水田に発芽・発生するタイヌビエ種子の発芽過程におけるアルコール発酵系を前報 (YAMASUE
et al., 1987) に引きつづき明確にするため, 幼芽, 幼根の伸長と alcohol dehydrogenase (ADH), cytochrome c oxidase (cyt. oxidase) 活性の関係, CO
2放出とエタノール (EtOH) 生成との量的関係を検討した。
タイヌビエ種子の好気 (Air), 嫌気 (N
2) 条件下における幼芽 (子葉鞘および中茎胚軸) の伸長は, 30℃明条件の置床後48hrから始まり, その伸長量は Air 条件でやや大であった (Figure 1-A)。これに対して, 幼根の突出・伸長は幼芽と同様48hrに開始したが, N
2条件下では根鞘の突出のみで幼根の突出は認められなかった (Figure 1-B)。Air 条件下のADH, cyt. oxidase 活性の変動は, 幼芽, 幼根の伸長とよく同調した結果が得られ, 一方, 置床後高い活性のあったADHは, Air 条件下で幼根の突出とともにその活性が急減し, cyt. oxidase 活性が増大し始めた (Figure 1-C, D)。しかし, 幼根の突出が認められないN
2条件下ではADHは高い活性を維持し, cyt. oxidase は初期値の低い活性から大きく変動することがないことから, 幼根の突出・伸長は cyt. oxidase を含む好気呼吸に依存していることが示唆された。
また, EtOH生成とCO
2放出の量的関係を検討した実験においては, 休眠覚醒種子が Air 条件下に置床された48, 72hr後の EtOH/CO
2比はともに0.8, N
2条件下ではほぼ1.0を示した。このことから, 本実験では, Air, N
2両条件下ともに幼根の未突出の72hrまでは嫌気的なアルコール発酵系の関与が大きいことが明らかとなった (Table 1)。
以上の実験結果は, タイヌビエ種子はそれをとりまく環境の酵素濃度に係わりなく発芽初期は, 主にアルコール発酵系で嫌気的な呼吸をしていることを示している。したがって, 湛水された水田のような嫌気的条件に近い環境においてもタイヌビエ種子は発芽し, 幼根の伸長は抑制されるが, 幼芽はほとんど影響されることなく伸長すると考えられ, このことは水田におけるタイヌビエの発生生態をよく説明していると思われる。
抄録全体を表示