著者らは別に「休耕乾田雑草群落の遷移に関する研究」を進めているが, オオアレチノギクが2年目に繁茂し, 3年目以後に急減する現象を見ている (未発表)。それを解明するため, 次世代の発芽および生育に対する相対照度の違いおよび自種根の混在の影響を調べた。その結果, 次のことが判明した。
(1) 相対照度の違いは, 発芽には影響しないが, 幼植物の生育に影響を与える。すなわち, 相対照度15.5%程度では, むしろ100%よりも生育が良好であるが,6%以下になると著しい徒長型となり, 生育も不良であった。
(2) オオアレチノギクの根中, または根の分解産物中に自種の幼植物, 特に根の生育を阻害する作用及び幼根の背地性を誘引する現象が示された。すなわちオオアレチノギクの成植物, 幼植物の根皮を土に混ぜた時に,オオアレチノギクの幼植物の生育阻害と幼根の浮き上がり (背地性) の誘引作用が見られた。それら両作用とも混じた根皮量が多いほど著しかった。また, 土に混じた根皮が同量の時, 成植物の根皮混在区は生育阻害に, ロゼット幼植物の根皮混在区は背地性の誘引に, より強く作用したので, それら作用は異なった2種の要因に支配されているのではないかと考えられる。またオオアレチノギクの根皮混在はアレチノギクの幼植物にも影響し,アレチノギクの根皮にも相似した現象が認められた。
(3) それら生育阻害および幼根の背地性現象は, オオアレチノギクの根皮の抽出液の2~4倍に濃縮した液, とくに4倍液では両種ともきわめて顕著な背地性が示された。なお, 発芽には根皮の混在または抽出液の注加は影響を与えなかった。
(4) 10月中旬に根皮を含む土と含まない土に播いて, 12月下旬に0.5~7葉の生育段階となった個体を用い, 幼植物の大きさと越冬枯死との関係を調べたところ, 根皮を含んだ土で発芽した葉期の小さい徒長型の個体は2月下旬までに全部または大部分が枯死し越冬できなかったが, 5葉以上のロゼット型個体は枯死率0~20%で, その殆んど全部が越冬した。
圃場では, 土性によって物質の吸着, 流出の差があることから, この実験結果そのままが実際にあてはまるかどうかは議論があろう。しかし, 筆者らは, 休耕田の雑草群落を調べたところ, 2年目にオオアレチノギクの優占するところでの密度は1m
2に200本近い本数があり, 長さ1m前後の本種個体の根皮は約5g (湿重) あるので, 若しそれが5cmまでの深さの土中に混じていると考えると, 土300g中17gの割合で混ざっていることになる。加えて密生のため地表近くでの相対照度は5%以下が測定される。このような日陰と根の堆積のために, 実験I, IIで示されるような条件が具わっていると見てよかろう。すなわち, 2年目の植物体の次世代は著しい生育阻害を受け, 12月下旬でロゼット型になれば徒長型となったので越冬ができないと推定できる。この事実は, 休耕田2年目に大繁茂したオオアレチノギクが3年目に急減する主原因であることを示すものであろう。このような, その種の繁栄にとって一見マイナスとなる自己中毒現象が種生態からどう説明できるか難かしいことだが, 恐らくこの種は休耕田で一つの所に続いて生存するよりも, 新開地を求めて分布を拡大し, 現状の大繁栄を維持しているものであろう。
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