山口医学
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62 巻, 1 号
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総説
  • 中澤 淳
    2013 年 62 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    江戸時代の毛利藩における医学教育は,本藩と4つの支藩において独自の展開をみせた.また,長崎との距離や交通の要衝下関の存在は,防長二州(周防,長門)における西洋医学の受け入れを助けたと考えられる.歴史的には徳山藩における医学館および四熊家の私塾見学堂が古く,天保年間に萩本藩に開設された好生館(堂)は,漢方と蘭方の優秀な教授陣による医学教育機関であった.明治に入ってから赤間関(下関)と三田尻(防府)における医学校開設や独自の医術試験施行など,新たな機運が盛り上がったが,それらは比較的短命に終わり,本格的医学教育は第2次大戦中宇部に創設された山口県立医学専門学校により再開された.
ミニ・レビュー -小西賞受賞者ー
  • 小林 茂樹
    2013 年 62 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    悪性高熱症,カテコラミン誘発性多形性心室頻拍症(Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia:CPVT)や心不全においては,リアノジン受容体(骨格筋型:RyR1,心筋型:RyR2)内のドメイン連関障害が,リアノジン受容体からのCa2+漏出の原因と考えられている.悪性高熱症の治療薬であるダントロレンは,RyR1に結合し,RyR1内のドメイン連関障害を是正することによってRyR1からのCa2+漏出を抑制する.同様に,イヌ心不全モデルやCPVT型knock-inマウスにおいてもダントンは,RyR2に結合し,RyR2からのCa2+漏出を抑制し,心不全の進展やCPVTを抑制する.このように,ダントロレンはRyR2を分子標的とした新しい心不全・不整脈治療薬となることが期待される.
症例報告
  • 河岡 徹, 深田 武久, 桑原 太一, 松隈 聰, 金子 唯, 原田 俊夫, 平木 桜夫, 福田 進太郎, 播磨 陽平, 浦山 直樹, 久野 ...
    2013 年 62 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は41歳女性.検診の腹部超音波検査で尾状葉突起部に突出型,35mm大の肝腫瘤を指摘された.HBs抗原ならびにHCV抗体は陰性であった.経口避妊薬などの内服歴はなかった.腹部CT, MRI,超音波検査で腫瘤全体は早期で強く造影され,後期ではwash outされた.MRIではT1強調で低信号,T2強調で一部やや高信号であった.血管造影でも腫瘍は強く濃染された.PET-CTでは腫瘍に18F-FDGの集積を認めなかった.AFPならびにPIVKA-Ⅱは基準値内であった.肝細胞癌など悪性腫瘍の可能性も完全には否定出来ず,増大傾向を認めた為,診断かつ治療目的で,腹腔鏡補助下肝尾状葉突起部部分切除術を施行した.最終診断は肝血管筋脂肪腫(肝AML),筋腫型であった.術後の経過は良好で,第9病日に軽快退院した.肝AMLの中でも腫瘍内に脂肪成分が殆どない筋腫型の場合,他の疾患との鑑別は困難である.また腫瘍が小さい場合は細小肝癌との区別に苦慮する場合もある.そのため,診断治療目的に腹腔鏡(補助)下肝切除術を行うことは有用と思われる.本症例は腹腔鏡下手術が手技的に難しい尾状葉原発であったが,突起部からの突出型であったため,腹腔鏡補助下で手術を行い,確定診断が得られた.肝尾状葉原発腫瘍であっても,症例を選択すれば,腹腔鏡(補助)下肝部分切除術は可能である.
  • 松永 一仁, 西川 潤, 中村 宗剛, 西村 純一, 五嶋 敦史, 岡本 健志, 武田 茂, 中村 陽平, 星井 嘉信, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代の男性.近医での上部消化管内視鏡検査で食道に隆起性病変を指摘され,精査加療目的で当科に入院した.上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道から食道胃接合部にかけて縦走する隆起性病変を認め,下部食道ではBarrett食道を認めた.隆起部の生検で腺癌と診断された.食道造影検査では,胸部下部食道で壁変形が強く台状変形を認めた.造影CT等で気管分岐部,噴門部,右半回リンパ節転移が疑われたが,遠隔転移は否定的であった.胸腔鏡・腹腔鏡補助下食道亜全摘術を施行し,病理診断は中分化型腺癌で外膜浸潤を認め,癌の脈管侵襲が目立った.内視鏡的・病理学的にBarrett食道が認められ,Barrett食道由来の腺癌の可能性が考えられた.本病巣は著明な脈管侵襲により縦走する形態を呈したと考えられた.
  • 田邉 規和, 播磨 夕美子, 橋本 真一, 寺井 崇二, 山﨑 隆弘, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は31歳の女性.18歳時にCrohn病と診断され,当科での治療を開始された.経腸栄養療法や5-ASA製剤,ステロイドや抗TNFα抗体製剤等の内科的治療を行うも効果不十分であり,消化管合併症の悪化から24歳時に回腸部分切除術,26歳時に回盲部切除術,28歳時に回腸および上行結腸切除術を施行し,残存小腸は約280cmとなった.その後も症状は安定せず,成分栄養剤による経腸栄養療法を勧めるも患者の理解が得られず,長期の絶食および中心静脈栄養を施行していた.31歳時頃より,見当識障害および活動性低下が認められたため当科入院となった.腹部骨盤単純CT検査上,肝萎縮を伴う肝硬変の状態と考えられ,血液生化学検査にて著明な肝機能障害およびアンモニア値の上昇を認めたため,非代償性肝硬変症による肝性脳症と診断された.血液検査上HBVおよびHCV感染は否定され,飲酒歴もなく,以前より脂肪肝が認められ,肝胆道系酵素の上昇も認められていたことから,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による非代償性肝硬変と診断した.年齢と肝機能から肝移植を考慮したが,適したドナーがいなかったことと,患者が肝移植を希望しなかったことから対症療法を継続した.その後もCrohn病や肝硬変の加療で入退院を繰り返し肝不全により死亡した.重症Crohn病の経過中に複数の要因からNASHを併発し非代償性肝硬変症へ進展した,極めてまれな症例を経験したため報告する.
  • 横田 恭之, 橋本 真一, 柴田 大明, 播磨 郷子, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代の女性.Hodgkin病および関節リウマチに対して他院にて加療中であった.血液検査にて貧血を指摘されたため,上部・下部消化管内視鏡検査が施行されたが,出血源となる病変は検出されなかった.その後下血が認められたため,小腸出血が疑われ当院へ紹介となった.腹部骨盤造影CT検査では消化管内への造影剤の漏出はなく,空腸に憩室が認められたため,精査目的にて経口的シングルバルーン小腸内視鏡検査が施行された.胃十二指腸および空腸に多発する潰瘍と空腸Treiz靭帯近位に憩室内潰瘍が認められた.ジクロフェナクを常用されており,NSAIDs関連腸管粘膜障害が考えられた.憩室内には腸管内容物が貯留しやすく,高濃度のNSAIDsが憩室内に停滞したことが,憩室内に粗大な潰瘍を形成した要因と考えられた.小腸に憩室が認められる症例に対してはNSAIDsの投与は慎重に行う必要がある.
  • 白築 祥吾, 岡本 健志, 浜辺 功一, 仙譽 学, 西川 潤, 橋本 憲輝, 吉野 茂文, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    Brunner腺過形成は主に十二指腸球部に生じる良性疾患であるが,出血や消化管閉塞を来すことも報告されている.今回我々は5年に渡り内視鏡による経過観察を行い,最終的に出血を来したため手術を行ったBrunner腺過形成の一例を経験したため報告する. 症例は50歳代男性.検診を契機に十二指腸球部に長径15mm程度の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を指摘され,当科に紹介となった.生検から腫瘍性病変の可能性は低いと判断し,年1回の上部消化管内視鏡検査(EGD)にて経過観察されていた.しかし,病変は年々増大し30mm大となったため,精査目的で当科入院となった.入院の2~3日前から黒色便が認められたため,EGDを施行したところ,経過観察中の病変表面にびらんが生じ,出血が認められた.病変が増大傾向にあることと再出血の可能性を考慮し,切除の適応と判断した.内視鏡的切除は困難であったため,外科的に十二指腸部分切除術が施行された.摘出標本の病理組織診断にてBrunner腺過形成と診断された.本症例はBrunner腺過形成の出血に至るまでの形態変化を経時的に追えた点で貴重と考えられた.
  • 花園 忠相, 野口 哲央, 森 健治, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代男性.2001年に大腸癌と診断され,右半結腸切除術を施行されている.2011年11月,発熱,上腹部痛が持続するため近医受診.腹部エコー及び腹部CTで肝膿瘍を認めたため精査,加療目的のため当院紹介,入院となった. 入院後施行したMRIで肝S5下縁に肝膿瘍を疑う腫瘤及び胃前庭部に腫瘤を認めた.肝膿瘍に対しては経皮経肝膿瘍ドレナージ及びスルバクタム・セフォペラゾン(SBT/CPZ)の投与を行い,膿瘍の縮小が得られた.膿瘍の培養ではSt. milleri Grpが検出され,細胞診はclassⅠであった.また,上部消化管内視鏡検査を施行し,胃角部前壁に2型進行胃癌が発見されたため,当院外科転科となり幽門側胃切除術が施行された. 大腸癌に合併した肝膿瘍の報告は散見されるが,胃癌との合併の報告は比較的稀である.大腸癌に肝膿瘍が合併する機序としてはmucosal barrierの破壊が原因による経門脈性感染と考えられているが,胃癌でも同様に経門脈性感染が原因の一つと考えられた.肝膿瘍の原因として上部消化管疾患の検索も必要と考えられた.
  • 川野 道隆, 白井 保之, 松永 一仁, 白澤 友宏, 松永 尚治, 横山 雄一郎, 野原 寛章, 近藤 哲, 新開 泰司, 斎藤 満
    2013 年 62 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    真性腸石の本邦報告例は少数に過ぎない.酸化マグネシウム製剤の長期内服により大腸内多発腸石を来した稀な1例を報告する.症例は70歳代,女性.腰椎圧迫骨折,尿路感染症で入院したが,入院中に脳梗塞を発症し寝たきりとなった.便秘に対して酸化マグネシウム製剤を開始した約3年後に腹部膨満が悪化した.腹部CTで大腸内に多発する1cm大の石灰化を有する構造物を認め,下部消化管内視鏡検査では大腸内に多発する黄白色の腸石を認めた.結石分析検査で炭酸マグネシウム結石が疑われたため,酸化マグネシウム製剤の長期投与により形成された腸石を疑い,酸化マグネシウム製剤の中止と排便コントロールを行い,2週間後の腹部CTで腸石は消失した.これまでの真性腸石の本邦報告例では狭窄,憩室などの器質的因子が明らかであることが多いが,本症例では明らかな器質的因子はなく,寝たきりの状態による腸管運動機能の低下や腸管拡張が停滞因子となり腸石形成に関与したと考えられた.
  • 河岡 徹, 深田 武久, 桑原 太一, 松隈 聰, 金子 唯, 原田 俊夫, 平木 桜夫, 福田 進太郎
    2013 年 62 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2013/02/01
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    自然止血していた肝細胞癌破裂症例に対して腹腔鏡下肝外側区域切除術を施行した稀な1例を経験したので報告する. 症例は61歳女性.主訴は軽度の圧痛を伴う上腹部腫瘤.CT, MRI, 超音波検査にてS3に約5cm大,肝表突出型で増大傾向を伴い,早期相で不均一に造影される単発性の肝腫瘍を認めた.肝機能は異常なく,HBs-Ag(-),HCV-Ab(-)であった.術直前のAFPは45071ng/ml, PIVKA-Ⅱは8420mAU/mlと著明高値であった.以上より肝細胞癌を疑い,腹腔鏡下肝外側区域切除術を行うこととした.気腹後,腹腔内を観察したが,少量の血性腹水ならびに小網と膵臓に被覆された肝腫瘍を認め,破裂した肝細胞癌が自然止血されている状態であった.循環動態・バイタルサインも安定していた為,腹腔鏡下手術を続行した.肝細胞癌破裂自体,腹膜播種が危惧される予後不良因子であるが,腫瘍表面を覆っていた小網と膵前被膜の一部を腫瘍側に付け,破裂部を露出させず,また腫瘍自体も極力鉗子などで圧排しないよう注意しながら手術を完遂した.手術時間は331分,出血量は腫瘍からすでに出血していた量を含めて50mlであった.術後経過は良好で,第11病日に軽快退院した.術後10ヵ月経過した現在,画像上再発を認めず,AFP, PIVKA-Ⅱともに基準値内に低下しているが,本症例は破裂を伴うStage Ⅳaの肝細胞癌のため,厳重follow up中である. 肝細胞癌破裂に対する腹腔鏡下肝切除術の報告は文献上,殆どみられない.出血が完全に制御されており,循環動態・バイタルサインが安定している症例では,破裂症例といえども腫瘍の圧迫や破裂部の露出などがないよう細心の注意を加えながら手術を行えば,腹腔鏡下肝切除術も可能と思われる.
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