四国のゴマガイ科貝類は,これまでゴマガイ亜属Sinicaの中に18の種・亜種が見つかっているが,まだ数多くの未記載種が残されている。近年,高知県内の石灰岩地帯,すなわち高知県中西部に位置し全山が石灰岩で形成されている鳥形山と高知市内の2か所から2つの未記載種を見出したので,ここに新種として記載する。日本産ゴマガイ科貝類は殻内に腔襞を持つのが常であるが,近年腔襞を欠く種が本州西部から初めて記載された。新種のうちの一つは,これに続いて,腔襞を持たない第2の種となる。
Diplommatina(Sinica)torigatadentatas n. sp. トリガタゴマガイ(新種・新称)
貝殻はこの亜属の中では大形(9個体の平均殻長 4.5 mm,平均殻径2.2 mm),殻色は淡黄白色からクリーム色を呈し,殻形は紡錘形状で殻頂に向けて細くなる。螺層は7.5層,各螺層はよく膨れて,その縫合は深い。次体層の殻径が最も太くなるが,体層では微かに狭くなる。胎殻は平滑で2層,それに続く螺層には極めて微小な板状の縦肋が規則的に配列している。殻口はほぼ円形,殻口側に非常に顕著な歯状突起が出る。殻口縁は全縁で白色,拡がって反曲する。第2口縁が殻口背面にあってそれと第1口縁との間隔は狭い。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置する。臍孔は完全に閉じる。腔襞は中程の長さで顕著,殻口の滑層に横たわっているのが透けて見える。軟体部(歯舌)と蓋は未調査。
タイプ標本:ホロタイプNSMT–Mo 78952,殻長 4.6 mm,殻径 2.1 mm。
タイプ産地:高知県高岡郡仁淀川町・鳥形山(標高1,300 m)。
分布:タイプ産地からしか記録されていない。
比較:貝殻の外観と殻色から,本新種は高知県物部村(現・香美市)大栃産をタイプ産地とするシコクゴマガイ D.(S.)shikokuensis Kuroda, Abe & Habe, in Habe, 1961 に最も類似するが,シコクゴマガイよりも,1)やや大きいこと,2)軸唇の歯状突起が大きくて,より顕著であること,3)殻口外唇が薄くて,より張り出して広がり上端が次体層に迫ることで識別される。本新種とともに同所的に出現するソコカドゴマガイ D.(S.)goniobasis Pilsbry & Hirase, 1904 は殻口に強い歯状突起を有することで本新種に比較されるが,この種は明らかに小形であること(ホロタイプ:殻長 2.7 mm)や,彫刻が下に述べるコベルトゴマガイに類似することによって本新種とは明らかに相違する。本種のタイプ産地である鳥形山は,石灰岩の採掘により,山が変容してその自然環境が悪化してきており,本種の生息が危機状況にある。
Diplommatina (Sinica) yokoae n. sp. カガミゴマガイ(新種・新称)
貝殻はこの亜属の中では中形(10個体の平均殻長 4.0 mm,平均殻径 2.1 mm),右巻き,殻表は淡黄白色,またはクリーム色,丸みをおびたさなぎ形を呈し,殻頂に向けて塔状に細くなるが,殻頂は尖らない。螺層は6.5層,各層はよく膨れ,その縫合は深い。次体層の殻径は最も太くなるが,体層ではかすかに次体層よりも狭くなる。原殻は2層で打痕状の彫刻をもち,他の螺層では多数の繊細な縦肋が規則的に配列している。殻口は円形で,殻軸側に小さな歯状突起がある。殻口縁は全縁で単純,白色で肥厚して反曲する。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置する。腔襞は完全に欠く。臍孔は閉じる。軟体部と蓋は未調査。
タイプ標本:ホロタイプ,NSMT-Mo 78950,殻長 4.3 mm,殻径 2.3 mm。
タイプ産地:高知県高知市鏡白岩(標高 700 m)。
分布:タイプ産地からしか確認されていない。
比較:本新種は日本産ゴマガイ科貝類の中で,腔襞を欠くことで中国地方から記載された腔襞を欠くダイオウゴマガイ D.(S.)nakashimai Minato, 2015に唯一比較されるが,後者は殻口背部に明瞭な二重唇を持つこと,貝殻がさらに大きいこと(殻長4.7 mm,n = 7)などによって容易に識別される。その他日本産ゴマガイ亜属の中で,本新種はトサゴマガイ D.(S.)tosana Pilsbry & Hirase, 1904 に最も類似するが,本種は腔襞を持たないこと,殻口縁が単純で一重唇であること,また縦肋が粗いことにより後種とは異なる。さらに,本種のタイプ産地において,同所的に出現するコベルトゴマガイ D. (S.)kobelti Pilsbry, 1901 は,本新種よりもより細長く小形である(ホロタイプ:殻長 3.4 mm)こと,縦肋が密に並びその間に微細な螺肋が現れること,明白な腔襞をもつことで本新種と相違する。
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