Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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75 巻, 1-4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • Barna Páll-Gergely, 浅見 崇比呂
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 1-16
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    国立科学博物館に所蔵のクビマキムシオイの殻標本を精査したところ,体層のうち縫合管(呼吸管)が位置する部分の成長脈縦肋の形状と密度が異なるものが混在していることを発見した。これらの標本が採集された種子島で調査した結果,クビマキムシオイは北部に生息し,それとは殻形態の異なる新種Metalycaeus minatoi Páll-Gergely n. sp.(新称・ミナトムシオイ)は南部に分布することがわかった。ミナトムシオイは体層の縫合管域により多くの縦肋(26~41本,平均33.0本)をもち,個々の縦肋がより低く,表面が滑らかに見える。対してクビマキムシオイでは同部位の縦肋がより少なく(17~23本,平均19.6本),個々の縦肋はより高く鋭い。さらに,Dicharax (?) tanegashimaeも見つかった。Metalycaeus属の本2種の陰茎,歯舌,殻蓋,殻形態,およびD. (?) tanegashimaeの陰茎の形態をここに記載する。

  • K. Fraussen, 知野 光雄, P. Stahlschmidt
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 17-25
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    Calagrassor Kantor et al., 2013ヒメイトマキツムバイ属(和名新称)は,沈木を中心とした深海化学合成群集から得られたエゾバイ科サンプルの分子系統学的研究の中で提唱された属グループである。タイプ種はC. aldermenensis(Powell, 1971)ニュージーランドイトマキツムバイ(新称)(タイプ産地:ニュージーランドAldermen島沖)。本属は貝殻が亜楕円形,殻頂は鈍く,螺条は明瞭,縦肋は螺層上部にのみ残り,水管は短いなどの特徴をもつ。形態的に類似するManaria Smith, 1906 イトマキシワバイ属とは原殻が高く,縦肋を欠くことで,また,Aulacofusus Dall, 1918 ヒモマキツムバイ属とは,螺肋が強く,体かく殻が大きいことなどで区別される。

    その後,Fraussen & Stahlschmidt(2013)は熱帯太平洋のイトマキシワバイ属とそれに関連した属の種レベルの詳細な検討を行い,ヒメイトマキツムバイ属には3種の未記載種を含む12種を含めた。そのうち本邦海域からは,C. hayashii(Shikama, 1971)ハヤシイトマキツムバイ(遠州灘),C. poppei(Fraussen, 2001)ポッペイトマキツムバイ(沖縄,南シナ海)を記録している。今般,日本中南部とその周辺海域,及び鹿児島県阿久根沖から得られた標本を検討した結果,さらに2新種を認めたので,ここに命名記載する。

    Calagrassor analogus n. sp. チビイトマキツムバイ

    本属の中ではやや小型。薄質で陶器白質,紡錘形で膨らむ。螺塔は高い。次体層で9,体層で19の螺条があり,周縁部では太く螺条間隔も広いが体層下部では細まる。縦肋を欠く。殻口は楕円形,水管溝は短い。オリーブ色の殻皮を被る。殻口,水管部で殻長の半分を占める。蓋は薄い角質で,青みがかった褐色,核は下端にある。沈木に付着あるいは沈木上の小穴に棲息する。

    比較:本属の他種ではフィリピン産のC. bacciballus Fraussen & Stahlschmidt, 2016と最も近似するが,殻口が狭く,細形で肩部がなだらかなことで区別される。ニュージーランドイトマキツムバイ,ハヤシイトマキツムバイとは螺条がやや狭く,螺層上部で縦肋を欠くことで異なる。

    本種は従来,北海道東岸,東北沿岸を経て銚子に分布するAulacofusus hiranoi(Shikama, 1962)ヒラノイトマキツムバイに混同されてきたが,原殻が小さく,成殻は遥かに小型で,殻高が高く,殻頂部が溶失せず,螺肋の幅が細いこと等により異なる。

    種小名は近隣属との類似を示唆,和名はタイプ産地による。

    タイプ標本:ホロタイプ NSMT-Mo 78455(殻高16.4 mm)。

    タイプ産地:三重県尾鷲沖,水深200 m。

    分布:愛知県沖,三重県尾鷲沖,和歌山県潮岬沖,鹿児島県野間岬沖,沖縄県尖閣諸島,東シナ海,台湾。

    Calagrassor hagai n. sp サツマチビイトマキツムバイ(和名新称)

    殻は重厚,原殻は溶失する。純白色,細い梨形。螺塔は高く,縫合は明瞭。次体層で10,体層で22の螺条があり,螺条間隔はやや狭い。縦肋を欠く。殻口は亜楕円形,外唇はやや薄く,殻彫刻に対応し端部は弱く波打つ。軸唇は穏やかに曲がる。殻口,水管部で殻長の半分を占める。緑オリーブ色の殻皮を被る。蓋は確認されていない。

    比較:本種は,台湾北部に分布するC. tashiensis(Lee & Lan, 2002)ターシイトマキツムバイ(新称)に似るが,殻彫刻,特に螺層上部の彫刻が異なること,水管溝がやや長いことで区別される。フィリピン以南に分布するC. pidginoides Frsaussen & Stahlschmidt, 2016ミナミイトマキツムバイ(新称)とは螺条が多く,螺条間隔が広く,殻形はより膨らむことで異なる。ニュージーランドツムバイ,ハヤシイトマキツムバイとは螺条がやや狭く,螺塔上部で縦肋を欠くことで区別される。

    種小名は本属の知見を提供された芳賀拓真博士に献名,和名はタイプ産地による。

    タイプ標本:ホロタイプ NSMT-Mo 784980,殻長16.6 mm。

    タイプ産地:鹿児島県阿久根市沖,水深300 m。ハヤシイトマキツムバイと同時に得られた。

    分布:タイプ産地以外からは知られていない。

  • Roland Houart
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 27-38
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
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    エントツヨウラク属Siphonochelus Jousseaume, 1880の日本産の2種,エントツヨウラクS. japonicus A. Adams, 1863とニッポンエントツヨウラクS. nipponensis Keen & Campbell, 1964の同定には著しい混乱があった。これはS. nipponensisのパラタイプの誤同定に寄るところが大きい。本タクソンのホロタイプは寺町コレクションに(現在は鳥羽水族館所蔵),パラタイプはスタンフォード大学の地学コレクションに保管されているが,後者の方がのちの多くの論文に図示されている。このたび,鳥羽水族館所蔵のS. nipponensisのホロタイプの写真を基に再検討を行った結果,パラタイプは未記載と考えられる別種の未成熟個体であることがわかった。一方のS. japonicusの方もホロタイプが失われていることで,混乱している状況があったため,ネオタイプを指定することで同定を確定させた。さらに,モザンビークからエントツヨウラクに近似した1新種を記載し,日本産の2種を含む既知種と比較を行った。

    Siphonochelus japonicus A. Adams, 1863エントツヨウラク

    本種は南アフリカのS. arcuatus(Hinds, 1843)の異名とされることが多かったが,より小型で膨らみが強く,縦張肋は尖らず丸みが強いことで区別される。波部(1961:続原色日本貝類図鑑)は初めて本種を正しく図示している。土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)がこの名前で図示しているのは,未記載の別種と思われる。

    Siphonochelus nipponensis Keen & Campbell, 1964ニッポンエントツヨウラク

    従来しばしばエントツヨウラクと混同されており,例えば土屋(2017:日本近海産貝類図鑑第二版)が本種として図示しているのは,エントツヨウラクである。エントツヨウラクと比較して,貝殻はより細長く伸び,後水管がやや平たく伸長する。

    Siphonochelus mozambicus n. sp.(新種)

    殻は本属としては小型,殻長/殻径比2.0,やや幅広い槍の穂先形。縫合下の段差は非常に狭く,弱く凹状となる。原殻はやや大きく1.5~1.75層,平滑で幅広い。成殻は最大4層。各螺層に4本の断面が丸い縦張肋がある。後水管は基部がやや平たく,開口部は丸く細まり,殻軸に対して70°の角度となる。殻口は小さく卵形で連続する。前水管は短く,殻長の19~21%,基部は太く,先端に向かって急激に細まり,直線的あるいは弱く背部へ曲がる。

    タイプ標本:ホロタイプMNHN IM-2000-33180,殻長6.1 mm。

    タイプ産地:モザンビーク海峡,25°11´S, 35°02´E,水深101~102 m。

    著者は当初本種をエントツヨウラクに同定していたが,のちに追加標本を調査することにより,種レベルで区別されることが分かった。エントツヨウラクは本種よりも明らかに大型で膨らみが強く,縫合下の括れが浅い。

  • 酒井 治己, 栗原 善宏, 後藤 晃
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 39-53
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    絶滅危惧種である日本産カワシンジュガイ属Margaritifera 2種の遺伝的多様性,分化,及び集団構造を調査するため,北海道から本州より得られたカワシンジュガイM. laevisの17集団とコガタカワシンジュガイM. togakushiensisの6集団について,16アロザイム遺伝子座の対立遺伝子頻度及びミトコンドリアにコードされた16S rRNA遺伝子の塩基配列(489 bps)を比較した。種間交雑の証拠は認められなかった。アロザイム遺伝子から見たカワシンジュガイにおける集団内の遺伝的多様性及び集団間の遺伝的分化は,同属他種と比較して若干大きかった。一方,コガタカワシンジュガイはすべての遺伝子座,集団において単型であった。16S rRNA遺伝子の塩基配列では,両種とも単型で,種間で10 bpの塩基置換が存在した。いずれの種の遺伝的多様性も,両性種のシジミ属貝類や海産貝類に比較してかなり低かった。

  • 上杉 翔太, 柿野 亘, 伊藤 寿茂, 落合 博之
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 55-66
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    The host species for glochidia of unionid mussels were examined in Lake Anenuma, Aomori Prefecture. As a result, Anemina arcaeformis was recorded for the first time from Aomori Prefecture and was found to infect two host fish species (Gymnogobius castaneus and Tribolodon hakonensis). Sinanodonta sp. was found to infect four species (Hypomesus nipponensis, G. castaneus, Tridentiger brevispinis and T. hakonensis); Hyriopsis schlegeli infects three species (H. nipponensis, G. castaneus and T. brevispinis), and Inversiunio jokohamensis also infects three species (G. castaneus T. brevispinis and T. hakonensis). The fish species composition was investigated and the prevalence of infection by unionid mussel glochidia for each host species in Lake Anenuma was investigated. Hypomesus nipponensis was the dominant fish species. Sinanodonta sp. mainly utilized H. nipponensis, A. arcaeformis utilized two species (G. castaneus and T. hakonensis), and the two other unionid species (H. schlegeli and I. jokohamensis) mainly utilized G. castaneus.

  • 岩崎 敬二, 石田 惣, 馬場 孝, 桒原 康裕
    原稿種別: 原著
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 67-81
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    Mytilus trossulus Gould, 1850 is a mytilid bivalve with a boreal distribution in the northern Pacific Ocean, northern Atlantic Ocean, and Baltic Sea. The distribution of M. trossulus in Japanese waters was hitherto believed to be restricted to the northernmost island of Hokkaido. However, we discovered dry specimens and dead shells of this species on the northern and central Japan Sea coasts of Honshu Island. Specimens were collected before 1936, before 1948 and in 1951 from Shikaura, Fukui Prefecture (35°56´N, 135°59´E), and were archived at the Fukui City Museum of Natural History as "Mytilus edulis Linnaeus 1758". Dead shells with rotten soft bodies were collected from the Kisakata sandy shore, Akita Prefecture (39°12´24˝N, 139°53´40˝E) on March 29, 2014. In addition, we found old records of the nonindigenous congener M. galloprovincialis Lamarck, 1819 in molluscan lists that were published in Akita, Niigata, Ishikawa and Fukui Prefectures from the 1930s to 1950s. This species was introduced to Japan before 1932 and appears to have been infrequently confused with M. trossulus. In 2007, 2010 and 2014, we conducted field surveys in the regions where the dry specimens and dead shells had been collected but found no M. trossulus specimens. In view of the results of the field surveys and water temperature regime in its distribution range, we believe that the dry specimens and dead shells had drifted from the more northerly Japan Sea coasts of Russia or Hokkaido. The old records of M. galloprovincialis in the molluscan lists may indicate the actual occurrence of the nonindigenous species during the early years of its invasion in Japan.

短報
  • 佐伯 いく代, 丹羽 慈, 長田 典之
    原稿種別: 短報
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 83-87
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    陸産貝類は,世界的にきわめて高い多様性をもつ生物種群である。しかし,外来生物の侵入により,その多くは絶滅の危機にさらされている。一方,樹上に生息する陸産貝類については,観察の難しさなどから,生態や外来生物の影響などに関する知見が乏しい。そこでわたしたちは,樹上性カタツムリであるサッポロマイマイ(Euhadra brandtii sapporo)の捕食者相を調べることとした。調査は,北海道大学苫小牧研究林にて行った。調査木を3本選び,約50 cmの糸をつけたサッポロマイマイを8個体ずつ,高さ約10 mの樹上と,地表とに固定し,赤外線自動センサーカメラによって15日間観察した。樹上では,1本の調査木において,アライグマがサッポロマイマイを捕食する映像が撮影された。しかしその他の調査木では,捕食による死亡は確認できず,生存率は80%以上であった。一方,地表に固定したサッポロマイマイの生存率は0~25%であった。ビデオ映像から,地表ではタヌキによって捕食され死亡したサッポロマイマイが少なくとも4個体あることが確認された。これらの結果から,(1)サッポロマイマイが樹上で生活することは,地上の捕食者から逃れ,生存率を高める効果があること,(2)しかしアライグマが侵入すると,樹上にいても捕食され,死亡するリスクが高まることが示唆された。アライグマは,特定外来生物に指定されており,多くの在来種を捕食することが知られている。しかし,観察の難しい樹上性生物への影響は見過ごされやすいと考えられ,注意が必要である。

  • 冨田 進, 井上 恵介, 門田 真人, 佐野 勇人, 細田 栄作
    原稿種別: 短報
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 88-92
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    静岡県賀茂郡松崎町江奈に露出する中部中新統湯ヶ島層群桜田層中に狭在する江奈石灰岩からTectus属の化石が産出した。この化石は現生のギンタカハマTectus pyramis(Born, 1778)に,螺層の装飾の様子や,最終巻では螺肋はほぼ消滅し,比較的強い成長脈で装飾されること,底面に多くの細い螺溝があり,殻口内唇の軸柱に瘤があり,臍は閉じ浅いことなどでよく類似する。しかし,幼殻の螺層周縁の突起が弱いので区別できる。本化石は現生種のサラサバテイT. niloticus(Linnaeus, 1767)とはより小型で,比較的に頂角が小さく,螺肋の本数や様子が異なり,周縁がより角張り突起が弱く,軸柱に瘤があり,浅い臍をもつので異なる。現生種のベニシリダカT. conus(Gmelin, 1791)とはやや頂角が大きく,螺肋の本数や様子が異なり,成長しても螺層が丸みを帯びず角張り,軸柱に瘤があり,底面に螺溝があり,浅い臍をもつので異なる。ニュージーランドの第四系産化石や現生種として知られるTectus royanus(Iredale, 1912)とは,本種がより大型で,より頂角が小さく,螺塔が高く,表面装飾が粗いので区別できる。日本のほぼ同時代の地層から産出するT. japonicus Horikoshi in Kobayashi & Horikoshi, 1958とは,本種の方がより大型で,螺肋の本数や様子が異なり,殻口内唇に比較的に大きな瘤があるので区別できる。中期中新世当時の伊豆地塊は本州南方の熱帯西太平洋に位置する火山島であり,本新種はこれまで報告された造礁性サンゴ類やサザエ科の岩礁性巻貝類とともに当時の熱帯岩礁性化石群を特徴づける種といえる。新種であるかどうかは今後の保存の良い資料の追加を待つ。

  • 大塚 攻, 長谷川 和範, 木村 妙子, 三宅 裕志, 近藤 裕介, 飯田 健, Honorio Pagliwan, Ephrime Met ...
    原稿種別: 短報
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 93-98
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    ウロコガイ科二枚貝ベッコウマメアゲマキScintilla philippinensis Deshayes, 1856の生体がフィリピン・パラワン島で採集されたが,外套膜とその膜上の突起,足を用いてウミウシ類及びカニ類に擬態と考えられる行動が観察された。ウミウシ類型の場合,外套膜を変形させて形態を似せる。カニ類型の場合には形態的類似性だけでなく足も用いて行動も真似る。ウロコガイ上科は他の動物に共生することで知られるが,擬態に関する知見は少ないので,今後のより詳細な研究が待たれる。

  • 加瀬 友喜, Bret K. Raines
    原稿種別: 短報
    2017 年 75 巻 1-4 号 p. 99-104
    発行日: 2017/11/27
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル オープンアクセス

    イースター島はインド・西太平洋生物地理区の東端に位置し,最も近いピトケーン島から2,200 kmも離れた南東太平洋の孤島である。この島からは200種を超える貝類の報告があり,そのうちの37%の種が固有種である。本報告では,同島の水深15 mの海底洞窟から採取されたソビエツブ科クチビロガイ属1新種を記載し,またアミメクチビロガイ属(新称)の1既知種を再記載した。これらの2種もイースター島の固有種と考えられる。

    Microliotia rehderi n. sp. モアイクチビロガイ(新種・新称)

    殻高は最大で2.28 mm,リソツボ形,白色。螺層は6階を超え,螺管側面はほぼ平で,螺塔高は殻高の55%を占める。胎殻は平滑で約1階の胎殻Ⅰと顆粒状の螺脈で覆われる胎殻Ⅱからなり,sinusigera notchは深く湾入する。後生層は41/4階,縫合付近で括れるが,縫合は線状を呈し,次体層では3本の螺肋が17本前後の縦肋と交叉し,疣列となる。体層は螺層上部でやや膨らみ,殻底周辺部は角張らず,殻底には3本のやや強い螺肋がある。臍孔は閉じる。殻口は真円形で明瞭な縁取りがあり,周辺部は肥厚して広く拡がり,やや翼状になる。殻高 2.78 mm,殻幅 1.88 mm(ホロタイプ).

    模式産地:イースター島 Hanga-Teo沖の海底洞窟,水深15 m。

    分布:イースター島。

    既知のクチビロガイ属11種の中で,本種はハワイ産のアラボリクチビロガイ(Microliotia hawaiensis Kase, 1998b)に最も近似する。後者とは殻形がより細長いこと,強い螺脈を持つこと,また2階の胎殻(後者は1.25階)を持つことで区別される。Raines(2002)は本種をエニウェトク環礁から知られるAlvaniaTaramelleliacorayi Ladd, 1966に同定するとともに,属位をクチビロガイ属に変更している。一方,Le Renard & Bouchet(2003)は A.(T.)corayi をアミメクチビロガイ属に帰属させており,この種の属位は今後検討の余地がある。M. corayiは本種よりも螺塔が低く,殻底周辺部が角張ること,羅肋と縦肋がより細かいなど,区別が容易である。

    Clatrosansonia circumserrata(Raines, 2002)イースターアミメクチビロガイ(新称)

    殻は微小で,殻高は最大で1.2 mm,エビスガイ形を呈し,螺塔は低い。螺管は約5階,縫合はやや深い。胎殻は薄いオレンジ色,約1階で滑らかな胎殻Ⅰと螺脈を持つ1.5階の胎殻Ⅱからなり,sinusigera notchは深く湾入する。次体層と体層上部表面は平で螺肋と縦肋が交叉して編み目状を呈し,角張った肩部には太い螺肋があり,縦肋と交わるところはやや棘状となる。殻底は若干膨らみ,約9本の螺脈で覆われる。臍孔は広く開き,周辺は太い螺肋で縁取られる。殻口はほぼ真円形で縁取りがある。外唇は板状で体層から伸びる螺肋に覆われる。

    模式産地:イースター島 Hanga-Teo沖の海底洞窟,水深15 m。

    分布:イースター島。

    本種はReines(2002)によりイースター島からMareleptozoma属の新種として報告されたが,その属位に関しては暫定的なもので,更なる検討が必要であることが指摘されていた。本種の殻形態はアミメクチビロガイ属の属模式であるClatrosansonia philippina(Bandel & Kowalke, 1997)と多くの点で共通しており,この属に位置づけられる。本種は属模式種と比べて弱い縦肋と螺肋を持つこと,体層上の螺肋の数が多いこと,明瞭は縦肋が発達しないこと,臍孔がより広いことなどで区別される。

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