最近の南シナ海,東シナ海や台湾沖での調査航海によって得られた,既知種の新たな分布記録について報告するとともに新種を記載した。
日本の温帯域からの分布記録南下拡大種としてErgalatax tokugawai Kuroda & Habe, 1971トクガワヒメヨウラク,Abyssotrophon soyoae(Okutani, 1959)クマノツノオリイレ,Nipponotrophon shingoi Tiba, 1981 シンゴヌノメツノオリイレを,また,ニューカレドニアや南太平洋から分布記録地北上の種としてEnixotrophon procerus(Houart, 2001)とActinotrophon fragilis(Houart, 1996)を報告した。また,下記の3種を新種記載した。
Abyssotrophon weijencheni n. sp.
タイプ産地:南シナ海19°48′N, 116°29′E, 1,205~1,389 m。
本種はTsuchida(1991)が大槌沖の刺網から“Trophonopsis delicatus Kuroda, 1954ヒナツノオリイレ”として報告した種(これはHasegawa, 2009が指摘しているように本当のヒナツノオリイレとは別種である)に彫刻などが最も近似するが,後者はより浅い水深に生息するもので,殻がより細長く縫合の下の肩部がむしろ凹んでいることで本新種と区別される。
Enixotrophon petalospeira n. sp.
タイプ産地:南シナ海22°20′N, 120°03′E, 720~766 m。
唯1個体の生貝標本に基づく新種で,Enixotrophon ziczac(Tiba, 1981)イナヅマツノオリイレに見かけ上近似するが,本新種はそれよりも螺塔が高くかつ太く,螺層の膨らみが弱く,縫合の下の肩部がやや凹み,また,彫刻の縦肋の湾曲が弱く管状とならず,螺肋との交点がこぶ状となることで区別される。これに関連してイナヅマツノオリイレについても再検討を行い,こちらはE. pulchellus(Schepman, 1911)の異名となる可能性を示唆した。
Scabrotrophon fedosovi n. sp.
タイプ産地:南シナ海18°49′N, 113°58′E, 1,151~1,286 m。
本種はS. emphaticus(Habe & Ito, 1965)ナミジワツノオリイレに最も近似するが,小型で螺塔が低く,水管がより細長く,異なる彫刻を持つことで区別される。また,S. densicostatus(Golikov, 1985)からは,より殻質が軽く,螺塔が低く,縦肋が薄いことなどで区別される。
これらに加えて,最近南シナ海と日本から新種として記載されたSiphonochelus hasegawai Houart, Buge & Zuccon, 2021の台湾からの記録について詳細に報告した。
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