クテンハナゴウナ属はクモヒトデに寄生することが知られるグループで,日本からは6種報告されている。本研究では,博物館に所蔵されている標本と,新たに採集された標本に基づき3新種を記載するとともに,原記載以降に詳細な情報を欠いていた1種を再記載した。また,本属の形態的特徴を再定義した。
国立科学博物館の櫻井欽一氏寄贈コレクションでHemiliostraca samoensis(Crosse, 1867)ホシフハナゴウナに同定されていた奄美大島産標本を精査したところ,原記載の特徴とは一致せず,未記載種であることがわかった。沖縄県瀬良垣から新たに採集された標本も同一種であったため,両標本に基づき,新種Hemiliostraca capreolus n. sp.カラクサハナゴウナ(新称)として記載した。本種は赤褐色の色帯が縫合線と平行に現れ,時折短い突起のような枝分かれが見られる点,無色の成長痕を有する点によって,同属他種と区別できる。
Hemiliostraca conspurcata(A. Adams, 1863)は原記載以来報告がなかったが,和歌山県で採集されたクモヒトデの1種に寄生していた個体がシンタイプの一つと同種であることが明らかになった。本種は小型で,殻全体に斑点によって構成される網目状の模様を持つことが特徴である。本種を再記載するとともに,カスリハナゴウナの和名を新称した。また,当該シンタイプをレクトタイプに選定した。
また,久米島に生息するクロメクモヒトデの腕基部とカイメンの群体内から得られた標本に基づき新種Hemiliostraca tenuis n. sp.クロメクモヒトデハナゴウナ(新称)を記載した。本種は透明で細長い卵型で,不明瞭な赤褐色の帯状模様を持つ点などから,同属他種と区別できる。
小笠原諸島父島,琉球諸島の奄美大島と沖縄県から得られたハナゴウナ類について,殻形態の詳細な観察に基づき,新種Hemiliostraca maculata n. sp.コモンハナゴウナ(新称)として記載した。本種はH. conspurcataに酷似するが,殻頂部がより太く,殻全体に線で構成される模様を有すること,軸唇と壁唇の間に境界が見られることによって,他種と区別される。
なお,ホシフハナゴウナは黒田(1928)によって奄美大島からSubularia cf. samoensis(Crosse, 1867)として報告されたものである。黒田博士の同定とみられる奄美大島産標本はハワイ・ビショップ博物館から借用したソシエテ諸島産の“Hemiliostraca samoensis(Crosse, 1867)”と同定されていた標本とともに原記載に良く合うが,本種には近似した幾つかの種があり,正確な同定のためにはこれらとの詳細な比較が必要である。
本研究により,日本近海にはクテンハナゴウナ属9種が生息することが明らかになった。
抄録全体を表示