CD44遺伝子導入細胞を用い、CD44の細胞運動や浸潤へのかかわりを解析した。
1.ヒトCD44陰性肺癌細胞株にCD44cDNAを導入し、マウス皮下に移植したところ、形成された腫瘍の浸潤性が増加し、腫瘍組織中でのマトリックスメタロプロテイアーゼ2 (MMP-2) の活性が増強していた。これらの細胞はヒアルロン酸存在下ではMT2-MMPの発現が亢進し、CD44と同様の局在性を示した。この結果からCD44のリガンド刺激で誘導されたMT2-MMPは組織中のMMP-2を活性化し、細胞浸潤を亢進させることが示唆された。
2.ヒトCD44陰性乳癌細胞にCD44cDNAを導入し、ヒアルロン酸存在下で培養すると細胞運動が亢進し、この亢進はRhoの特異的阻害剤であるC3の添加あるいはdominant negative Rhoを細胞に導入すると抑制された。この細胞をヒアルロン酸で刺激すると、細胞質内にアクチンのストレスファイバーが形成された。CD44のリガンド刺激によって、Rhoの活性化とそれに続くアクチンの重合を生じさせ、細胞運動を制御していることが示唆された。
3.1.と同様の細胞をヒアルロン酸および抗CD44mAbで刺激すると、 focal adhesion kinase (FAK) のチロシンリン酸化およびキナーゼ活性が増強した。
以上の結果から、CD44はリガンド刺激によって細胞内にシグナルを伝達し、MT2-MMP発現亢進やRhoの活性化を通して腫瘍細胞の運動や浸潤にかかわっていることが示唆された。
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