本稿の目的は,転職による短期的・長期的な賃金変化について明らかにすることである。分析に際しては,特に①転職時の年齢と②転職理由の違いに着目し検証を行った。
まず,「短期的」な効果については,転職理由のいかんによらず,40 代より前なら年収の増減率は変わらないことが明らかになった。加えて,労働条件・勤務地・仕事内容に関する不満や会社の将来性の不安を理由とする転職では,40 代まで転職年齢によって年収の増減率に違いが生じないこと,また,賃金に関する不満を理由とする転職では 50 代まで転職年齢によって増減率に違いが生じないことが明らかになった。一方で,「長期的」な効果については,25歳,30 歳,35 歳の各年齢で転職した場合と,しなかった場合の賃金と年齢の関係を,転職経験者の転職前と転職後の賃金関数を推定して比較したところ,いずれの転職理由においても,より若年で転職したほうが長期的に年収の増加分を多くするか,もしくは,減少分を少なくすることが確認できた。また,転職による年収の増減は,非自発的転職か自発的転職かによって異なることは既存研究の示すとおりであるが,自発的転職であっても賃金・労働条件・勤務地・人間関係に関する不満といった転職理由の違いによって,年収への効果が異なることが示された。
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