大阪府堺市上神谷の水田地帯において, 伝統的畦畔, 基盤整備10年後の畦畔, 基盤整備6年後の畦畔, 基盤整備直後の畦畔を選び, 1997年4月から1997年12月まで約1ヶ月に1回, その平坦面と畦畔草地の植生を全推定法により調査し, 同地点における山口らの調査結果と比較した (第1表)。平坦面における畦畔一本当たりの総出現種数の平均は, 伝統的畦畔では35種, 基盤整備10年後の畦畔では36種, 基盤整備6年後の畦畔では35種, 基盤整備直後の畦畔では35種であった (第2表)。畦畔草地における畦畔一本当たりの総出現種数の平均は, 伝統的畦畔では35種, 基盤整備10年後の畦畔では29種, 基盤整備6年後の畦畔では38種, 基盤整備直後の畦畔では33種であった (第3表)。出現種数には畦畔間に大差はなかったが, 生活型と在来・帰化種の組成は異なっていた。伝統的畦畔では多年生在来種が多く, 一年生植物種と帰化種は少なかった。基盤整備された畦畔では基盤整備後の年数が経るにつれ多年生帰化種が優占する傾向にあった。
伝統的畦畔の平坦面では草刈りがあっても種多様性に急激な変化はみられなかったが (第1図, 第6表), 基盤整備された畦畔では草刈りによって種多様性は急激に低下した (第2, 3図)。伝統的畦畔の植生は, 草刈りの頻度に応じてシバ草地 (シバ型群落) とチガヤ草地 (チガヤ型群落) およびススキ草地 (ススキ型群落) の間を移行すると考えられた (第2, 3表)。伝統的畦畔では群落の立体構造が発達し, 草刈り後も草高の低い種により植被が確保され, 高い種多様性も維持されるが, 基盤整備された畦畔では群落の立体構造が単純なため, 草刈り後, 高い種多様性を維持できないと推定された。
伝統的畦畔と基盤整備後の年数が経過した畦畔の間では在来種と帰化種の出現に明瞭な差異がみられ (第4, 5表), また基盤整備後の年数の経過とともに植物種の置き換わりもみられた (第5, 6図)。特に畦畔草地でこの傾向が顕著であり, 基盤整備後の年数の経過した畦畔の畦畔草地ではセイタカアワダチソウの被度が高かった (第3表)。
本研究は, 基盤整備が畦畔の植生に大きな影響を与え, 帰化種の存在によって植生の遷移過程が変わることを示した。
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