Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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73 巻 , 1-2 号
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原著
  • Roland Houart, Christopher Owen Moe, 陳 充
    原稿種別: 原著
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 1-14
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    オガサワラガンゼキ属Chicomurex(下に述べるようにタイプ種C. superbusは最近クマドリガンゼキに修正された)は,Chicoreus属の亜属やPhyllonotus属の異名とされることもあったが,歯舌の形態の違いなどから,現在では独立の属と認められている。フィリピンにおける本属の分布記録を整理すると,まずSpringsteen & Leobrera(1986)はChicoreus属としてC. superbus(G. B. Sowerby III, 1889),C. laciniatusC. venustulus Rehder & Wilson, 1975とC. superbus problematicus (Lan, 1982)の4種を図示している。Houart(1992)はC. turschi(Houart, 1981)を加えるとともに,Chicoreus gloriosus Shikama, 1977をC. venustulusの異名とみなしたが,後にHouart(2008)はC. turschiの分布からフィリピンを除外した。さらに,Houart(2013)はC. tagaroaeC. ritaeの2新種を記載し,Houart et al.(2014)はC. problematicusC. superbusの異名であることを示した。従来日本や台湾などの文献でC. superbusとして知られていた種(カザリガンゼキ)はこれとは別種であり,C. lani Houart, Moe & Chen, 2014として新種記載された。
    このような状況の下で,本論文においては,さらにフィリピンから従来クマドリガンゼキやウタヒメセンジュなどに混同されていた2種C. globus n. sp.とC. pseudosuperbus n. sp.を新種として記載した。また,C. venustulusはマルキーズ(マルケサス)諸島に固有な種であることを示すとともに,従来その異名とされてきたC. gloriosusは独立した種であり,従来フィリピンからC. venustulusとして報告されていたものはこれに当たることを明らかにした。これにより,フィリピンに分布するオガサワラガンゼキ属は下記の7種となる:C. globus n. sp.,ウタヒメセンジュC. gloriosus,オトヒメガンゼキC. laciniatusC. ritae Houart, 2013,C. pseudosuperbus n. sp.,クマドリガンゼキC. superbus(= C. problematicus),C. tagaroae Houart, 2013。
    Chicomurex globus n. sp.オドリコセンジュ(新種・新称)
    本種は従来様々な文献で主にウタヒメセンジュ“C. venustulus”(現在のC. gloriosus)に誤同定されてきた。また,久保・黒住(1995)が沖縄からオガサワラガンゼキ“C. superbus”として図示している個体もこの種に当たる。本種は,ウタヒメセンジュに最も近似するが,それよりも小型で,殻幅が広く,水管溝が短い。また,水管溝状の棘が強く背面に反り返ることや,細い褐色帯が肩と殻底に現れることでも区別される。
    タイプ産地:フィリピン,ミンダナオ島,ダバオ湾,水深200 m(タングルネット)。
    分布:日本(沖縄),南シナ海,フィリピン南部,グアム,パプア・ニューギニア,ヴァヌアツ,ニューカレドニア,水深18~200 m。
    Chicomurex pseudosuperbus n. sp.ニセクマドリガンゼキ(新種・新称)
    本種も従来“C. venustulus”や“C. superbus”に誤同定されてきた。Springsteen & Leobrera(1986)が“C. superbus”として図示している個体は本種である。本種は,クマドリガンゼキC. superbusからは,殻がより細長く螺塔が高いこと,螺肋が顕著に彩色されないこと,螺肋間の二次肋が弱いことにより区別される。また,ウタヒメセンジュとは,殻がやや大型であること,殻口が狭いこと,色帯の位置がC. globus n. sp.と同様であることなどで異なる。オガサワラガンゼキC. laniにも近似するが,大型であること,縫合が浅いこと,水管溝が長いこと,体層で縦肋が太く,節状になること,表面がざらざらしていることで区別される。なお,オガサワラガンゼキは現在のところフィリピンからは記録されていない。
    タイプ産地:フィリピン,セブ,マクタン島沖。
    分布:日本(沖縄島残波岬,SCUBA 60 m),台湾,フィリピン,ニューカレドニア,オーストラリア(クイーンズランド),水深60~200 m。
  • 亀田 勇一, 福田 宏
    原稿種別: 原著
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 15-40
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    シメクチマイマイSatsuma ferrugineaは「備前国岡山」をタイプ産地として記載され,鞭状器の形態に多型があることが知られている。このうちタイプ産地を含む岡山県,および対岸の香川県からは,鉤状と棒状の2型が記録されている。この2型を分子系統解析と形態解析によって比較した結果,本来のS. ferrugineaは鉤状の個体群に相当し,先端の丸い棒状の鞭状器を持つグループは,シメクチマイマイとは遺伝的交流のほとんどない姉妹種かつ新種であると判断された。この新種は備讃瀬戸周辺の島々と荘内半島,浅口市~岡山市南部に分布している。倉敷市や岡山市南部の丘陵地は土砂の堆積や干拓によって有史以降に陸続きとなった島であり,本新種の分布はこれらの丘陵地に限定されていることから,本来は本州や四国本土にはほとんど分布せず,瀬戸内海中部の島嶼部に固有であった可能性が高い。生息地はいずれも他の陸貝の種がわずかしか生息しない乾いた林内であることから,本新種は瀬戸内海島嶼部の乾燥した気候に適応した種であると考えられる。
    Satsuma ferruginea(Pilsbry, 1900)シメクチマイマイ
    殻は低い円錐形で,殻径12.7~22.2 mm,殻長 9.8~16.9 mm 程度,4.0~6.3層。殻表は時に鱗片状の殻皮毛を持ち,光沢は弱く,淡黄白色~赤褐色を呈する。周縁は丸く,褐色の色帯を有する。胎殻表面には鱗片状ないしは皺状の殻皮を持つ。殻口は丸みを帯びた菱形で1個の底唇突起を持つ。臍孔は開く。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで,多くは陰茎より長い。鞭状器は中ほどでやや肥厚し,先端は細くすぼまり,曲がって鉤状となる。兵庫県以西の本州と四国,九州の一部に分布する。紀伊半島や京都府以東での分布記録は他種の誤同定で,本種の確実な記録はない。高知県中部をタイプ産地とするオビシメクチマイマイSatsuma zonata(Pilsbry & Hirase, 1904)は殻の形態に差異が見られるものの,生殖器雄性部の形態や分子情報からは本種と区別できないため,異名とする。本種に対してシメクチマイマイという和名を対応させることの妥当性については亀田(2014)を参照されたい。
    Satsuma akiratadai n. sp. アキラマイマイ(新種・新称)
    殻は殻径14.2~18.8 mm,殻長 9.9~13.9 mm 程度,4.4~6.0層。前種に酷似し,統計的解析を行っても区別はつけづらい。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで陰茎より長い。鞭状器は一様の太さで,やや長く,先端は丸い。タイプ産地は岡山県倉敷市鶴形山。岡山県南部(岡山市南区・早島町・玉野市・倉敷市・浅口市)及び香川県島嶼部と荘内半島北端にのみ分布し,備讃地方の固有種と考えられる。
    本種の和名および学名は,永年シメクチマイマイ類の研究を続けており,本種個体群の存在を最初に見出した多田 昭氏に献名するものである。
  • Barna Páll-Gergely, 浅見 崇比呂
    原稿種別: 原著
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 41-50
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    トルコのイスパルタ郡ウルボール町で発見した新種Vitrea politissimaを記載する。殻の形態から,本種は,本属の中で殻が大きく,殻臍が広いVitrea ernesti, V. ephesina, V. klemmiおよびV. sossellaiと近縁であると推定される。既知の分布情報を用いて本属の生物地理を解析した結果,地上に露出した岩石やその根元の地面に生息する岩石性の種は相対的に狭い地域に分布し,分布域が広い種は岩石性ではないことがわかった。岩石性の種の分布が狭いのは,生息に必要となる岩石が狭い範囲にしかないからではなく,分散力が低いからであると推定される。生物の体系,生物相,生態に関する研究の発展により地理分布のパターンとその形成プロセスを理解する上での有益な知見が得られることを本研究は例示する。
  • 高田 宜武, 梶原 直人, 阿部 信一郎, 井関 智明, 八木 佑太, 澤田 英樹, 齊藤 肇, 望月 翔太, 村上 拓彦
    原稿種別: 原著
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 51-64
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    砂浜汀線域に分布する二枚貝,特にフジノハナガイの分布パターンを把握するために,本州日本海沿岸の59地点の砂浜において野外調査を行い,砂浜毎に13の環境変数を求めて多変量の回帰分析を行った。調査では,24地点より二枚貝が採集され,うち16地点でフジノハナガイが出現した。得られた12種,664個体の二枚貝のうち,フジノハナガイが86.6%を占め最優占種であった。多変量解析では,二枚貝の在不在,種数,フジノハナガイの在不在と採集個体数のそれぞれを従属変数とする4つの回帰モデルを解析し,変数選択によりAIC最小モデルを求めた。本調査の範囲内では,砂浜長と塩分の効果が4つのモデルで共通して認められ,さらに各モデル特有の変数が抽出された。人為的要因では護岸等の建設とそれによる砂浜の断片化が二枚貝の存在と種多様性に負の影響を与えると推測された。フジノハナガイについて,在不在モデルと個体数モデルで有効な変数のセットが異なった。フジノハナガイは繁殖個体のほとんどが1歳だと考えられるので,加入過程と生残過程のそれぞれに影響する環境要因が個体群の安定的な維持に重要であると考えられた。
  • 秋山 吉寛, 夏原 由博
    原稿種別: 原著
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 65-70
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文はイシガイ科貝類で初めて発見されたグロキディウム幼生の幼生糸の逆転配置について報告するものである。2011年6月に滋賀県木之本町の農業用水路で成熟したグロキディウム幼生を有するヌマガイ2個体を採集し,母貝から放出された幼生の観察を行なった。ヌマガイの幼生は1対の亜三角形の殻が1辺で接合した対称的な形をしていた。軟体部を観察した結果,外部幼生糸の根元と内部幼生糸の配置が左右非対称であり,両者はほとんどの幼生で身体の右側に位置した。約50個体の幼生を観察した結果,身体の左側に外部幼生糸の根元と内部幼生糸を有する幼生が1個体のみ確認されたことから,この個体では少なくとも内臓が部分的に左右逆転していたと考えられる。
短報
  • 多々良 有紀
    原稿種別: 短報
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 71-74
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    エドガワミズゴマツボは,内湾河口部の潮間帯の泥底に生息する殻長約 2.5 mm の小型腹足類である。本報告は本種の季節変動や発生等の生活史特性を得ることを目的に,2005年3月から2006年7月にタイプ産地(江戸川放水路)の近隣である新浜湖 (千葉県市川市行徳鳥獣保護区)において調査・観察を行った結果である。
    殻長の季節変化を示したヒストグラムは,年間を通じて存在する殻長約2.5 mmにモードを持つ成貝グループと,7~10月に出現する殻長2 mm以下で殻口未形成の幼貝から成るグループによって構成されていた。よって,新規加入は主に夏に起こり,短期間で成貝と変わらないサイズに成長することが明らかとなった。今回の調査で得られた最小個体の殻は,殻長0.20 mm,殻径0.25 mm,螺層は約2巻であり,大きさと形状が本種の原殻と一致した。したがって,この最小個体は着底直後の幼貝であるといえる。
    本種の飼育中にシャーレの底に縦長約0.1 mmの卵が10~20個線状に並んで産みつけられていた。2日後,この卵から内部の被面子幼生が面盤で内側から卵殻を破壊し,孵化した。この被面子幼生は,殻径0.1 mm,約2/3巻の透明で平滑な殻と,短い触角を持っていた。
  • 湊 宏
    原稿種別: 短報
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 75-78
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    これまで鳥取県において,ゴマガイ科貝類は4種類しか報告されていなかったが,鳥取県西部からオオゴマガイと同所的に生息する未記載種を確認したので,ここに新種記載した。
    DiplommatinaSinicanakashimai n. sp. ダイオウゴマガイ(新種・新称)
    貝殻はこの亜属の中では大形(7個体の平均殻長4.65 mm ),右巻き,殻表は淡黄白色からオレンジ色,丸みをおびたさなぎ形を呈し,殻頂に向けて塔状に細くなる。螺層は7.5層,各層はよく膨れ,その縫合は深い。次体層は最も殻径が太いが,体層はかすかに狭くなる。胎殻は2層で平滑,他の螺層には繊細な板状の縦肋が規則的に配列しているが,最終の2層はほとんど平滑,かつ光沢がある。殻口は円形,殻軸側に歯状突起が出ている。殻口縁は全縁で白色,反曲し,第2口縁が殻口背面にあって,その間隔は広い。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置している。臍孔は閉じる。腔襞は完全に欠く。
    タイプ標本:ホロタイプ, NSMT-Mo 78788, 殻長4.5 mm,殻径 2.2 mm。
    タイプ産地:鳥取県日野郡日野町船地。
    分布:鳥取県:三朝町(2ヶ所),琴浦町(2ヶ所),倉吉市(3ヶ所),南部町(1ヶ所),江府町(5ヶ所),日野町(3ヶ所),島根県:松江市(5ヶ所),出雲市(1ヶ所),雲南市(1ヶ所),飯南町(1ヶ所),岡山県:真庭市(3ヶ所)。
    比較:本種は日本産ゴマガイ科貝類の中では,貝殻の殻長が最も大きい種の一つである。そして,腔襞を欠くことで日本産本科の中では比較されうる種類がない。本種のタイプ産地において,同所的に出現するオオゴマガイD. (S.) collarifera hirasei Pilsbry, 1909 は,本新種よりも小形であること(殻長3.84 mm,n = 5),短い腔襞が存在することによって本種から識別される。さらに,兵庫県から記載され,中国地方で広く知られているオオウエゴマガイD. (S.) c. tenuiplica Pilsbry, 1900 は,殻口縁が単純で二重唇でないこと,小形であること(殻長3.75 mm,n = 7),短い腔襞があることで本新種とは容易に識別できる。
  • 早瀬 善正, 木村 昭一, 河辺 訓受
    原稿種別: 短報
    2015 年 73 巻 1-2 号 p. 79-83
    発行日: 2015/01/15
    公開日: 2016/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    A rare terrestrial gastropod species, Japonia inouei, is newly recorded from Mie Prefecture, central Honshu, Japan. A living specimen was collected in Ogisu Valley, Suzuka City, in 2013. A brief morphological examination was carried out on this specimen, and compared with conspecific and allied species collected from adjacent areas. Five diagnostic characters were recognized in the present specimen: 1) two rows of petal-like periostracal hairs on the periphery of the body whorl, 2) blackish coloration of the head-foot, 3) a taenioglossate radula with relatively few cusps, 4) a grayish white penis with dully acute tip, 5) ball-like feces containing plant tissues in the intestine. Examination of additional specimens of J. inouei collected from the Kii Peninsula revealed that there is a considerable variation in the morphology of the petal-like periostracal hairs. Although the present specimen possesses distally expanding hairs with a smooth surface, most specimens from the Kii Peninsula possess similarly shaped hairs but with a striated surface. In addition, larger and more aged specimens from the Kii Peninsula tend to have narrower hairs, suggesting age-related change in their shape. However, a population from Kushimoto-cho comprises specimens of similar sizes with both wide and narrow hairs, and it is also probable that the difference may be ascribed to intraspecific variation. The present record represents a considerable north- and eastward range expansion of this species to Mie Prefecture. The lack of previous records in this area can be attributed to the fact that the morphology of the periostracal hairs is the only morphological character that distinguishes this species from its allies, and specimens possessing hairs in good condition are extremely rare, like the species itself. It is thus necessary to reconsider the distributions of this and allied species in the western part of Honshu, where more than two species are potentially distributed sympatrically, based on the careful examination of periostracal hairs.
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