山口医学
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59 巻, 1 号
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総説
  • 市山 高志
    2010 年 59 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    「インフルエンザ脳症」は約10年前に疾患概念が提唱された比較的新しい病気である.本疾患は「インフルエンザの経過中に急性発症する意識障害を主徴とする症候群」と定義される.剖検脳では,著明な脳浮腫を認めるものの,炎症細胞浸潤やインフルエンザウイルスはみられない.従ってインフルエンザ脳炎ではなく,「インフルエンザ脳症」と命名された.当時は死亡率30%,後遺症率25%という極めて予後不良であった.その後の研究で,本疾患の病態に高サイトカイン血症が関与し,末梢血単核球の転写因子NF-κB活性化が明らかになった.抗サイトカイン療法としてステロイドパルス療法および免疫グロブリン大量療法が提唱され,普及した現在は死亡率10%弱に低下した.しかしインフルエンザ脳症の病態は単一でないことが明らかになり,現在は高サイトカイン血症が病態の中心でない「けいれん重積型脳症」といわれるタイプが,高率に神経学的後遺症を残すことから問題となっている.このタイプの病態は長時間のけいれんによる神経細胞に対する興奮毒性が主と考えられている.従って,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法は有効でなく,なんらかの脳保護的治療が模索されている.しかし,現時点で有効性が証明された治療法はなく,効果的な治療法開発が今後の課題である.
  • 松山 豪泰
    2010 年 59 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    【背景】中心体は細胞分裂時,紡錘体極を形成するタンパク複合体であり,その複製は厳密に調節されている.近年,種々の癌腫において中心体複製異常(1細胞あたり3個以上の中心体が存在)が報告されている.そこで膀胱癌における中心体複製異常の関与とその臨床的意義について研究を行った.【対象と方法】中心体複製異常とゲノム変異および細胞周期関連タンパクとの関連を基礎検討する目的で膀胱癌経代培養細胞株8株を対象とした.また中心体複製異常の臨床的意義を検討する目的で膀胱癌臨床検体102例を対象とした.中心体複製異常と検討には抗ペリセントリン抗体を用いた蛍光免疫染色を,ゲノム変異検索目的にはcomparative genomic hybridization(以下CGH)法,fluorescence in situ hybridization(以下FISH)法を,細胞周期関連タンパク検索目的には免疫組織染色法をそれぞれ用いて実験を行った.【結果】培養細胞を用いた基礎検討結果より1)中心体複製異常細胞株の定義は中心体複製異常細胞が全体の5%以上を占めること,2)20番染色体13.2領域のコピー数増加は複製異常細胞株に特異的な変化であり,同領域上に存在するAurora-A(中心体の成熟化や細胞質分裂を調節するキナーゼタンパクをコード)のコピー数増加および同タンパクの過剰発現が中心体複製異常株でみとめられること,3)これまで膀胱癌でもっとも高頻度にコピー数異常が報告されている7,9,17番染色体コピー数異常は中心体複製異常細胞に合併して認められること,4)p53,BubR1などの細胞周期関連タンパクの過剰発現が中心体複製異常細胞に合併していることが明らかになった.臨床検体を用いた検討結果では59例(57.8%)に中心体複製異常を認め,多変量解析により同複製異常は膀胱癌における臨床進展の独立予後予測因子(Risk ratio:3.12,95% CI:1.36-13.4,p=0.0039)であった.【結語】中心体複製異常はp53異常と20番染色体13.2領域のコピー数増加によるAurora-A過剰発現により発症しやすく,膀胱癌における予後予測因子となりうることが示唆された.
ミニ・レビュー
  • 松井 智浩
    2010 年 59 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    炎症性サイトカインや一酸化窒素(NO)は脳障害増悪に関与することが知られている.活性化マイクログリアはこれらの細胞傷害性(炎症性)因子産生を介しニューロン傷害を引き起こす.よって,脳(ニューロン)保護を目的とする脳低温療法の一作用機序に,活性化マイクログリアからの炎症性因子抑制の関与が考えられる.しかし,その機序は未だ明らかでなく,特に抗炎症性サイトカインに対して低温が及ぼす影響は全く不明であった.そこで,本療法による脳保護作用機構を調べる目的で,リポポリサッカライド(LPS)活性化培養マイクログリアからの炎症性および抗炎症性サイトカインとNO産生に低温・高温が及ぼす影響を調べた.その結果,低温下ではマイクログリアからの炎症性サイトカイン(IL-6),抗炎症性サイトカイン(IL-10)およびNO産生が低値を示すことが判明し,脳低温療法による脳保護作用の一機序に,炎症性因子抑制のみでなく,抗炎症性因子抑制も関与する可能性が示唆された.また,高温下ではマイクログリアからのIL-10産生が特異的に増加することも初めて証明した.このIL-10の温度依存性変化は,IL-10が低温下でのニューロン保護効果および高温下でのニューロン傷害増悪において,病態把握のための重要なマーカーになりうることを示唆している.
原著
  • 菅 一能, 河上 康彦, 玉井 義隆, 迫平 篤, 松永 尚文
    2010 年 59 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    癌が異なる臓器に存在しかつ別個に発癌する重複癌の頻度は,1980年以降の調査で1.53-8.5%の頻度で,高齢化や治療の進歩による第一次癌の生存率の向上により頻度は上昇傾向にある.他臓器重複癌は患者管理に大きな影響を及ぼすため検出は重要であるが,全身諸臓器の検索が可能な18F標識フルオロデオキシグルコース(FDG)PET/CT検査は,その検出に有用な検査法になる可能性がある.本研究では,当施設で3374例に行われた腫瘍関連のFDG PET/CTで認めた他臓器重複癌例を検討し,本検査の他臓器重複癌の検出における有用性を検討した.FDG PET/CTで検出された他臓器重複癌は17例(0.5%)の18病変で,同時性重複癌が10例(58.8%),異時性重複癌が7例(41.1%)で,頭頸部癌で検出された例が最も多く,臓器別では胃,肺に多かった.このうち6例(35.2%)ではPET/CTが重複癌発見の契機となった.7例(41.1%)は比較的早期の癌で根治的に腫瘍切除が可能性であった.FDG PET/CTは予期せぬ他臓器重複癌を非侵襲的に検出する手段として有用で,重複癌を来たし易い癌や臓器を念頭に置き読影する必要がある.
症例報告
  • 久保 秀文, 来嶋 大樹, 北原 正博, 多田 耕輔, 宮原 誠, 長谷川 博康, 高橋 徹
    2010 年 59 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    今回,我々は腫瘍局所治癒切除後,1年目に巨大潰瘍を伴い残胃内再発した悪性リンパ腫の1例を経験した.症例は70歳代,女性で2006年4月頸部リンパ節の生検で濾胞性リンパ腫と診断された.PET検査で全身の多数箇所に異常集積を認め,リツキシマブを含む全身化学療法を施行し治療効果CRが得られた.2007年6月吐血を契機に胃悪性リンパ腫を診断され,全身状態を考慮して胃局所切除のみ施行し術後14日目に軽快退院した.病理組織検査ではびまん性B細胞性リンパ腫と診断され,追加の化学療法は投与しなかった.2008年6月下血を認め,精査再入院となった.胃内視鏡検査で胃噴門直下の小彎側に潰瘍を伴う腫瘤を認め同年,7月2群リンパ節郭清を伴う胃全摘術を施行した.病理組織検査では前回切除病変と同じびまん性B細胞性リンパ腫であった.同年9月に悪性リンパ腫の全身再燃を来たし永眠された.若干の文献的な考察を加えて報告する.
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