文献調査などを進めている際に,以下の琉球列島産陸産貝類の有効名に改訂が必要であることが判明したため,分類学ならびに命名法の観点から論議する。
オキノエラブヤマタカマイマイGanesella sororcula okinoerabuensis Pilsbry & Hirase, 1905
本学名は,現在エラブシュリマイマイEulota (Euhadra) okinoerabuensis Pilsbry & Hirase, 1904の新参二次同名となっている。これに対する置換名として提唱されたものにはGanesella erabuana Kuroda, 1958とLuchuhadra erabuensis Kuroda, 1963がある。黒田(1958: 145–146)は改名の対象となる“okinoerabuensis”の著者と日付を明示していないが,これがPilsbry & Hirase (1905)の名前であることは明らかであり,有効な置換名であると判断できる(国際動物命名規約第4版,以下ICZN条13.1.3, 72.4.1.1)。したがって,オキノエラブヤマタカマイマイの学名および著者はSatsuma eucosmia erabuana (Kuroda, 1958)に改訂され,ICZN条59.3に従いGanesella sororcula okinoerabuensis Pilsbry & Hirase, 1905は永久に無効となる。なお,種小名erabuensisの著者は多くの文献においてMinato, 1978 とされているが,黒田(1963: 46)がICZN条13.1.3を満たす有効な置換名の提唱であるため,著者はKuroda, 1963とすべきである。
チャイロキセルモドキ属Yakuena Habe, 1956とリュウキュウキセルモドキ属Luchuena Habe, 1956
この2属は生殖器形態を検討した湊(1977a)により同属と見なされた。その際,前者を後者の新参異名としたが,後に湊(2001a: 38)は「属の定義の記載順序がLuchuenaよりもYakuenaの方が先に行われたためにその先取が認められる」と訂正した。しかしながら,同日に公表された全く同一な階級の学名の優先権は,頁の前後ではなく第一校訂者の決定に基づく(ICZN条24.2)ため,湊(1977a)に従いLuchuenaに優先権が認められ,Yakuenaはその新参異名となる。
サメハダヘソアキアツマイマイNesiohelix omphalina proximata Kuroda & Emura, 1943とオオアガリマイマイNesiohelix bipyramidalis Kuroda & Emura, 1943
両者はともに南大東島産の現生個体に対して付けられた名で,近年では同一の分類群とみなされており,黒住(2005)は記載の順序を根拠に前者を後者の異名とした。しかし,同日に公表された異名関係にある学名については,「より高い階級で公表された学名が優先権をとる(ICZN条24.1)」ため,この2つを同一の分類群とみなす場合には,種として記載されたN. bipyramidalisが有効名であり,N. o. proximataは新参異名となる。
オキナワヤマタニシCyclophorus turgidus (Pfeiffer, 1851)とリュウキュウヤマタニシ C. t. angulatus Pilsbry, 1902
両者とも琉球産として記載されたもので,ほとんどの日本の文献では沖縄島産の小型個体をオキナワヤマタニシC. t. turgidus,大型個体をリュウキュウヤマタニシC. t. angulatusとして紹介している。しかし,原記載やタイプ標本によれば,C. turgidus は沖縄島産の個体としては大型で,現在日本でC. t. angulatusとして認識されている個体に該当する。したがってリュウキュウヤマタニシの和名で呼ばれているものこそがC. turgidusであり,C. t. angulatusはその新参異名と考えられる。
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