Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
Online ISSN : 2189-7697
Print ISSN : 1348-2955
ISSN-L : 1348-2955
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 松田 春菜, 矢野 重文
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 1-13
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    奄美群島の徳之島を模式産地とするヒメムシオイDicharax purus (Pilsbry & Hirase, 1904)は,奄美大島にも分布すると報告されてきたが,これまで徳之島産の標本と奄美大島産の標本との比較検討は行われてこなかった。そこで本研究では,徳之島で採集したヒメムシオイと奄美大島から採集した標本を用い,Dicharax属6種とMetalycaeus属3種とともにミトコンドリアDNAのCOI領域及び16S領域の塩基配列に基づく分子系統解析を行った。その結果,それぞれ単系統性が認められ,徳之島のヒメムシオイと奄美大島でヒメムシオイに同定されてきた個体とは遺伝的に異なることが判明した。つまり,ヒメムシオイは徳之島にのみ分布する種となる。フィラデルフィア自然科学アカデミーのヒメムシオイのレクトタイプ標本を確認するとともに,採集した2種の形態比較を行い,両種の識別点を明らかにし,混同されてきた種を新種として記載した。

    Dicharax amamiensis n. sp.アマミヒメムシオイ(新種・新称)

    殻高2.37 mm,殻幅3.75 mm(ホロタイプ)。殻は螺塔が張り出した円錐形で,半透明の白色~赤褐色を呈する。胎殻は光沢があり,滑らかで,黄白色~赤褐色を呈する。後生殻の成長肋は最初は不明瞭だが,徐々に密にはっきりと現れ,虫様管に向かって次第にその間隔が広くなり,虫様管横で再び密になる。殻口はやや大きい。殻口縁は二重になり,外側の口縁は拡張してやや反曲し,内側はわずかに前方に突出する。正面から見ると体層部分の成長肋は斜めになる。背面から見ると殻形は楕円形で,頸部で収縮し,殻口に向かってわずかに広がる。臍孔は狭く,体層の膨らみによって扁圧される。蓋は直径約1 mmの円形で,内側は中央が突起状にふくらむ。

    本種はヒメムシオイに近似するが,殻幅に対する殻高の比率がより高いこと,殻口縁が厚く,わずかに反曲すること,殻幅に対する次体層の殻幅がより広いこと,臍孔が狭いことによって区別できる。

  • Roland Hadorn, 知野 光雄
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 15-26
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    ツノマタガイ亜科ベニマキ属は近年Vermeij & Snyder (2003),Bouchet & Snyder (2013)らにより分類学的研究が進められた。一方,本邦産の種は諸文献で従来B. rhodostoma或いは B. fastigiumとされるなど混乱が見られた。今般,日本列島周辺から得られた標本を精査した結果,小笠原,伊豆半島他の浅海から2つの未記載種を認めたので新種として記載する。

    Benimakia ogasawarana n. sp. オガサワラベニマキ(新種・新称)

    貝殻は本属では小型,殻高は最大19.5 mm,殻高/殻幅比は2.26。殻形は紡錘形で堅牢,螺層は6層,初生殻は淡褐色乃至赤褐色で11/4巻,体層は膨らむ。縦肋は太く角張り肋間は広い,体層で6本。螺肋は明瞭で12本,細い間脈と縦肋を跨ぎ尖る。水管はやや短い。殻口は楕円形,内面はピンクがかった黄褐色,外唇は膨らむが肥厚せず,縁は鋸状の唇歯を生じるが内側は平坦。縫合下に規則的な白色の小細粒が並ぶ,僅かに波打つ。内唇下部には襞がある,蓋は角質で殻口を塞ぐ,核は下端にある。殻色は赤褐色乃至淡褐色で肋の間隙はやや暗色。

    ホロタイプ:殻高13.2 mm(NSMT-Mo 79579)。

    タイプ産地:東京都小笠原村父島宮之浜の潮下帯。

    分布:現在タイプ産地からのみ知られる。

    付記:本種はマダガスカル産の最近似種B. helenae Hadorn, 2024とは,殻高が小さいこと,原殻や水管が白色で,縫合下の水平配列の違いや外唇内側の螺条が多いこと等により異なる。ヴァヌアツの固有種B.rubus Bouchet & Snyder, 2013は殻幅が狭く縦肋が丸みを帯び,殻口内が淡紫彩されることで区別される。

    Benimakia rhodostoma (Dunker, 1860)ベニマキは殻高が大きく細長く,原殻が白色であり,螺層が膨らまず,縫合が広く,螺肋が密であり,外唇内側が白色に彩られ,外唇の棘突起の特徴により区別される。本種は東京都八丈島,高知県宿毛市沖ノ島,熊本県天草市牛深,鹿児島県奄美大島から得られる。奄美大島,沖縄県石垣島,更にパラオ,カロリン諸島,クック諸島,オーストラリア東部,マダガスカル,ザンジバル等からも報告があるが,これらが別種となるかは更なる検討を要する。

    Benimakia tengusacola n. sp. コベニマキ(新種・新称)

    貝殻は本属では中型,殻長は最大27.65 mm。殻幅は10 mm,殻高/殻幅比は2.3。殻形は紡錘形で堅牢,螺層は6~7層。初生殻は白色からクリーム色で11/4巻。体層は膨らむ。縦肋は太く間隔は広く体層で7本。螺肋は細く10本,間脈と縦肋を跨ぐ,水管はやや長い。殻口は楕円形,内面は白色,外唇は肥厚せず,縁は7~8本の鋸状唇歯を生じ内壁は平坦。縫合下にやや幅広の白色帯が巻き縦肋と接して僅かに波打つ。軸唇から水管は白色。蓋は角質,核は下端にある。

    ホロタイプ:殻高24.75 mm(NSMT-Mo 79581)。

    タイプ産地:静岡県東伊豆町稲取海岸。

    分布:タイプ産地の他,千葉県南房総市白浜町根本,東京都三宅島,八丈島(いずれもテングサ干場)。

    付記:本種は前種とは殻高が大きく,殻彫刻が微細で,初生層と縫合付近,体層下部水管が白色である等の特徴により区別される。種小名はテングサ漁で混獲されることを表した。

  • 澤田 直人, 宮井 卓人
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 27-42
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    ヒダリマキモノアラガイCulmenella prashadi (Clench, 1931)は本州の広い地域から記録されており,近年に生息地が急激に縮小しているヒラマキガイ科淡水貝類の絶滅危惧種である。著者らはこれまでに記録のなかった福島県において,県中部の山中の小さな池で本種の新たな個体群を発見した。

    殻および,軟体部の外部形態,内部形態(消化器系,生殖器系,中枢神経系)の検討の結果,この個体群は過去に解剖学的に研究された石川県の個体群と概ね同一の特徴を有する一方で,陰茎の包皮付属器や歯舌の形態にこれまで知られていなかった種内変異を示した。本研究の解剖学的な検証によって,ヒダリマキモノアラガイは外套の肉弁や歯舌,雄性生殖器,中枢神経系の特徴によって同属の他種や姉妹属のカワネジガイCamptoceras hirasei Walker, 1919から識別されることが確かめられた。また,新たに見出された福島県の個体群と過去に遺伝解析が行われた青森県の個体群の間では,2つのミトコンドリア遺伝子のハプロタイプにそれぞれ1つずつの塩基置換が特定された。

    本研究はヒダリマキモノアラガイ属Culmenella Clench, 1927の中枢神経系を初めて記載した。本属やカワネジガイ属Camptoceras Benson, 1843に属するほとんどの種では,形態学的,遺伝学的研究が1960年代からほとんど進展しておらず,分類の再検討に必要な情報が不足している。このような状況にも関わらず,本邦ではこれら2属の生息地が急速に失われていることから,ヒダリマキモノアラガイをはじめとする希少な淡水貝類の現存個体群の減少を防ぐとともに,本研究で発見されたような潜在的な生息地を有する地域の保全を進めることが急務と考えられる。

  • 佐野 勲, 近藤 高貴
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 43-55
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    遺伝子解析によって日本にはドブガイ属6種(ミミドブガイ,オグラヌマガイ,マルドブガイ,ヌマガイと隠蔽種2種)が生息していることが明らかになった。このうち,ミミドブガイ(S. pacifica: Lopes-Lima et al., 2020ではS. cf. woodiana 1)は外来種である。残りの日本在来のドブガイ属5種について貝殻形態の比較を行い,ヒラヌマガイ(S. plana n. sp.)とキュウシュウヌマガイ(S. kyushuensis n. sp.)の2新種を記載した。オグラヌマガイは卵円形で膨らみが強く,またヒラヌマガイは細長く平たいことで他種とは区別された。マルドブガイはヌマガイとキュウシュウヌマガイより膨らみが強いことで区別された。ヌマガイとキュウシュウヌマガイの殻形態は類似していたが,若い貝の殻皮はヌマガイでは茶色がかった緑色であるのに対して,キュウシュウヌマガイは緑色がかった茶色と異なっていた。

    Sinanodonta plana n. sp. ヒラヌマガイ(新種・新称)

    ホロタイプ:OMNH-Mo 41010,殻長110.8 mm,殻高60.3 mm,殻幅 41.0 mm。

    パラタイプ:10個体(OMNH-Mo 41011~41020)。

    タイプ産地:茨城県常陸大宮市西塩子。

    分布:東北から関東地方の太平洋岸に固有。

    形態:殻は長卵形で膨らみは弱く平たい。前縁は丸く,後縁はやや角張る。殻表は茶褐色か黒褐色。擬主歯も後側歯もない。真珠層は青みがかっている。

    備考:本種は遺伝的および形態的に同属の他種と異なっている。細長く平たい殻形態はタガイ属の種に似ているが,遺伝的には異なっている。

    Sinanodonta kyushuensis n. sp. キュウシュウヌマガイ(新種・新称)

    ホロタイプ:OMNH-Mo 41051,殻長72.3 mm,殻高46.5 mm,殻幅 29.8 mm。

    パラタイプ:18個体(OMNH-Mo 41045~41050, OMNH-Mo 41052~41063)。

    タイプ産地:宮崎県宮崎市郡司分。

    分布:九州に固有。

    形態:殻は卵円形でやや膨らむ。前縁は丸く,後縁はやや角張る。殻表は若い貝では緑色がかった茶色だが,老成すると明るい茶褐色か黒褐色となる。擬主歯も後側歯もない。真珠層は青みがかっている。

    備考:本種は遺伝的に同属の他種と異なる。ヌマガイとは殻形態は類似しているが,若い貝の殻表の色が異なることで区別できる。

  • Jan Johan ter Poorten, 知野 光雄
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 57-65
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    沖縄県,和歌山県,鹿児島県からドレッジ採集されたオオヒシガイ亜科の一種を未記載種と認めたので新種として記載する。

    Ctenocardia excavata n. sp. クビレハナザル(新種・和名新称)

    貝殻は本属では中型,殻長は8.2 mm~22.1 mm,殻高は最大22.0 mm。丸みのある亜方形,殻は厚く膨らむ。殻頂から後縁端に達する稜角は復縁に近くで弱まる。放射肋は44~49本を数え,放射肋上にはやや厚く密な鱗板があり整然と刻まれ,中央部は鱗が亜管状になる。肋間は放射肋と同幅で麟板の倍数の刻みがある。腹縁は丸みを帯びた直線状。後縁中央は明瞭に凹む。前縁端から周縁の放射肋先端は尖る。殻色はクリーム色,背面に不鮮明な赤褐色乃至オレンジの帯,斑点がある。蝶番は不均等,左右両殻に主歯2本が認められ,背縁側の後側歯は強く,前後に閉殻筋痕がある。殻内面は白色乃至淡黄色,後縁から周縁はピンク色,靭帯部は紫色を呈す。

    ホロタイプ:殻長22.1 mm,殻高22.0 mm(UMUT RM34245)。

    タイプ産地:沖縄県慶良間諸島渡嘉敷島沖,水深75 ⅿ。

    分布:現在,和歌山県串本沖,鹿児島県屋久島沖,沖縄県糸満沖および慶良間諸島から,主に死殻のみ知られる。鹿児島県喜界島の更新統琉球石灰岩から化石が得られている。

    付記:本種は従来,C. fornicata (G. B. Sowerby II, 1840) ハナザルと混同されて来たが,より小型で放射肋数が多く,彫刻は弱く微細鱗板を生じ,後縁が凹み,殻頂からの稜角が弱い等の特徴により区別される。北西オーストラリアのC. pilbaraensis (ter Poorten & Kirkendale, 2017),オーストラリア,フィリピンのC. virgo (Reeve, 1845) とも形態的に異なる。

    種小名,和名は後縁の括れを表現した。

    分布域は本邦のみに限られ,沖縄県南部ではハナザルと重なる。

    ハナザルはこれまで日本の文献ではTrigoniocardia属に置かれてきたが,同属は米国産の小型種に限定されるため,イガザルガイ属に置かれる。

  • George L. Kennedy
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 67-75
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    Penitella kamakurensis (Yokoyama, 1922)の名は,長らく日本産カモメガイ属の異なる2種に用いられてきた。Kennedy (1989)により,大型の種はオニカモメガイ Penitella gabbii (Tryon, 1863)であることが明らかにされた。いっぽう,形態的に明確に区別されるより小型の種,即ちカモメガイは未記載のままであったので,Penitella aikoae n. sp. として新種記載する。

    Penitella aikoae n. sp. カモメガイ(新種)

    小型~中型,殻長約 4 cmに達する。前背縁は短くほぼ真っ直ぐで,オニカモメガイを含む他の多くのカモメガイ類のように明瞭に凹まない。殻頂外転(umbonal reflection;新和名称)は殻体前区(anterior slope)にぴったりと重なるが,付着はしない。後縁には短く厚い葉状の殻皮を生じる。成貝では足開口を被板(callum)で覆うが,被板は不完全で,小さな開口部が残る。中板(mesoplax)には形態変異が見られるが,丸みを帯び,亜円形から楕円形で幅広く,後方に尖らない。幼貝の中板では,薄い側翼が側方に突き出ることもある。成貝まで成長すると,水管に接する穿孔穴の後端内面が石灰質の沈着物で短く管状に裏打ちされる。

    種小名aikoaeは,Jane Aiko Peck氏(元 南カリフォルニア大学)に因む。

    ホロタイプ:液浸合弁標本;殻長 28 mm,殻高 18 mm,殻幅 17 mm(CAS-IZ 028807)。

    タイプ産地:神奈川県三浦郡葉山町 長者ケ崎。

    分布: 北海道東部~本州太平洋・日本海沿岸~九州西岸(日本人では平瀬信太郎,稲葉 享,首藤次男,奥谷喬司ら先輩諸氏により採集・寄贈され,北米の研究機関に保存されている標本に基づく),大韓民国東岸。

    付記:カモメガイ P. aikoae n. sp.は,東太平洋産の Penitella fitchi Turner, 1955 に最も良く比較される。カモメガイも P. fitchiも,丸みを帯びた中板,短く,直線状~僅かに凸状の前背縁,密生した葉状殻皮を生じる後端(siphonoplax 水管板とも言える),そして不完全な被板を持つが,P. fitchi の方が顕著である。

    誤用されながら用いられてきた名 kamakurensis は,Yokoyama (1922)により Jouannetia スズガイ属で記載された。そのシンタイプは千葉県市原市の更新統チバニアンの化石殻片と神奈川県鎌倉市産の現生殻片の2個体から成るが,いずれも非常に若い幼殻である。Oyama (1973)によりレクトタイプ指定された鎌倉市産の現生標本は,オニカモメガイ P. gabbii である。非常に若い幼貝であっても,カモメガイとオニカモメガイは前背縁の長さで明瞭に区別できる。前背縁長(Ladm)と殻長(L)の比は,カモメガイで約0.25であるのに対し,オニカモメガイでは約0.3である。

  • 天野 和孝
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 77-97
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    鮮新世∼更新世の大桑・万願寺動物群中のフミガイ属にはフミガイとオンマフミガイが認められる。フミガイは本州中部の中期中新世末期に太平洋側に出現し後期鮮新世に対馬暖流の流入に伴い,半閉鎖的な日本海に出現した。一方,絶滅種であるオンマフミガイは,後期鮮新世に本州中部の日本海側に出現し,中期更新世まで生き残った。本種は現生種であるフミガイとは,放射肋上に瘤を持たないこと,肋は腹縁に向かって低く,平らな頂部を持つこと,肋間は狭いこと,さらに16~21本(通常は17~19本)とフミガイの13~19本(通常は14~16本)より多くの肋を持つことで区別される。今回,オンマフミガイは千葉県の下部更新統最上部の梅ヶ瀬層からも産出することが判明した。これは,太平洋側からの初産出であり,津軽暖流により,日本海側から移動したと思われる。

  • 山崎 大志, 池田 実
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 99-110
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    海産無脊椎動物において種固有の生活史形質は個体の分散能力にしばしば影響を及ぼすことから,遺伝的集団構造および遺伝的多様性の決定要因となりうる。一方でこうした遺伝的変異の空間分布パターンは,定期的に生じる大規模な自然撹乱の影響を受けてきたと考えられるものの,撹乱は偶発的であるため研究例は限られている。そこで本研究では海洋生態系が繰り返し津波の影響を受けてきた東北地方三陸海岸に焦点を当て,2011年に生じた東日本大震災前後の遺伝的多様性の比較が可能な種(チヂミボラ)を含む初期発生の様態が異なる6種(生活史に浮遊幼生期をもつ間接発生型の5種および直接発生型の1種)の岩礁潮間帯性巻貝を対象とし,遺伝的多様性と遺伝的集団構造を評価した。その結果,間接発生型の5種は集団間に有意な遺伝的分化がみられない一方で,直接発生型の種であるチヂミボラは顕著な遺伝的分化を示した。チヂミボラにおける津波前後の遺伝的多様性・ハプロタイプ頻度の比較から,津波前後におけるハプロタイプ構成の変化が検出され,八戸集団の遺伝的多様性は低下したことが示された。また津波の前後の八戸集団において遺伝的分化は検出されなかったが,牡鹿半島の集団では遺伝的分化が検出された。分散能力の低い本種の遺伝的多様性は,地域集団によって異なる自然選択や撹乱の影響を受けていると考えられる。今回の遺伝的多様性データに加えて,過去の津波の規模や地勢の変化を加味した海洋景観遺伝学的研究が望まれる。

  • 中山 凌, 中野 智之
    原稿種別: 原著
    2025 年83 巻1-4 号 p. 111-120
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    動物体表性カサガイであるコモレビコガモガイのホストへの付着タイミングを明らかにするため,浮遊幼生を用いた着底選好性実験を行った。人工授精によって得られた後期ベリジャー幼生を濾過海水で満たしたビーカーに一定数準備した。着底基質として,主要なホストであるヒメクボガイの粘液,同じくホストであるイボニシの粘液,成体の粘液,および対照として濾過海水を塗布した4条件の珪藻板を吊るし,24時間後に各珪藻板上で変態していた幼生数を計数した。結果,着底した幼生の数は,ヒメクボガイ基質上で最も多く,ヒメクボガイ─対照条件間で有意差が見られた。よって,コモレビコガモガイの幼生は主要ホストであるヒメクボガイの粘液に誘引されており,ホストの殻上に直接着底して付着している可能性が示唆された。

短報
  • 髙野 剛史
    原稿種別: 短報
    2025 年83 巻1-4 号 p. 121-127
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    ハナゴウナ科の腹足類は,現生全5綱の棘皮動物を宿主とする寄生者である。同科3属(Nanobalcis, Sabinella, Trochostilifer)の種はいずれもオウサマウニ科Cidaridaeのウニ類に寄生することが知られる。うちSabinella属に分類される種は宿主の殻表面,または棘に瘤を形成しその中に寄生する。同属貝類の殻は(1)螺層が膨れ明瞭な縫合を有し,時に非対称に巻き,(2)体層および殻口が大きく,底唇(および外唇)の縁が外側に反り返り,また軸唇滑層が発達することで特徴づけられる。本報では,大分県佐伯市沖の水深290 mより採取されたオウサマウニ類Stereocidaris sp.の肛門周辺(囲肛部)に外部寄生する本属の1新種を記載した。これは日本近海におけるSabinella属の初記録となる。

    Genus Sabinella Monterosato, 1890 ヒロクチヤドリニナ属(新称)

    Sabinella kawatomii n. sp. カワトミヒロクチヤドリニナ(新種・新称)

    殻は白色,塔型で僅かに曲がり,約9 mmに達する。後成殻は最大6.3巻,螺層は時に非対称に膨れる。初期の3巻は滑らかで丸みを帯びる一方,以降の層では肩が張り,成長線と波打つ浅い螺肋により不明瞭な格子状彫刻が刻まれる。外唇縁痕は明瞭で概ね0.9~1.2巻毎に現れる。体層は殻高の60~68%を占め,周縁は明瞭に角張る。殻口は大きく卵型。底唇と外唇の縁は外側に強く反り返る。軸唇はよく発達し,まっすぐで体層の軸から最大20°傾く。原殻は無色,蛹型で3巻からなる。後成殻との境界線は明瞭で,強く曲がる。種小名および和名は,本種の邦産標本を提供くださった川富光真氏(三重県)にちなむ。

    カワトミヒロクチヤドリニナの殻形態は,ニュージーランドから記載されたS. infrapatula (Murdoch & Suter, 1906)と,オーストラリアから記載されたS. minuta (Hedley, 1903)に似る。一方本種は,主に螺層の肩がより張る点で前者と,より大きな体層を有する点で後者と異なる。ヒロクチヤドリニナ属にはこのほか9ないし10種が含まれるとされるが,これらは後成殻が滑らかで彫刻をもたず,螺層の肩が張らない点で容易に区別される。

    本種はカリブ海から記載されたTrochostilifer eucidaricola Warén & Moolenbeek, 1989にも類似するが,この種は彫刻を欠き,原殻が4巻である。なお,この種の蓋を有する点,ならびに性的二型が顕著でない点は,Trochostiliferの特徴と異なる。カワトミヒロクチヤドリニナと形態的に近いこともあわせ,Sabinella eucidaricola (Warén & Moolenbeek, 1989)の使用を提唱する。

  • 大村 文乃, 舩原 大輔, 奥谷 喬司
    原稿種別: 短報
    2025 年83 巻1-4 号 p. 128-134
    発行日: 2025/07/29
    公開日: 2025/07/29
    ジャーナル オープンアクセス

    2024年5月下旬から7月中旬にかけて,静岡県駿河湾の黄金崎公園でハナイカAscarosepion tullbergiの成体,卵,孵化稚仔が,雲見で成体が,ダイビング中に目撃された。太平洋側において,ハナイカの定着が実際に確認されているのは,長年,和歌山県紀伊半島以南であった。今回の静岡県駿河湾での目撃例は,太平洋側における再生産の北限記録となる可能性がある。南方系の種であるハナイカの再生産が駿河湾で確認されたのは,温暖化や黒潮大蛇行に伴う海水温の上昇等により,繁殖域が北上・拡大したことが要因と考えられる。今後,駿河湾にハナイカが定着するか継続的な調査が必要である。

feedback
Top