アリルオキシフェノキシ系除草剤シハロホップブチルのイネ科植物種間の選択性について, その傾向を明らかにする目的で, 作物, 牧草, 雑草にわたる26属29種のイネ科植物の3~4葉期の実生に対して同剤を100g/haおよび300g/haの薬量で茎葉処理し, その反応を調査した。
チガヤを除いたキビ亜科ならびにスズメガヤ亜科に属する種はいずれも感受性で, 100g/ha処理で全個体が枯死した (Table 1)。これらのなかには水田および畑の主要夏雑草であるタイヌビエ, イヌビエ, ヒメタイヌビエ, ヒメイヌビエ, アゼガヤ, メヒシバ, オヒシバ, アキノエノコログサなどが含まれていた。スズメノテッポウおよびレッドトップ (いずれもイチゴツナギ亜科) も同様に感受性であった。一方, イチゴツナギ亜科のうちシバムギ, スズメノカタビラ, ウマノチャヒキ, チモシー, オオムギおよびコムギの6種, イネ亜科の2種すなわちイネおよびエゾノサヤヌカグサならびにチガヤは300g/ha処理でも全く枯死せず, 耐性であることが認められた (Table 1)。他の4種 (イチゴツナギ亜科) は中間の反応を示した (Table 1)。イネは最も耐性が高く, 300g/ha処理でも生長に全く影響がみられなかった (Table 2)。以上のように, イネ科植物に対するシハロホップブチルの選択性には亜科の単位で一定の傾向がみられた。
シハロホップブチル処理によって生じる典型的な肉眼的症状は, 未展開の抽出葉の枯れ込みおよび展開した最上位葉の伸長停止と葉身下部の黄白化であり, これらの症状は程度の差はあるものの, イネ, ウマノチャヒキを除くすべて種に共通して現れた。他の展開葉は感受性種においても変化がなく長期間緑色を維持した。しかし, 植物体の生死はこれらの症状ではなく, 展開葉の活性が失われる前に新しいシュートが形成されるかどうかに依存しているとみられた。また, これらの新シュートはほとんどの場合分げつ (あるいは根茎先端の上向き出芽) として発生した。また耐性種の生存個体では, 処理によってむしろ分げつが増加する場合も認められた (Table 2)。チガヤの実生では感受性種と同様に処理後10日以上も完全に生長が停止したが, その後形成されたごく短い根茎の頂芽から出芽して生き延びた (Table 3)。これらの観察結果から, イネ科植物のシハロホップブチルに対する感受性には, 茎頂における腋生の形態形成力が関係していることが示唆された。
抄録全体を表示