Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
Online ISSN : 2189-7697
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72 巻 , 1-4 号
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原著
  • Brian Morton, 芳賀 拓真
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 1-11
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    黒潮影響下にある本州太平洋岸の水深 05~100 m より得られた Clavagellidae ハマユウガイ科 Dianademaダイアナハマユウ属(新称)の1新種を,Dianadema ikebei n. sp. カクレハマユウ(新種・新称)として記載する。なお,属のタイプ種である Dianadema multiangularis(Tate, 1887)には,ダイアナハマユウの和名を新称する。
    本新種は殻長 ~810 mm,殻質薄く,灰白色。殻,石灰管ともに形態的変異が大きい。石灰管の腹部前方でもって他物に固着する。左殻はその全周が石灰管(adventitious crypt)の前部に癒着するが,右殻は石灰管の内部で遊離している。殻の背方外部にある背方小管(dorsal crown of tubules: 和術語新称)はよく発達し,前後に明瞭に2分割される。水管被管(adventitious tube: 和術語新称)は短く,約45°の角度で斜めに立ち上がる。閉殻筋跡は大きく丸く,不等で,後閉殻筋跡のほうが大きい。本新種は,1)長円形の丸い殻をもつこと,2)殻頂下に達する深い套線湾入があること,そして)3水管被管の前端断面がD型であることから,同属の全ての他種と容易に区別される。本新種はタイプ産地である和歌山県みなべ町堺沖のほか,千葉県館山市の沖ノ島沖からも知られる。
    ダイアナハマユウ属は,弾帯受に載った内靭帯をもつこと,殻の背方外側に背方小管を生じること,石灰管の腹部前方で他物に固着することなどの特徴をもつため,同科の他属と区別される。本属の現生種は熱帯~亜熱帯域にかけて分布するとされるが,これまでオーストラリア周辺の南西太平洋に2種,そしてモーリシャス周辺のインド洋に1種の計3種が知られるのみであった。よって,本新種の発見は同属の日本及び北西太平洋,そして温帯域からの初記録となる。
    本新種はこれまでに僅か5個体の死殻が知られるに過ぎない稀産種である。しかし,保存良好な標本群の検討によって,本新種はダイアナハマユウ属の種としては例外的に岩内生 (endolithic) であり,弱く固結した非生物起源の堆積岩中に穿孔性二枚貝類が穿った巣孔の内壁や,その穿孔穴を二次利用するマツカゼガイなどの死殻内面,そして先行して生活していた本新種の別個体の死殻内面などに固着して生活すると推定された。本新種は二枚貝などの穿孔生物によって提供される隠蔽的環境に特化して棲息しているものと考えられる。その発見は,サンゴ礁域で示されているように,穿孔活動によって提供される隠蔽的環境が,非生物起源の硬基質環境においても種の多様性創出に寄与することを示唆する一例と言えるかも知れない。
  • 久原 瞳子, 狩野 泰則, 吉越 一馬, 橋本 惇
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 13-27
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    奄美大島西方水深601~646 m海域における長崎大学附属練習船長崎丸のビームトロール調査により,ツキガイ科のアツセンベイツキガイElliptiolucina ingens Okutani, 2011の生貝標本24個体が採集された。この二枚貝は同海域の水深576~594mから得られた死殻4個体に基づき新種として記載されたものである。E. ingensの原記載と長崎丸調査による生貝標本を比較したところ,殻形態の変異幅,筋痕の特徴など貝殻形質にいくつかの相違が認められた。これはタイプ標本がやや摩耗した状態であり,その数が少ないことに由来すると考えられたため,新標本に基づき種の再定義を行った。また,同属において初となる軟体部形態観察の結果,本種はmantle gillならびにapertural papillaeを欠き,長いmantle fusionを備えることが分かった。櫛鰓組織切片の光学顕微鏡観察では,細胞内に共生する細菌および顆粒細胞を確認した。18Sおよび28S rRNA遺伝子塩基配列を用いた分子生物学的解析の結果,ツキガイ科二枚貝類は 1)Lucininaeウメノハナガイ亜科とCodakiinaeツキガイ亜科からなるクレードと 2)Leucosphaerinae亜科,Pegophyseminaeカブラツキガイ亜科,Fimbriinaeカゴガイ亜科,Monitilorinae亜科及びMyrteinaeケシツブツキガイ亜科を含むクレードに大別された。アツセンベイツキガイは,ケシツブツキガイ亜科のMyrteaケシツブツキガイ属,Notomyrteaワタゾコツキガイ属やGloverina属に近縁であることが示された。
  • 横川 浩治
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 29-48
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    日本産ヨメガカサガイ科貝類7種(マツバガイ,ヨメガカサ,ベッコウガサ,オオベッコウガサ,クルマガサ,カサガイ,シワガサ)と1亜種(アミガサ)について殻形態の成長に伴う変化を調べた。成長に伴う殻形態変化では,多くの種または亜種で殻径,殻高,内面着色域径などが成長に伴って相対的に大きくなり,特にマツバガイとカサガイでは殻のほとんどの部位で成長に伴う相対的増大がみられた。一方ベッコウガサとクルマガサでは殻の全部位で成長に伴う変化はなく,またシワガサでは殻高が成長に伴って相対的に小さくなることが特徴的であった。殻頂の相対的な位置はカサガイでは成長に伴って後方に移動するが,それ以外の種と亜種では殻頂の相対位置は個体サイズに関係なく一定であった。計数形質としてマツバガイの放射彩数およびアミガサとカサガイの放射肋数を調べたところ,これらすべてで成長に伴う顕著な増加がみられた。内面着色域の色彩は種ごとにかなり独自性がみられたが,オオベッコウガサとカサガイでは成長に伴う明瞭な変化がみられ,小型個体にみられる暗褐色の地色の上に別の色の新たな層が徐々に形成されていくものと考えられた。以上のように,日本産ヨメガカサガイ科貝類では成長に伴って殻の多くの形質が変化し,そのパターンには顕著な種特異性があることが明らかになった。
  • Enrico Schwabe, Cory Pittman
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 49-64
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    ハワイ諸島沿岸海底から採集した砂中より選別した多板類の殻板を調べた結果,同諸島では初記録となる4属4種を確認した。このうちの1種はフロリダ自然史博物館にも液浸標本1個体を見出せたので必要な分類形質を観察したところ,未記載種であることがわかり,新種として記載した。
    Weedingia paulayi n. sp.
    ホロタイプ:体長約5 mm,体幅2.2 mm(FLMNH UF 415631), French Frigate Shoals, 23.8732°N,166.2348°W,礁嶺(reef crest),1~4 m。殻板は厚く,殻表には明瞭に区別される平滑な背域を除いて丸い顆粒列がある。尾板は丸く,尾殻頂は後端。縫合板は互いに遠く離れる。着生版はよく発達するが歯隙を欠く。狭い肉帯を被う小棘は短く,先端は鈍く,強い肋をもつ。歯舌大側歯は3尖頭。いずれもポリネシアから知られる同属の3種とは尾板や背域の形態が異なることで明瞭に区別できる。
    新記録種は次の3未詳種:Leptochiton sp. サメハダヒザラガイ属の1種,Ischnochiton sp. ウスヒザラガイ属の1種,Lucilina sp. アヤヒザラガイ属の1種。ハワイ諸島の浅海域にはこれまで4科4属5種の多板類が生息することが知られていたが,本研究によって6科8属9種が生息することが明らかとなった。
  • 天野 和孝, 葉室 麻吹, 葉室 俊和
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 65-76
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    富山県西部の高岡市五十辺(いからべ)に分布する下部更新統板屋層から暖流系二枚貝であるビョウリツハナイタヤガイPectenPectenbyoritsuensis Nomura, 1933とホクロガイOxyperasOxyperasbernadi (Pilsbry, 1904)が産出した。どちらの種も日本海側では, 化石として産出が珍しい種であるが,これまでの化石記録を含めて検討した結果,これらの種は日本海には前期更新世に出現したことが明らかとなった。ビョウリツハナイタヤガイは前期更新世末に日本海の環境悪化により絶滅したが,ホクロガイはイタヤガイやカズウネイタヤと同様に広範囲に分布していたため氷期を生きのびた。貝化石群の組成や地質年代から,小矢部市田川の下部更新統大桑層は従来対比されてきた頭川層ではなく, その上位の板屋層に対比されることも明らかとなった。
  • 伊藤 寿茂, 北野 忠, 唐真 盛人, 藤本 治彦, 崎原 健, 河野 裕美
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 77-87
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    2006年に国内で初めて記録された石垣島のドブガイモドキについて,幼生の採集を試み,幼生が寄生している魚種を調査するとともに,実験飼育下で宿主として機能する魚種を確認した。
    島内の生息地においてプランクトンネットをひき,幼生の採集を試みるとともに,採集した成貝を継続飼育し,放出した幼生を採集した。幼生の殻の形状は亜三角形で腹縁に鉤を持つAnodonta型であり,殻長,殻高,殻幅の平均はそれぞれ221.5 μm,228.0 μm,108.3 μmであった。
    次に,現場で採集した幼生の寄生を受けていると想定される6魚種(ギンブナ,グッピー,タイワンドジョウ,ティラピア類,オカメハゼ,タウナギ)と,飼育下で放出された幼生を人為的に寄生させた12魚種(コイ,キンギョ,タイリクバラタナゴ,ドジョウ,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類)を実験水槽内で継続飼育して,魚体から離脱してきた幼生を観察,計数した。その結果,ヒレナマズ,メダカ,グッピー,タイワンキンギョ,オカメハゼ,タナゴモドキ,ゴクラクハゼ,ヨシノボリ類の8魚種より,変態を完了させた稚貝が出現した。寄生期間中に幼生サイズの増大や外形の著しい変化は見られなかった。全離脱数に占める稚貝の出現率は魚種によって差があり,タイワンキンギョ,グッピー,ヨシノボリ類において,特に出現率が高かった。
    次に,同生息地において採集した6魚種(ギンブナ,カダヤシ,グッピー,ティラピア類,オカメハゼ,タナゴモドキ)を10%ホルマリン水溶液で固定して,魚体に寄生した幼生の状態を観察,計数したところ,グッピーとティラピア類の体に寄生が見られた。寄生は鰓や各鰭のほか,鰓蓋の内側,鰓耙にも見られた。幼生の相対寄生密度および被嚢率はグッピーの方が高かった。
    石垣島を含むドブガイモドキの生息地においては,その幼生の宿主として,在来種,外来種を含む複数の魚種が宿主として機能している可能性がある。特に,石垣島では,生息する魚の大部分を外来種が占めており,中でもグッピーが主な宿主として機能していることが判明した。このことから,石垣島内における宿主魚類の移入による分布拡大が,ドブガイモドキの分散に寄与した可能性がある。
  • 増野 和幸, 鳥越 兼治
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 89-108
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    The classification of land snails of the genus Trishoplita is difficult due to large intraspecific variation in the shell and internal morphology. We studied geographic variation in four subspecies of T. eumenes (mainly T. eumenes cretacea) and T. pallens, using statistical analyses of the shell morphology and character comparisons of the soft body. Overall, three types (Groups A–C) were distinguished in the shell morphology of T. eumenes cretacea. Among them, Groups A and B also had similar characteristics in terms of the branch number of the mucous gland and the shape of the love dart. However, more black spots were present on the mantle of individuals in Groups A and C than in Group B. Based on these characteristics, geographic differentiation of the three groups of T. eumenes cretacea is discussed. The subspecies T. eumenes eumenes and the related species T. pallens share similar morphological characters.
  • 酒井 治己, 高橋 俊雄, 古丸 明
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 109-121
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    Allozyme variability in the androgenetic freshwater clams Corbicula leana from Japan and the exotic C. fluminea were investigated. A total of 462 individuals of C. leana from 19 localities throughout the distribution range of the species were monomorphic at three allozyme loci as well as in purple inner shell color. Corbicula fluminea from three localities, on the other hand, was variable in shell color; with white, purple, white with purple flash, or deep purple examples. The present results suggest that they may include several clonal lines with different shell colors and allozyme genotypes. We discuss possible diversification of freshwater clams among bisexual species and hermaphroditic clones through clonal capture, genome capture, or ploidy elevation.
  • 秋山 吉寛, 水野 真希, 白井 正樹, 夏原 由博
    原稿種別: 原著
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 123-130
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    We examined the effects of the anesthetic agent MS-222 on glochidial viability in Anodonta japonica, the parasitization rate of the glochidia on the host fish Gymnogobius urotaenia and the metamorphosis rate into juveniles in vitro. Snap frequency of the glochidial valves decreased with an increase in MS-222 concentration. Likewise, parasitization success of the larvae on the gills of G. urotaenia was reduced when the host fish was exposed to an MS-222 solution(150 mg-1L)for five minutes prior to introducing the glochidia to the fish. Metamorphosis success(juveniles/free-living larvae ratio)was reduced by 50% when the host fish was anesthetized with MS-222, though the effect of the anesthetic agent was not detectable statistically. These suggest that glochidial viability and parasitization rate data obtained from previous studies using MS-222 may have contained an artifact. Therefore, future studies on the parasite-host relationship between unionid glochidia and host fishes when MS-222 is used should consider the effect of the anesthetic agent on unionid glochidia.
短報
  • 湊 宏
    原稿種別: 短報
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 131-134
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    大阪府金剛山から報告されていたキセルガイ科貝類は,さらに和歌山県と奈良県にも分布していることがわかったので,既知種と比較した結果,未記載種と確認したのでここに記載をした。
    Tyranophaedusa (Aulacophaedusa) matsumurai n. sp.シロモリサキギセル(新種)
    貝殻は本亜属の中では大形(平均殻長12.75 mm,平均殻径2.95 mm, 13個体),殻表は淡黄白色,またはクリーム系白色,左巻きで棍棒状の高円錐形状を呈する。螺層は10.5層で,各層はわずかに膨れる。殻表には細かい成長脈が現れる。胎殻は2層,平滑で鈍形で,初層は2層,大きくて円筒形状である。殻口はむしろ小さく,洋梨形状。殻口縁は白色,肥厚して外に向かって反曲する。上板は顕著で殻口縁に達し,内部にある螺状板と連結している。上板の右側の殻口縁には微細な切れ込みが存在している。下板は後退的で,殻口を傾けるとかすかに見える。下軸板は深く潜在して,殻口からはまったく見えない。主襞は側位で多少は短く,殻口からは傾けるとかろうじてその終端がみえる。上腔襞がない。月状襞は良く発達して側位に位置して,その上部は弧状に曲がる。月状襞の下部は短い下腔襞に連結している。閉弁は細長く,その先端部は多少尖っている。そして内側の柄状部の基部に浅い切れ込みがある。生殖器の陰茎と陰茎鞘が短大であること,盲管と受精嚢部の長さの比較では,前者の方が長いことなどが種的な特徴である。
    タイプ標本:ホロタイプ, NSMT-Mo 78631, 殻高12.4 mm,殻径3.0 mm。
    タイプ産地:大阪府千早赤坂村・金剛山。
    分布:大阪府:金剛山。和歌山県:紀美野町・箕六, 高野町湯川。奈良県:宇陀市・室生寺,高取町;高取城跡。
    比較:本新種は徳島県城王山から記載され,徳島県北部と香川県南部に分布するモリサキギセルT. (A.) morisakii (Kuroda & Abe, 1980) に似るが,殻色が淡黄白色か,またはクリーム系白色であること,貝殻はずんぐりしている殻形であること,主襞が短いことなどで容易に識別される。タイプ産地において,本新種とともに同所的に出現するホソヒメギセル T. (A.) gracilispira (Möllendorff, 1882) は,貝殻がより小形(殻高9 mm)で,月状襞を欠くことで異なる。さらに兵庫県淡路島から記載されたクロチビギセル T. (A.) aulacophora (Pilsbry, 1900) は本新種に似ているが,殻色が暗赤褐色であること,貝殻サイズがより小さい(殻高9.5~11 mm)こと,プリカの形態の違いで相違する。なお,本種は湊・室原(2011)でも取り上げられ,モリサキギセル近似種B(シロモリサキギセル:新称)として提唱されたことがある。
  • 湊 宏
    原稿種別: 短報
    2014 年 72 巻 1-4 号 p. 135-138
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    最近,徳島県鳴門市の大毛島から新たにミカドギセル属の未記載種が見つかったので,ここに記載する。
    Tyrannophaedusa (Tyrannophaedusa) fukudainadai n. sp.ナルトギセル(新種)
    貝殻は本属の中では小形(11個体の平均殻高12.8 mm, 平均殻径3.08 mm),棍棒形状,螺層は8.5層で淡黄白色からクリーム白色を呈する。各螺層はわずかに膨れ,縫合は浅い。殻表にはかすかな成長脈をもち,光沢がない。殻口はむしろ小形で洋梨形状を示し,殻口の外唇の背後には顕著な隆起部(クレスト)が認められる。上板は殻口縁に達して,むしろ高く位置してやや傾くが,貝殻の内部では螺状板とは接続しない。下板は後退的,不顕著で殻口からは見えない。下軸板は殻口縁にかろうじて現れる。大半の腔襞は前面に位置する。主襞はむしろ短く,前面から側面にいたるが,殻口からは見えない。月状襞は真っ直ぐで顕著,傾いた上腔襞と下腔襞と繋がっている。下腔襞は上腔襞よりも長く,月状襞と繋がった付近からは,さらに下方に伸びている。上腔襞は下腔襞と長さを比較して,短い。閉弁の弁状部は長い舌状の形状を示し,殻軸側は少し肥厚しながら,先端部に向けて多少突き出る。柄状部の基部に多少の切れ込みがある。生殖器の特徴は,陰茎鞘の始めの部分が肥厚して膨れていること,さらに受精嚢柄部の長さと盲管の長さの比較では,後者がはるかに短いことが特徴である。
    タイプ標本:ホロタイプ, NSMT-Mo 78633, 殻高12.7 mm, 殻径5.0 mm。
    タイプ産地:徳島県鳴門市大毛島。
    分布:徳島県(タイプ産地以外からは記録がない)。
    比較:貝殻の外観と殻色から,本新種は約200 km 離れた高知県鵜来島をタイプ産地とするスギモトギセルTyrannophaedusaDecolliphaedusasugimotonis sugimotonis Minato & Tada, 1978に最も類似するが,殻口背後に強い隆起部(クレスト)をもつこと,すべての腔襞(プリカ)が前面(腹面)に位置していること,上・下腔襞が月状襞(ルネラ)と繋がって,I型となって前面に位置すること,生殖器の陰茎鞘始端部が異常に肥厚すること,受精嚢部までの長さと盲管の長さの比較では後者の方が多少短いことで識別できる。貝殻の腔襞が前面に位置する形態がI 型になることから,本新種はまた伊吹山系に広く分布するシリボソギセルTyannophaedusaTyannophaedusaiotaptyx (Pilsbry, 1900) に類似するが,後者は螺層が11層と多いこと,殻色が淡黄褐色であること,殻口外唇の背後に顕著な隆起部がないこと,さらに生殖器の陰茎鞘が細くて膨れない形態であることによって,本新種とは容易に識別される。なお,本種は多田・他 (2013: 52)により“Tyrannophaedusa sp. ナルトギセル”として報告されている。
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