種別: 短報
    2010 年 69 巻 1-2 号 p. 80-83
    発行日: 2010/10/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    奄美大島笠利湾の礫混じりの砂泥干潟に棲息するシカクナマコStichopus chloronotusの呼吸樹よりハナゴウナ科の一種Megadenus cantharelloidesを記録した。本種は,インド洋のアルダブラに棲息するシカクナマコの消化管の内壁に寄生する個体に基づいて記載されたが,その後ニューカレドニアで記録されて以来,報告がなかった。今回の報告はM. cantharelloidesの世界三番目の産地であり,Megadenus属の日本初記録でもある。本種の和名としてシカクナマココノワタヤドリニナを提案する。本記録により,シカクナマココノワタヤドリニナはインド洋からに日本にかけて広く分布し,その寄主はシカクナマコのみであることが明らかになった。2009年5月に行った笠利湾での観察結果では,採集したシカクナマコの4%にシカクナマココノワタヤドリニナが寄生しており,1匹のシカクナマコの呼吸樹から最大で3個体が見つかる例も観察された。
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