Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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最新号
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原著
  • Roland Houart
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 1-26
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    パリ自然史博物館とIRD(フランス国立開発研究所)が30年以上にわたって実施した「Tropical Deep-Sea Benthos Programme(以前はMUSORSTOM)」の様々な調査によって,インド・西太平洋から得られた試料の中から,Enixotrophon属の14種が認められた。これらすべての種について,ホロタイプと一連の調査によって得られた標本を図示した。これらの種は漸深海帯から得られ,生きた個体は250~800 mの深さを中心とする198~1,280 mの深度範囲から出現した。Enixotrophon pistillum(Barnard, 1959)では新組み合わせを提唱し,Trophon johannthielei Barnard, 1959とTrophonopsis ziczac Tiba, 1981イナヅマツノオリイレはE. pulchellus(Schepman, 1911)の新異名と見なした。またE. lochi (B. A. Marshall & Houart, 2011),E. pistillumE. planispinus(E. A. Smith, 1906),E. plicilaminatus (Verco, 1909),E. pulchellus(Schepman, 1911),E. sansibaricus(Thiele, 1925)の6種について,新しい地理的分布を示した。ニューカレドニアからはE. lochiE. multigradus(Houart, 1990),E. obtuseliratus(Schepman, 1911),E. plicilaminatus(Verco, 1909),E. procerus(Houart, 2001),E. pulchellus(Schepman, 1911)の6種を記録した。インドネシアからは1新種E. karubar n. sp. を記載し,MAINBAZA調査によってモザンビーク海峡から得られた1個体の未成熟標本はEnixotrophon sp. cf. E. sansibaricusとして同定を保留した。

    Enixotrophon karubar n. sp.

    貝殻はこの属としては中庸のサイズで,殻長は最大16.45 mm(ホロタイプ),殻長/殻幅比は1.7–2.1。殻の造りは軽く,細長く,殻頂部は尖り,体層部は膨らみ縦肋の肩が棘立つ。縫合下は緩やかに傾き,初期成殻では弱く凹むが,体層では緩く凸状となる。殻色は均一な白色。

    タイプ産地:インドネシア・タンニバル諸島沖,08°42′S, 131°53′E,356~368 m。

    分布:タイプ産地の他にフィリピン・ボホール海,198~624 m(死殻のみ)。

    付記:本新種はHouart(1997: 291, figs 9–10)によってTrophonopsis plicilaminatus に同定され,またMarshall & Houart(2011: 106)によってE. sansibaricusの老成個体と見なされていた。その後,フィリピンから追加個体が得られ,独立した種であることが確認された。

    本新種は,E. plicilaminatusとは,主螺肋P1とP2の間が広く開くこと,体層が短めで周縁がより角張り,3本(E. plicilaminatusでは5~6本)の主螺肋を持つことで区別できる。また,本新種はすべての検討個体の成殻が4~6層で,初期成殻で2本だった螺肋が体層で3本(稀に4本)となることで,E. sansibaricusと異なる(後者では5~6本)。さらに,原殻は本種のホロタイプでは保存状態が良くないが,フィリピン産の個体についてみるとE. sansibaricusより幅が狭く,細長い。

  • 中山 大成, 長谷川 和範
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 27-38
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    山口県在住の杉村智幸氏が山口県沖の日本海陸棚上から採集されたイトカケガイ科の標本を分類学的に検討した結果,2つの未記載種を見出した。さらに日本海西部で実施されたドレッジ調査などのサンプルの検討や,過去の文献の精査により追加の標本や分布情報が得られたため,これらを取りまとめて新種として記載する。

    なお,日本海では2万年前の最終氷期に浅海域と漸深海帯の生物の大量絶滅が起こったことが知られており,本新種の分布からそれらとの関連についても議論する。

    Papuliscala acus n. sp. スギムラハリイトカケ(新種・新称)

    殻は8~12 mmの小型で,非常に細長い尖塔形。乳白色で縫合近傍に淡い褐色の色帯がある。各層に10~12条の強い縦肋と20~25条の微かな螺肋をなす。原殻は1層目平滑で終端部近くには多数の明瞭な縦肋が生じる。体層は明らかな底盤を形成し周辺部では強い角張りを形成し次体層の縫合上では螺肋となる。次体層は10層内外で,円筒状でひれ状とならない。殻口は1重,やや方形に近い楕円形,臍孔は閉じる。

    変異:太平洋の2か所の産地から得られた標本はいずれも大型で螺肋が強く,特に肩部では龍骨状となることで異なって見えるが,日本海産の個体でも螺肋が強まる場合があること,及び高知県沖の標本ではやや中間的な形態を示すことから,これらは種内変異と見なした。

    ホロタイプ:殻長 9.5 mm,殻径2.0 mm(NSMT-Mo 79439)。

    タイプ産地:山口県下関市角島沖(34°41′N, 130°46′E),水深128 m。

    分布:若狭湾から玄界灘までの日本海沿岸,高知県沖および紀伊半島沖,水深100~170 m。

    付記:本新種は貝殻(特に原殻)の形態が,北東大西洋の漸深海帯(水深1,830 m)から知られるPapuliscala elongata(Watson, 1887)に著しく近似することから,Pupiliscalaに属するものと考えられる。この属は大西洋の漸深海帯に分布の中心があり,同海域からは16種が知られる。一方,北西太平洋から本属として知られているのは,P. japonica (Okutani, 1964)ソウヨウイトカケのみであるが,本種はインドネシア・バンダ海の漸深海から記載されたCylindriscala humerosa(Schepman, 1909)に著しく近似することから,別属に移されるべきものと考えられる。ただし,これらの種をCylindriscala属に所属させることについては疑問の意見がある。本新種はこのC. humerosaにも見かけ上近似するが,後者は殻が太く,螺層の幅が広く,縦肋が傾かないことなどで明瞭に区別される。本種は若狭湾以西の日本海の他に,土佐湾や紀伊半島沖の太平洋からも採集されていて,日本海には最終氷期の大量絶滅の後に,黒潮の再流入に伴って二次的に日本海に侵入したものと考えられる。

    Cirsotrema sugimurai n. sp. ハナレイトカケ(新種・新称)

    殻は5~7 mmの小型で,尖塔形。螺層は大きく巻き解けてコーク・スクリュー状。各層に15~18条のヒレ状の縦肋と多数の細いが明瞭な螺肋をもつ。原殻は少旋型で約1.5層,平滑で3条の螺肋がある。殻口は楕円形,やや方形に近い楕円形,臍孔は閉じて殻底には縦肋が褶曲して形成された明瞭な繃帯を持つ。

    ホロタイプ:殻長 5.8 mm,殻径2.3 mm(NSMT-Mo 79444)。

    タイプ産地:対馬海峡(34°12.4′N, 129°29.9′E),水深110~112 m。

    分布:新潟県沖~玄界灘の日本海に恐らく固有,水深80~170 m。

    付記:本種は螺旋が解けた特異な形態を示す。属位については,底盤を欠くことでやや疑問があるが,小旋で直達発生型の原殻を持つこと,及び殻底に繃帯を持つこと(これらの形態はいずれもEpitonium属には認められない)から,暫定的にCirsotrema属に含めた。見かけ上最も近似するのは,大西洋の漸深海水深1,100~2,005 mから知られるEpotonium semidisjunctum(Jefrreys, 1884)であるが,後者はEpitonium属に典型的な平滑で多旋のプランクトン食型の原殻をもつ。原殻や成殻の彫刻の形態などから,本新種に最も近似すると考えられるのはチジワイトカケCirsotrema fimbriatulum(Masahito, Kuroda & Habe in Kuroda, Habe & Oyama, 1971)であるが,この種は殻が巻き解けないことや,明瞭な底盤を持つことで明瞭に区別される。本新種はその特異な形態にもかかわらず,日本海以外からは全く記録がなく,本科としては日本海の漸深海に分布するAcirsa morsei(Yokoyama, 1926)イナダイトカケとともに,最終氷期の絶滅を免れた日本海固有種と考えられる。

  • 近藤 高貴
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 39-46
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    マツカサガイ属は1属1種と考えられていたが,遺伝子解析によって3群(Pronodularia cf. japanensis 1~3 in Lopes-Lima et al., 2020)とされた。しかし,マツカサガイのタイプ産地は「Japan」としか記載がなく,マツカサガイの学名に該当する個体群は3群のどれか確定されていなかった。そこで3群の殻形態比較により,マツカサガイのタイプ標本に最も近い形状を示す地域個体群(北東本州固有種 P. cf. japanensis 3)を確定し,本種の再記載を行った。また,タイプ標本の採集地が江戸(東京)周辺の関東地方と推測された。

    なお,広域分布種と東海固有種とされる2群はそれぞれ有効種なのか不明確で,今後更なる遺伝学的および形態学的な解析を進める必要がある。

    Pronodularia japanensis(Lea, 1859)マツカサガイ

    レクトタイプ:NHMUK 1965181(ロンドン自然史博物館),殻長48.3 mm,殻高27.8 mm,殻幅15.2 mm。

    タイプ産地:日本(詳しい地名は不明。ただし,東京近郊の関東地方と推測された。)

    分布:東北から関東地方の太平洋側に固有。

    形態:殻は細長く,平たい。前縁は丸く,後縁は角張る。殻表面には逆V字状の彫刻があり,後背縁の放射肋は明瞭である。殻表は暗褐色で,真珠層は白色である。幼生は亜円形で,殻長と殻高が等しい。

    生態:小川や用水路の礫~砂泥底に生息する。

    繁殖:流下幼生は5月から9月にかけて見られる。

    備考:他の2群とは遺伝的に異なっている。また,他の2群より殻が平たく,殻幅比(SW/SL)が0.364以下であれば本種と同定可能(正判別率=75%)。

  • 天野 和孝, 芳賀 拓真
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 47-60
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    日本海からハナシガイ科ハナシガイ属の1新種,Thyasira inadai n. sp. イナダハナシガイ(新称)を発見し,記載した。種小名は稲田 陽氏に因む。本種は日本海と黄海に生息し,完新統の個体が新潟県上越市沖から知られる。本新種は,より浅海域に生息するThyasira tokunagai Kuroda & Habe, 1951 ハナシガイとはより大きな殻を持つこと,長く,狭い耳状突起,殻中央部の平坦面,溝で境されくぼむ小月面,狭い殻頂角,より大きな胎殻により区別される。本新種は胎殻や分子生物学的観点から北大西洋に生息する Thyasira gouldii (Philippi, 1845)(グールドハナシガイ, 新称)に近縁である。こうした系統関係の近縁性は中新世末期に開いたベーリング海峡を通じての移動による。

  • 天野 和孝
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 61-74
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    日本海のような半閉鎖的な縁海は気候変動に伴い,底生動物の種多様化の重要な役割を果たしてきた。サルボウガイ属は対馬海流の流入により後期鮮新世以降日本海に出現し,多様化した。本研究では,石川県の下部更新統最上部の大桑層から産出したサトウガイScapharca satowiを記載した。また,模式地および新潟県の下部更新統魚沼層群(中部層)産のサルボウダマシS. pseudosubcrenataについて再記載した。日本海のサルボウガイ属の全種の生存期間をまとめると,アカガイの近縁種 S. aff. broughtoniiは後期鮮新世末期,オンマサルボウ S.ommaensisは前期更新世末期の氷期(酸素同位体ステージ MIS 22), サルボウダマシは前期更新世末期の氷期(酸素同位体ステージMIS 20)に絶滅したことが明らかとなった。一方,中期更新世の間氷期にアキタサルボウ(新称)S. akitaensisが出現し,アカガイS. broughtoniiが寒冷水域に適応した。サトウガイ,アカガイ,サルボウ,アキタサルボウは日本海側と太平洋側に化石記録を持ち,前期更新世以降の氷期を生き残った。

  • 伊藤 寿茂, 柿野 亘, 市川 圭祐, 成田 勝, 竹内 基
    原稿種別: 原著
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 75-92
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    Salinity tolerances of unionoid mussels were examined in experimental tanks, and their habitats were investigated in a brackish lake. In an experimental study involving adults of three mussel species, Margaritifera sp., Lanceolaria oxyrhyncha and Nodularia douglasiae, water salinity was gradually increased from 3 to 12 psu. At 3 psu, all the specimens of Margaritifera sp. died. All the specimens of L. oxyrhyncha died in the range 6–9 psu, but N. douglasiae survived. At 9–12 psu, all the subject specimens died. In subsequent experiments on Margaritifera sp. and N. douglasiae, individuals were kept at lethal salinity (3 and 9 psu respectively) for 3 h to 2 d and then moved to safe salinity (0 psu), and almost all survived. In experiments that manipulated salinity at 1–2 d intervals from a safe level (0 psu) to a lethal level (9 psu) to safe level, and many specimens of N. douglasiae survived. However, in experiments that manipulated salinity at 1–2 d intervals from a safe level (3 psu) to a lethal level (9 psu) to safe level, many specimens of N. douglasiae died. For the experimental study on juveniles, we manipulated the salinity levels from 0 to 22–33 psu then lowered them to 0 psu within a few days. We confirmed that several glochidia of N. douglasiae and Buldowskia spp. successfully detached from their hosts and metamorphosed. During these experiments, five euryhaline fish species, Plectorhinchus cinctus and Scatophagus argus for N. douglasiae and Terapon jarbua, Paralichthys olivaceus and Paraplagusia japonica for Buldowskia sp., were newly confirmed as host species. Field research on the host species of Glochidia was conducted in the brackish Lake Ogawara in Aomori Prefecture. The number of glochidia that parasitized the fish was determined at the infected sites on the fish, as well as the glochidial encystment rate, using formalin-fixed specimens collected from the lake. Two types of glochidia were found to be parasitic in several fish species examined, both from the known host species Hypomesus nipponensis, Pseudaspius hakonensis, and Gymnogobius castaneus, and from species not previously known to be hosts, namely Platichthys stellatus, and Mugil cephalus. Taken together, these results show that adult mussels could not survive at water salinity levels above 3–6 psu but that glochidia on a host were able to survive at high salinities. This suggests that these mussel species might expand their populations to other geographical areas through brackish and sea environments via host fish migration during the glochidium stage.

短報
  • 伊藤 寿茂, 團 重樹, 柿野 亘
    原稿種別: 短報
    2023 年 81 巻 1-4 号 p. 93-97
    発行日: 2023/06/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル オープンアクセス

    イシガイNodularia douglasiaeについて,グロキディウム幼生が寄生を継続して稚貝に変態できる魚種を確かめた。自然下で貝と分布が重複する8魚種(オイカワ,グッピー,ムーンライトグラミィ,タイワンキンギョ,カワアナゴ,ウキゴリ,ヌマチチブ,ゴクラクハゼ)に幼生を寄生させて継続飼育し,各魚種から離脱してくる幼生と稚貝を観察,計数した。その結果,オイカワ,ヌマチチブ,ゴクラクハゼ,ウキゴリ,グッピーの5魚種から,変態を完了した稚貝が離脱してきた。これらのうち,前3種はイシガイの宿主として既知の魚種であった。本報ではウキゴリとグッピーの2魚種が,新たな宿主として記録されたことになる。これら2魚種は飼育下だけでなく,自然下においてもイシガイの繁殖に寄与している可能性がある。

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