Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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80 巻, 1-2 号
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原著
  • Roland Houart, Barbara Buge
    原稿種別: 原著
    2022 年 80 巻 1-2 号 p. 1-23
    発行日: 2022/02/04
    公開日: 2022/02/11
    ジャーナル オープンアクセス

    最近の南シナ海,東シナ海や台湾沖での調査航海によって得られた,既知種の新たな分布記録について報告するとともに新種を記載した。

    日本の温帯域からの分布記録南下拡大種としてErgalatax tokugawai Kuroda & Habe, 1971トクガワヒメヨウラク,Abyssotrophon soyoae(Okutani, 1959)クマノツノオリイレ,Nipponotrophon shingoi Tiba, 1981 シンゴヌノメツノオリイレを,また,ニューカレドニアや南太平洋から分布記録地北上の種としてEnixotrophon procerus(Houart, 2001)とActinotrophon fragilis(Houart, 1996)を報告した。また,下記の3種を新種記載した。

    Abyssotrophon weijencheni n. sp.

    タイプ産地:南シナ海19°48′N, 116°29′E, 1,205~1,389 m。

    本種はTsuchida(1991)が大槌沖の刺網から“Trophonopsis delicatus Kuroda, 1954ヒナツノオリイレ”として報告した種(これはHasegawa, 2009が指摘しているように本当のヒナツノオリイレとは別種である)に彫刻などが最も近似するが,後者はより浅い水深に生息するもので,殻がより細長く縫合の下の肩部がむしろ凹んでいることで本新種と区別される。

    Enixotrophon petalospeira n. sp.

    タイプ産地:南シナ海22°20′N, 120°03′E, 720~766 m。

    唯1個体の生貝標本に基づく新種で,Enixotrophon ziczac(Tiba, 1981)イナヅマツノオリイレに見かけ上近似するが,本新種はそれよりも螺塔が高くかつ太く,螺層の膨らみが弱く,縫合の下の肩部がやや凹み,また,彫刻の縦肋の湾曲が弱く管状とならず,螺肋との交点がこぶ状となることで区別される。これに関連してイナヅマツノオリイレについても再検討を行い,こちらはE. pulchellus(Schepman, 1911)の異名となる可能性を示唆した。

    Scabrotrophon fedosovi n. sp.

    タイプ産地:南シナ海18°49′N, 113°58′E, 1,151~1,286 m。

    本種はS. emphaticus(Habe & Ito, 1965)ナミジワツノオリイレに最も近似するが,小型で螺塔が低く,水管がより細長く,異なる彫刻を持つことで区別される。また,S. densicostatus(Golikov, 1985)からは,より殻質が軽く,螺塔が低く,縦肋が薄いことなどで区別される。

    これらに加えて,最近南シナ海と日本から新種として記載されたSiphonochelus hasegawai Houart, Buge & Zuccon, 2021の台湾からの記録について詳細に報告した。

  • 伊藤 寿茂, 柿野 亘, 成田 勝, 竹内 基
    原稿種別: 原著
    2022 年 80 巻 1-2 号 p. 25-34
    発行日: 2022/02/04
    公開日: 2022/02/11
    ジャーナル オープンアクセス

    Host species for the glochidia of the freshwater unionid mussel Buldowskia iwakawai (Suzuki, 1939) from Hokkaido were identified by determining whether the glochidia infected seventeen fish taxa in winter. The fishes were kept in tanks for 11–15 days after glochidial infection, and the number of glochidia and metamorphosed juveniles detached from the hosts were counted. Living juveniles of B. iwakawai detached from Opsariichthys platypus, Candidia temminckii, Pseudaspius hakonensis, Phoximus lagowskii steindachneri, Lefua echigonia, Poecilia reticulata, Eleotris oxycephala, Odontobutis obscura, Tridentiger brevispinis, Rhinogobius nagoyae and Rhinogobius similis. Therefore, these eleven fishes were identified as suitable host species for the glochidia of B. iwakawai.

短報
  • Angelo Vannozzi
    原稿種別: 短報
    2022 年 80 巻 1-2 号 p. 35-39
    発行日: 2022/02/04
    公開日: 2022/02/11
    ジャーナル オープンアクセス

    日本産のミジンギリギリツツ科を最初に扱ったのはCarpenter(in A. Adams, 1868)で,Adamsが明石で採集した標本に基づいて7種を挙げるとともにBrochina glabella [= Caecum glabellum]を新種として記載した。その原記載は極めて短く,B. glabra [= C. glabrum(Montagu, 1803)]との比較で,「Brochina glabraに似るが,大きく,隔板はやや膨らむがほぼ平らで,頂部は見えない」と述べられているのみであり,付記の中ではその他,C. glabriforme(Carpenter, 1857)およびC. gracile Carpenter, 1858とも比較されている。

    原記載に図は伴わないが,比較されている3種はいずれも単純なドーム型の隔板をもち,突出部(mucro)を欠くことで特徴づけられる。最初に比較されているヨーロッパ産のC. glabrumは本科の中でも最もシンプルなもので,輪肋も微細彫刻も欠いていて,隔板も単純なドーム状である。Caecum glabellumはそれよりも大型であることで東太平洋のC. glabriformeに比較されたが,後者は半球型の隔板を持つのに対してC. glabellumは平らであるとされる。そして,実際に貝殻の彫刻などは全く異なるが,隔板が平らであることでC. gracileと比較されている。これらのことから,C. glabellumは平滑でやや太い殻と平らに近いドーム型の隔板を持つことが分かる。

    しかしながら,文献を調査すると,これまでC. glabellum(和名ではミジンツツガイ)として図示されているものは,すべて明らかな突出部を持つ異なる種であった。一方で,著者の知る限りでは,これまで日本からはCarpenterの原記載に合致する標本は記録されていない。唯一可能性があるのはC. japonicum(Habe, 1978)モヨウミジンツツであり,この種はほぼ平らな隔板を持ち,サイズには変異があるがC. glabellumのホロタイプ(殻長2.2 mm)はそれに含まれる。ただし,本種の成熟した個体では殻口が弱く肥厚し狭まる。また,通常非常に印象的な色彩を示すが,単色の個体も少なくない。従って,C. glabellumは未成熟で色彩のない(あるいは退色した)モヨウミジンツツに基づいて記載された,という解釈が最も可能性が高いが,Adamsのタイプの多くが保存されているロンドン自然史博物館などにタイプが見つからないことから,この名前は不詳名とするのが適当であろう。

    実際のところ,Caecum glabellumは日本のみならず西太平洋全般における文献において,この科の中で最も頻繁に見られる名義種となっている。日本では平瀬(1934)が初めてCaecum sp.としてミヂンツツガイの和名とともに報告している。この図は極めて不明瞭であるが,元となった平瀬コレクション由来の標本は幾つかの博物館に分割保存されていて,今日ミジンツツガイとして知られている種と同種である(例えばNSMT-Mo 7921)。国内の文献で初めて明瞭な図で示されたのは,北隆館の改訂増補日本動物図鑑(内田・他,1947)とHabe(1953)で,後者では初めてB. glabellaの学名が使用されている。その後日本の文献でこの名前,あるいはCaecum glabellumとして度々図示されているが,すべて隔板に明瞭な突出部分をもつものであり,そのほとんどは日本海のロシア沿岸から記載され,日本の温帯域に広く分布するC. bucerium(Golikov in Golikov & Scarlato, 1967)に一致する。この種は平滑な貝殻に黄褐色の殻皮を具え,隔板には爪状の突出部分を持つことで特徴づけられる。一部の文献では,C. buceriumはインド・西太平洋に広く分布するC. neocaledonicum de Folin, 1868ヒノイデミジンツツやモヨウミジンツツに誤同定されている場合がある。また,加藤(1990, 2000)がB. glabellaミジンツツガイとして図示している個体は,半球状にやや突出した隔板をもつことでC. buceriumとCarpenterの原記載のいずれとも異なる。(要訳:長谷川和範)

  • 山上 竜生, 和田 哲
    原稿種別: 短報
    2022 年 80 巻 1-2 号 p. 40-46
    発行日: 2022/02/04
    公開日: 2022/02/11
    ジャーナル オープンアクセス

    北海道南西部の恵山岬沖,水深700~950 mの4地点から,トロール調査によって採集されたカシマナダバイBuccinum kashimanumおよびエゾボラ属の一種Neptunea sp.の胃内容物を報告する。カシマナダバイでは498個体中207個体,エゾボラ属の一種では80個体中16個体の胃に摂餌の痕跡が認められた。胃内容物は,カシマナダバイから7種類(多毛類,ギボシムシ,巻貝,二枚貝,ホヤ,イソギンチャク,魚類)及びデトリタスと未同定種,エゾボラ属の一種から3種類(多毛類,二枚貝,ホヤ)と未同定種が認められた。両種に共通して,最も高頻度に検出された餌は多毛類であったが,餌の組成は採集地点間で異なった。餌の組成と摂食率に性差はみられなかった。これらの結果は他のエゾバイ科貝類から報告されている内容とも類似するが,一部の地点でカシマナダバイが頻繁に摂食していたギボシムシは,これまでどの近縁種の胃内容物からも報告されたことがない。エゾバイ科貝類は,生息環境や状況に応じてさまざまな食物を利用できるが,多毛類に限らず丸飲み可能なワーム形の底生動物はそれらの主要な餌資源となっていると考えられた。

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