文化人類学研究
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23 巻
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特集論文
  • ――人と向き合う現場からの報告――
    浮ヶ谷 幸代
    2022 年 23 巻 p. 1-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー
  • 藤田 和樹
    2022 年 23 巻 p. 6-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー

     医師は医学部で膨大な医学的知識を学び、病棟実習を経て医師となる。しかしこの過程がもたらす変化について、医学の内部にいる医師自身は自覚していない。私は医学部在学中に古典を中心とした文化人類学の教育を受け、医学生そして医師へとなったという点で稀有な背景を持つ臨床医である。そして自らや周囲に起こる変化をメモし、フィールドノートとして振り返ることを繰り返し、医師になる過程を「医師化」と名付けて考察してきた。医師化には医学を追い求めることにより診療技術が向上し、他の医師・医療職との円滑なやり取りによる医療の効率化や最適化を得られる利点がある。一方で、生物医学モデルは科学的な視点で構成されているため、患者の生活から遠ざかる側面があり、生物医学モデルが適合しないケースでは医療としての展開が阻害されるという問題がある。私は生物医学モデルでは解決が困難な現場での問題を人類学的視点で捉え直すことで、自らの視点や問題設定そのものが変わり、解決に必要な資源を見出し、課題が解消できることを経験してきた。人類学の医学への適用は、①現場で実践するフィールドワークを中心にした学問であることと臨床医の日常的実践との親和性の高さ、②現場に資源を見出そうとする効率の良さがあり、また③自身の相対化により医学的な限界を乗り越える可能性や、④医師自身のサファリングの解決の糸口をもたらし得る。本稿の特徴は医師自身が内部から医師になる過程を考察し、医学生から医師になって以降までを観察対象に入れたことである。そして医師としての専門化を必ずしも否定的には捉えず、むしろ変化とその持つ意味に対して自覚的であることによって、医師自身を助ける可能性があることを示した点である。医療現場というフィールドにおいて、自覚的な医師化に邁進しながら、一方でそのカウンターとして医師化しない領域を意図的に拡張し続ける医療実践を報告する。

  • ――支援者としての医療を目指して――
    中村 香代子
    2022 年 23 巻 p. 24-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー

     本稿では、病院勤務を経て、地域医療に従事するようになった私の歩みを紹介する。病院勤務にて、絶えず診療に没頭し、自身の生活を意識することがほとんどなかった私は、診療所勤務となって初めて、病院という場所は生活の場から切り離された非日常的な空間であることを認識した。日々の暮らしを大切に営む人々と接することで、自分自身も医師であるのと同時に、一人の生活者であることを自覚した。自分の足で地域を歩き、地域特有の方言を学び、そこに住まう人々の暮らしや生き方を知ることで、地域に受け入れられるとはどういうことかを考えた。自分をこの地域で育てて欲しいという思いを伝え、地域に暮らす住民の一人として、自分に求められていること、自分にできることを意識するようになった。このような地域との向き合い方を可能にしてくれたのは、自分にとっての当たり前を問い直し、自らの立場や在り方を相対化するという、学生時代に学んだ人類学の視点であった。そして、暮らしの場である地域だからこそ、医師自身の中にも生活者としての自覚が芽生え、自身の視点を問い直す姿勢を養うことができる、これこそが地域医療の魅力ではないかと考えるようになった。また、医師自身の価値観は患者との関わり方に大きく影響する。医師自身がこれを自覚し、自分の価値観を自認するためには、「自己を知る」という取り組みが必要であると思う。ライフを生きる他者を介して自己を再発見し、見つめ直す。その実践として、私は人類学と地域医療の協働に期待したい。さらに、医療者・患者双方が「生活者」であるという認識を共有し、互いを理解するために、医学と人類学との対話がより一層深まることを願っている。

  • ――キリスト教徒の医学生として――
    土肥 清志
    2022 年 23 巻 p. 39-57
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー

     私は福音派プロテスタントのキリスト教徒として育ち、入学した医科大学で文化人類学と出会った。そこで習う文化相対主義は聖書絶対主義の福音派信仰とは相容れないものであり、相対主義に内在する自己矛盾に対しても強い反発を感じた。しかし、文化相対主義の文化人類学には私自身の信仰に欠けていた重要な要素である、他者理解の姿勢があった。最終的に、聖書絶対主義という視点を捨てることで文化相対主義と信仰を調和させる道にいたったのだが、その過程で相対主義的なキリスト教信仰者との出会いが大いに影響した。この経験を踏まえて以下4点を主張した。第1に、当時の自分自身のキリスト教信仰の文化相対主義に対する反発の根源には聖書絶対主義があったこと。第2に、文化相対主義への反発には、他者の絶対主義を批判して相対主義を貫徹していなかった文化相対主義者である恩師への反発があったこと。厳密な相対主義は自分自身にしか主張できないが、それを徹底することはほぼ不可能に近い。その点を理念と実践の違いという点から分析した。その上で、真の文化相対主義は実践不可能だが、他者理解のために掲げるべき理念ではある、と結論した。第3に、私の反発の根源的動機であった文化相対主義の倫理的課題に対する扱いに関して検討した。ダニエル・エヴェレット(Daniel Everett)の『ピダハン』における事例を用いることで、倫理相対主義ではない文化相対主義が成立することを説明した。第4に、全体を踏まえた考察として、キリスト教文化に人類学の視点がどのように影響したかを振り返ることで、生物医学の文化に対して人類学の視点がどのように影響しうるか検討した。そして、生物医学の絶対主義によって生じる齟齬に対して人類学の視点は役立つと主張した。最後に架空の事例に対して文化相対主義を学んだ現在の私がどのように実践するかを示した。この事例検討を通じて、私自身が1)病者本人がどのような生活を希望しているのかの主軸をよく確認すること、2)生物医学を相対化すること、を重視していることを示した。

  • 密山 要用
    2022 年 23 巻 p. 58-77
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー

     本論文では、医師が地域医療に携わる上で生活者の視点と医療専門家の視点をどのように取り扱えばよいか、その振る舞いにフィールドワークの経験と人類学者との対話がどのような影響を与えうるのかについて、一人の医師である私の事例を基にして検討する。

     医師になるとは、生活者である若者が異文化の場としての医学部に入り、医療の「あたりまえ」を自文化としていく過程であり、一方で生活者としての視点を失っていく過程でもある。生活者目線の「ふつうの医師」を志し、大学ではなく地域で、臓器別専門医ではなく家庭医への道へ進んだ筆者だが、次第に医師の視点が強化され、生活者の視点を失っていった。一方で地域医療という生活と医療が交差する現場で、両者の「あたりまえ」の違いに悩み、「もやもや感」が生まれていた。そこでもやもや感の探求のために一度臨床現場を離れ、島根のとある集落で酒づくりをする人たちとコミュニティナースを自称する看護師たちの実践を調査者としてフィールドワークする経験を得た。そして、人類学者らとの対話を通して、当初のもやもや感がいずれも医師の視点から一方的に地域の生活を捉えるものであったことに気付かされ、また地域に住む生活者の視点をそのままに受け取るというフィールドワークにおける重要な姿勢を学んだ。医師にとって、地域での医療の実践を深めていく上で、生活と医療の境界に生まれる様々な「もやもや感」を大切に扱うこと、医療と生活両方の視点を包括する「いかにしてともに生きていくか」という問いを立てて生活者視点を再構築すること、「健康づくり」ではなく「地域づくり」の一員として地域の人々の仲間に加わることが重要かもしれない。このような医療と生活の境界をフィールドワークする営みを「地域でふつうの医師として医療をすること」と呼びたい。

  • 浮ヶ谷 幸代
    2022 年 23 巻 p. 78-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、フィールドワークという営みを通して地域医療に携わる医師と人類学者との関係について、両者の間にある類似点に着目しながら両者の対話と連携の可能性について考えることである。筆者は、医師と人類学者との関係について、長期の滞在、専門用語と民俗用語(方言)、他者理解への道、「相対化」から自分を発見する、という4つの観点から論じる。そして、もう一つ、人類学者が現地で人々から信頼を得ることがフィールドワークの要であるように、地域医療を実践する際に、医師もまた患者や家族に受け入れられることが重要となる。ところで、医師が信頼されるためには、まずは医師が患者を信頼する必要がある。このことはフィールドワークをする人類学者も同様に、現地の人たちへの信頼が不可欠であることに気づくことになる。これらの一連のフィールドでの態度で鍵となるのは、どちらも相対化という態度であり、それは医療の臨床実践と人類学のフィールドワークから培われるものである。医師たちにとっての相対化とは、目の前の患者を理解しようとする態度から生まれているが、それは自分が変わるという営みが鍵となる。医師と人類学者との対話を通して、医学と人類学の共通する点を手掛かりに両者の間の協働が可能であることに気づき、今後フィールド経験を通してともに学び合うことができることを指摘する。

  • 清水 展
    2022 年 23 巻 p. 91-98
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー
  • 白川 千尋
    2022 年 23 巻 p. 99-111
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/28
    ジャーナル フリー
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