Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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最新号
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原著
  • 松田 春菜, 矢野 重文
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 1-14
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    オオシマムシオイDicharax oshimanus(Pilsbry & Hirase, 1904)は奄美大島をタイプ産地とするムシオイ亜科の一種である。フィラデルフィア自然科学アカデミーのレクトタイプ標本及びパラレクトタイプ標本を確認したところ,本種は,近年請島や加計呂麻島で採集され,アマミムシオイ(仮称)として報告されている標本と同一種であることがわかった。一方、文献上でオオシマムシオイとされている種の中にはオオシマムシオイの近似種も含まれていることが判明したため,新たに採集した標本をもとにオオシマムシオイを再記載した。なお,和名オオシマムシオイは平瀬與一郎によって命名されたもので(Kuroda, 1928),平瀬はAlycaeus oshimanusの原著者の一人であるため,タイプ標本を和名の基準標本と見なすことにする。

    また,以前より黒住耐二氏によって西表島から未記載種として報告されていたイリオモテムシオイを新種記載した。

    Dicharax oshimanus(Pilsbry & Hirase, 1904)オオシマムシオイ

    殻は円錐形で黄白色~淡い赤褐色を呈する。胎殻は光沢があり,黄白色~鮮やかなオレンジ色を呈する。後生殻の成長肋(縦肋)は最初は等間隔で隆起が鈍いが,虫様管付近に近づくと間隔がわずかに広く,明瞭になる。虫様管付近の肋は密に現れる。頸部から殻口までの長さは短く,膨らみには個体差があるが比較的弱い。殻口はやや大きく,円い。殻口縁は二重になり,外側の口縁は拡張し,内側はわずかに前方に突出する。本種は黄白色~淡褐色を呈し,正面から見たときの体層部分の成長肋が斜めになるが,混同されていた近似種は殻がより赤味を帯び,正面から見たときの体層部分の成長肋が垂直になるため,両種は識別できる。

    Dicharax kurozumitaijii n. sp. イリオモテムシオイ

    殻高2.30 mm,殻幅4.48 mm(ホロタイプ)。殻は扁平な円盤形で,半透明の乳白色~黄白色を呈する。胎殻は光沢があり,黄白色~淡い赤褐色を呈する。後生殻の成長肋は最初は密に現れ不明瞭だが,虫様管部分に向かって間隔がわずかに広くなる。虫様管が位置する部分の肋は極めて細かく,表面上は滑らかに見える。頸部は平滑で,くびれは弱い。頸部から殻口までは比較的長く,多少膨らみを持ちながら殻口に向かって螺管が広がる。側面から見ると螺管はやや下向きに伸びる。殻口は円形で多少肥厚し,口縁は拡張し,弱く重複してやや前方に突出する。壁唇部は体層に密着する。蓋は直径約1.2 mmの低い円錐形を呈し,内側は光沢を持ち,中央部には僅かな突起様もしくは円環のふくらみが見られる一方,外側は多旋形(型)で角質の膜で覆われる。タイプ産地は西表島竹富町古見。

  • 湊 宏
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 15-23
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    四国のゴマガイ科貝類は,これまでゴマガイ亜属Sinicaの中に18の種・亜種が見つかっているが,まだ数多くの未記載種が残されている。近年,高知県内の石灰岩地帯,すなわち高知県中西部に位置し全山が石灰岩で形成されている鳥形山と高知市内の2か所から2つの未記載種を見出したので,ここに新種として記載する。日本産ゴマガイ科貝類は殻内に腔襞を持つのが常であるが,近年腔襞を欠く種が本州西部から初めて記載された。新種のうちの一つは,これに続いて,腔襞を持たない第2の種となる。

    DiplommatinaSinicatorigatadentatas n. sp. トリガタゴマガイ(新種・新称)

    貝殻はこの亜属の中では大形(9個体の平均殻長 4.5 mm,平均殻径2.2 mm),殻色は淡黄白色からクリーム色を呈し,殻形は紡錘形状で殻頂に向けて細くなる。螺層は7.5層,各螺層はよく膨れて,その縫合は深い。次体層の殻径が最も太くなるが,体層では微かに狭くなる。胎殻は平滑で2層,それに続く螺層には極めて微小な板状の縦肋が規則的に配列している。殻口はほぼ円形,殻口側に非常に顕著な歯状突起が出る。殻口縁は全縁で白色,拡がって反曲する。第2口縁が殻口背面にあってそれと第1口縁との間隔は狭い。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置する。臍孔は完全に閉じる。腔襞は中程の長さで顕著,殻口の滑層に横たわっているのが透けて見える。軟体部(歯舌)と蓋は未調査。

    タイプ標本:ホロタイプNSMT–Mo 78952,殻長 4.6 mm,殻径 2.1 mm。

    タイプ産地:高知県高岡郡仁淀川町・鳥形山(標高1,300 m)。

    分布:タイプ産地からしか記録されていない。

    比較:貝殻の外観と殻色から,本新種は高知県物部村(現・香美市)大栃産をタイプ産地とするシコクゴマガイ D.S.)shikokuensis Kuroda, Abe & Habe, in Habe, 1961 に最も類似するが,シコクゴマガイよりも,1)やや大きいこと,2)軸唇の歯状突起が大きくて,より顕著であること,3)殻口外唇が薄くて,より張り出して広がり上端が次体層に迫ることで識別される。本新種とともに同所的に出現するソコカドゴマガイ D.(S.)goniobasis Pilsbry & Hirase, 1904 は殻口に強い歯状突起を有することで本新種に比較されるが,この種は明らかに小形であること(ホロタイプ:殻長 2.7 mm)や,彫刻が下に述べるコベルトゴマガイに類似することによって本新種とは明らかに相違する。本種のタイプ産地である鳥形山は,石灰岩の採掘により,山が変容してその自然環境が悪化してきており,本種の生息が危機状況にある。

    Diplommatina Sinica yokoae n. sp. カガミゴマガイ(新種・新称)

    貝殻はこの亜属の中では中形(10個体の平均殻長 4.0 mm,平均殻径 2.1 mm),右巻き,殻表は淡黄白色,またはクリーム色,丸みをおびたさなぎ形を呈し,殻頂に向けて塔状に細くなるが,殻頂は尖らない。螺層は6.5層,各層はよく膨れ,その縫合は深い。次体層の殻径は最も太くなるが,体層ではかすかに次体層よりも狭くなる。原殻は2層で打痕状の彫刻をもち,他の螺層では多数の繊細な縦肋が規則的に配列している。殻口は円形で,殻軸側に小さな歯状突起がある。殻口縁は全縁で単純,白色で肥厚して反曲する。緊線は殻口縁の上部癒着部の中央に位置する。腔襞は完全に欠く。臍孔は閉じる。軟体部と蓋は未調査。

    タイプ標本:ホロタイプ,NSMT-Mo 78950,殻長 4.3 mm,殻径 2.3 mm。

    タイプ産地:高知県高知市鏡白岩(標高 700 m)。

    分布:タイプ産地からしか確認されていない。

    比較:本新種は日本産ゴマガイ科貝類の中で,腔襞を欠くことで中国地方から記載された腔襞を欠くダイオウゴマガイ D.(S.)nakashimai Minato, 2015に唯一比較されるが,後者は殻口背部に明瞭な二重唇を持つこと,貝殻がさらに大きいこと(殻長4.7 mm,n = 7)などによって容易に識別される。その他日本産ゴマガイ亜属の中で,本新種はトサゴマガイ D.(S.)tosana Pilsbry & Hirase, 1904 に最も類似するが,本種は腔襞を持たないこと,殻口縁が単純で一重唇であること,また縦肋が粗いことにより後種とは異なる。さらに,本種のタイプ産地において,同所的に出現するコベルトゴマガイ D. S.kobelti Pilsbry, 1901 は,本新種よりもより細長く小形である(ホロタイプ:殻長 3.4 mm)こと,縦肋が密に並びその間に微細な螺肋が現れること,明白な腔襞をもつことで本新種と相違する。

  • 平野 尚浩
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 25-34
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    九州西岸の小島嶼(熊本県天草市牛深町龍仙島・鹿児島県南さつま市笠沙町宇治群島)から得られたナンバンマイマイ科オナジマイマイ属陸産貝類の二種を新種記載した。これらの種は,mtDNAおよびnrDNAの両方DNA配列データによって,日本産の本属他種とは明確に区別される(Hirano et al., 2019)。それぞれの主な形態学的特徴は以下の通りである。

    Bradybaena toshiyukihamadai n. sp. アマクサマイマイ(新称)

    殻は中程度の大きさ(殻高約8 mm,殻径約15 mm),円盤状で,4.5巻,薄く透明,黄色の殻皮を持ち,幅の狭い一本の茶色の色帯がある。殻表面では原殻と後殻が滑らか,体層はわずかに成長線で飾られている。縫合はわずかに凹む。体層の周囲はわずかに角ばる。陰茎は円筒形で長く,湾曲している。陰茎鞘は短い。陰茎の内部表面の大部分は,ジグザグ状の彫刻で覆われている。輸精管は細くて長く,輸卵管の基部に位置する。交尾嚢は袋状で,柄部は長い。膣は短くて円柱状。矢嚢はよく発達しており,細長い楕円形。矢嚢から2本の長い粘液腺が出る。

    タイプ産地:熊本県天草市牛深町龍仙島(32°8′41.6″N, 129°58′18.8″E, 標高5 m)。

    備考:浜田(1985)は,殻形態の類似性から,本新種をB. circulusパンダナマイマイとして分類すべきだと提案した。しかし,本新種の殻の全体的な輪郭パターンを定量化すると,パンダナマイマイを含めた日本産の本属他種とは大きく異なる(Hirano et al., 2019)。本新種の平均殻幅は本属の中で最も小さい(Hirano et al., 2019)。また,陰茎内の特徴的な彫刻のパターンに基づいて,パンダナマイマイとは明らかに区別される(Hirano et al., 2019)。本新種は龍仙島のほか,近傍の天草市桑島からも記録されているが(浜田,1985),筆者による調査では再発見されていない。

    Bradybaena kenjioharai n. sp. パンダナマイマイモドキ(新称)

    殻は中程度の大きさ(殻高約11 mm,殻径約18 mm),円盤状で厚く,4.5巻,クリーム色~黄色の殻皮を持ち,幅の狭い一本の茶色の色帯がある。外皮は剥がれる場合があり,殻の色は外皮の下で白色。殻表面は原殻と後殻が滑らか。体層はわずかに成長線で飾られている。縫合はわずかに凹む。体層の周囲はわずかに角ばる。開口部は丸い。殻口外唇が反転する。陰茎は円筒形で長く,湾曲している。陰茎鞘は短い。陰茎の内部表面の大部分は,格子状の微細な彫刻で覆われている。上管は陰茎よりも短い。輸精管は細くて長く,輸卵管の基部に位置する。交尾嚢は袋状で,柄部は長い。膣は短くて円柱状。矢嚢はよく発達しており,細長い楕円形。矢嚢から2本の長い粘液腺が出る。

    タイプ産地:鹿児島県南さつま市笠沙町宇治群島宇治島(31°12′10″N, 129°28′23″E, 標高15 m)。

    備考:本新種は,B. hiroshihoriiホリマイマイと同一と考えられていた(Tomiyama, 1984など)。しかし,定量的な殻形態解析や生殖器形態の観察の結果,本新種の全体的な殻輪郭パターンと陰茎内部彫刻の特徴的なパターンは,ホリマイマイを含めた他種と異なる(Hirano et al., 2019)。一方で,本新種はこれらの形態的特性においてパンダナマイマイと区別することは難しい。そのため,遺伝情報が種分類に有効である。本新種はタイプ産地の宇治島ほか,宇治向島でも記録され,宇治群島固有種であると考えられる。

  • 知野 光雄, 佐々木 猛智, 天野 和孝
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 35-40
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    小笠原諸島父島沖からドレッジ採集されたフミガイ亜科のサンプルを未記載種と認めたので新種として記載する。

    Centrocardita alticostata n. sp. オガサワラシロフミガイ(新種・新称)

    貝殻は本属では中型,殻長は最大23.5 mm,殻径は最大21.9 mm。丸みのある亜方形,放射肋は17~20本を数える。放射肋上の衝立状突起は直角に屹立し鉄道レール断面形を呈し,40枚を数え,腹縁付近の肋間では,特に密に並ぶ。肋間は放射肋と同幅で,深く逆Ω状に窪まる。後背縁付近の放射肋は衝立状突起数が8本まで漸減し,先端は大きく杓文字状になる。殻色は白色,殻背面に不鮮明な2本の赤褐色帯がある。殻内面には左右両殻で主歯2本が認められ,左殻では小さく不明瞭な前側歯が認められる。前後に閉殻筋痕がある。白色で腹周縁先端と靭帯周辺に赤褐色彩を残す。殻頂から前背縁では整然と刻まれる。

    ホロタイプ:殻長19.0 mm 殻高18.0 mm 殻厚(右殻)7.8 mm(UMUT-RM 34102)。

    タイプ産地:東京都小笠原村父島西方沖,水深140 m。

    分布:現在タイプ産地から離弁死殻のみ知られる。

    付記:本種は近隣各種とは直角に屹立する多数の放射肋,放射肋上に密に並ぶ衝立状突起等の特徴により区別される。棘状突起を有する日本産フミガイ各種の属位は,Huber (2010)により,従来使用されていたGlansからCentrocarditaに移された。

  • 平瀬 祥太朗, 池谷 蒼太, 菊池 潔
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 41-53
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    日本沿岸で漁獲される3種の大型アワビ類,クロアワビ,マダカアワビ,メガイアワビは遺伝的に非常に近いが独自の生態的特徴を示している。また,この3種の貝殻は定性的には独自の形態的特徴を持っていることが示されているが,これらの特徴の違いを定量的に評価した研究は限られている。本研究では,3種のアワビ類の貝殻形態の差異を評価した。2001年から2021年にかけて九州沿岸で漁獲された個体の貝殻標本について,殻長,殻幅,殻高,呼気孔高,螺旋高,殻口幅を測定し,各種の形態解析に用いた。メガイアワビの貝殻は,クロアワビやマダカアワビの貝殻と明確に区別でき,定量的な識別が可能であることが示された。一方,クロアワビとマダカアワビの貝殻はすべての定量的な解析において明確に区別することができなかった。このことは,貝殻の形態的特徴の測定値の分布が連続的であり,2種の中間的な特徴を持つ個体が存在する可能性を示している。

  • 松原 尚志
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 55-65
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    佐賀県唐津市の古第三系杵島層から得られたフタバシラガイ科二枚貝の1新種について記載を行う。

    Transkeia sagaensis n. sp.

    図2A–J, 3A–B

    (サガノシオガマ,和名新称)

    ホロタイプ:北海道教育大学釧路校地学研究室(HUEK)CF-00288-1。同一個体に由来する右殻の外型・内型の対。

    タイプ産地・産出層・地質時代:佐賀県唐津市北波多下平野の山田川の河床(33°22′49″N, 129°56′00″E). 杵島層。古第三紀始新世最後期-漸新世最初期。

    記載:殻は本属としては中型(最大殻長26 mm),僅かに横長(殻高/殻長比 0.82~0.88)で前方に狭くなる亜円形で不等側,薄質で膨らみは弱い(片殻厚/殻長比 0.22~0.23);殻頂は小さく弱く前曲し,殻長に対して2/5前方に位置する;前背縁は短く,弱く反る;前背-腹縁は短い放物線状でやや上方に突出する;後背縁は長く,ほぼ直線上;腹縁中部は緩やかなアーチ状,後端は亜裁断状;後稜は発達しない;殻の外側の装飾は非常に微かな共縁状の成長線と,広く間隔の空いた,やや強い不規則な共縁状の溝からなる;歯板は狭く,両殻とも2本の主歯がある;右殻の後主歯(3b)と左殻の前主歯(2)は三角形で,弱く2分する;右殻の前主歯(3a)と左殻の後主歯(4b)は短く狭い;靭帯溝はやや広く長く,弱く凹み,明瞭な歯丘を欠き,後歯板の腹縁部からは1本の細い線により区別される;前後閉殻筋痕および套線は弱い;前閉殻筋痕は長卵形;後閉殻筋痕は狭い卵形で,前閉殻筋痕よりも広いが低い;腹縁は平滑。

    付記:本新種はTranskeia Huber, 2015 (トランスカイシオガマ属;和名新称)としては最古の種である。筆者はかつて本新種をFelaniella Zemysia)Finlay, 1926 (シンウソシジミ亜属;和名新称)に含めたが,この亜属の種はより厚い殻と強い歯丘および外靭帯を有することにより本新種からは明瞭に区別される。本新種はインド東方のチルカ湖から記載された現生種のTranskeia satparaensis (Preston, 1915)(サトパラシオガマ; 和名新称)に良く似ているが,膨らみがより弱く低い殻により区別される。紅海産のTranskeia raveyensis(Sturany, 1899)(ラベヤシオガマ; 和名新称)からは,やや大形でより低い殻とより広く長い歯板および長い靭帯溝を有する点,および殻表に共縁状の点帯(concentrischer Punktstreifung)を欠くことにより区別される。Transkeia Huber, 2015のタイプ種で,南アフリカ産のTranskeia scleractinica (Kilburn, 1996)(イシサンゴシオガマ; 和名新称)からはより大形で低く,膨らみの弱い殻と,より不規則な殻表の共縁状装飾により区別できる。神奈川県の鮮新統小柴層産の標本に基づき提唱されたDiplodonta semiasperoides Nomura, 1932(和名 マルシオガマ)からは,殻の膨らみがより弱く,後縁が亜裁断状で,殻表の共縁装飾が不規則でより顕著なことにより区別できる。

    杵島層からは従来,フタバシラガイ科の種は記載・報告されていなかったが,これは本新種と共産し,形態的に類似するマルスダレガイ科のCyclinella? compressa(Nagao, 1928b)(ヒラオキシジミ;和名新称)と混同されていたためであると考えられる。

    分布:佐賀県の最上部始新統-最下部漸新統杵島層のみから知られる。

  • 天野 和孝
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 67-100
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    鮮新世・更新世の大桑・万願寺動物群のトマヤガイ科マルフミガイ属中には,現生種であるクロマルフミガイCyclocardiaCyclocardiarotunda,イサオマルフミガイC.Cy.)isaotakii,オオマルフミガイC.(Cy.crebricostata,カガミマルフミガイC.Cr. crassidens,絶滅種であるミョウガダニマルフミガイC. Cy.) myogadaniensisが認められる。このうち,クロマルフミガイの学名は従来充てられていたC.Cy.) ferrugineaからC.(Cy.) rotundaに変更される。良く知られているこの種は前期鮮新世に出現したが,後期鮮新世には日本海側に出現した。また,絶滅種ミョウガダニマルフミガイも後期鮮新世に日本海側に出現した。他の3種は中新世にカムチャツカやサハリンに出現し,Datum A(2.75万年前)の寒冷化により日本海を南下して,大桑・万願寺動物群に加わった。しかし,この分布域はそれぞれの種の南限に相当するため,水温が高く,そのために殻の大きさは小さい。

  • 平野 尚浩, 松岡 敬二
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 101-108
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    岡山県新見市久原西方に見られる備北層群是松層(前期中新世後期:17.0–16.5 Ma)から得られたヤマタニシ科 ヤマタニシ属 Cyclophorus Montfort, 1810 陸産貝類の一化石種を新種記載した。本新種は,弱い縫合と体層に見られる弱く角ばった周縁の存在から,現世日本産の本属他種や,これまで本属で唯一知られていたベトナムの前期中新世の化石種とは形態学的に異なる。

    Cyclophorus kubarensis n. sp.(クバラヤマタニシ: 和名新称)

    殻径14.7+ mm,殻高12.8+ mmと小さく(ホロタイプ),約4.5+ 巻,螺旋形かつ円錐状の球形をしている。堅牢な殻を持ち,臍孔は狭い。体層は大きく,周縁が弱く角ばっている。原殻表面は滑らかだが,それ以降の体層表面には成長線が見られる。殻口の大部分が欠けている。

    タイプ産地:岡山県新見市西方久原小野田セメント採掘地跡の下部中新統上部備北層群是松層。

    備考:クバラヤマタニシ Cyclophorus kubarensis n. sp.は,殻サイズは既知の日本産他種と似ている(Hirano et al., 2022)。これらの現生種のうち,ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi Martens, 1860 は,本タイプ産地周辺に分布する(Hirano et al., 2022)。一方で,本新種の殻形態は琉球列島産の現生種オキナワヤマタニシ Cyclophorus turgidus (Pfeiffer, 1851)により類似する。これらの現生種と比較すると,本新種の体層周縁角は弱いが,オキナワヤマタニシでは明確に角張り,ヤマタニシを含む他の日本産他種では丸い。ベトナムの下部中新統で発見された Cyclophorus hangmonensis Raheem & Schneider in Raheem et al., 2017と比較して,本新種は縫合が弱い。

  • 高見 明宏
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 109-120
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    The karyotypes of seven species of the genus Semisulcospira from Lake Biwa, Japan were examined. The observed diploid chromosome number was as follows: Semisulcospira dilatata 2n=20 (14M+2SM+4T), S. rugosa, 2n=22 (16M+4SM+2ST); S. arenicola, 2n=24 (18M+4SM+2ST); S. fuscata, 2n=26 (18M+6SM+2ST); S. ourensis, 2n=28 (20M+6SM+2T), S. reticulata, 2n=28 (1M+6SM+6T), S. sp. cf. multigranosa, 2n=28 (4M+4SM+20T). The number of chromosomes in S. niponica group ranged from 2n=18 to 32, but no case of 2n=30,34 have been reported.

  • 重田 利拓
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 121-131
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    Gari virescens (Psammobiidae) is a near-threatened bivalve species that inhabits tidal flats in Japan. Recently, it has been frequently detected in the gut contents of tidal flat fishes. The purpose of this study is to establish regression formulas for reconstructing the shell length (SL) of predated specimens. Therefore, we clarified the relative growth relationship between body parts of the bivalve and its SL using specimens from the western Seto Inland Sea of Japan. The allometric regression formula for estimating SL (mm) from shell height (SH, mm) was SL = 1.53 × SH1.0657 (r = 0.998, n = 66, P < 0.01), and the formula for estimating SL (mm) from foot length (FL, mm) was SL = 1.82 × FL1.0478 (r = 0.969, n = 39, P < 0.01). In addition, we established several other regression formulas for estimating SL. As a case study of applying these formulas, we reconstructed the SL of specimens predated by the fish Acanthopagrus schlegelii. These allometric formulas enable the reconstruction of SL from body parts and shells broken during predation.

  • 寺本 沙也加, 阿部 陽, 小林 俊将
    原稿種別: 原著
    2024 年 82 巻 1-4 号 p. 133-151
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル オープンアクセス

    The European flat oyster, Ostrea edulis Linnaeus, 1758, a species of edible bivalve native to Europe, was introduced to Japan from the Netherlands in 1952. Seeds collected from specimens were transferred to several areas in Northeastern Japan for aquaculture trials. However, in the 2000s, these trials to introduce O. edulis into Japan were discontinued. Strains of the O. edulis species were preserved in several Japanese laboratories, but since the laboratories were washed away by the 2011 Tohoku Earthquake and Tsunami, the species was considered to be extinct in Japan. However, this study confirmed the survival of the species in several locations in Iwate Prefecture, notably Yamada Bay. This is the first recorded case in Japan of a non-native oyster species, originally introduced through aquaculture, naturalizing in Japan's marine environment. Ostrea edulis has been found in several sites beyond those where it had been introduced previously. This suggests that O. edulis may be expanding into other areas in Japan. Multifaceted discussions on the handling, commercial use, and epidemiological testing of the species will be necessary in the future.

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