山口医学
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62 巻, 4 号
山口医学
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 伊藤 浩史
    2013 年 62 巻 4 号 p. 191-197
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    マイクロRNA(miRNA)は約22塩基の非常に小さいnon-coding RNAで,転写後翻訳レベルでの遺伝子発現制御を担っており,多くの腫瘍においてその発現量の変化が報告されている.我々は,口腔癌および食道癌などの主要な組織型である扁平上皮癌におけるmiRNA発現をマイクロアレイを用いて検討し,外科手術材料ホルマリン固定パラフィンブロック標本を用いて検定,miR-205が扁平上皮のマーカーとして極めて有力であること,miR-21は腺癌と同様に扁平上皮癌でも正常に比べて有意に発現が亢進していることを明らかにし,miR-205とmiR-21の発現量を検討することで扁平上皮癌の分子病理診断が可能であることを報告した.さらに頭頸部扁平上皮癌の有力な予後関連因子である肝細胞増殖因子(HGF)に着目し,培養細胞系を用いてHGF刺激前後でのmiRNAの発現変化を検討し,HGFの機能発現に関わるmiRNAの同定を試みた.その結果Epithelial mesenchymal transition(EMT)等,がんの浸潤転移に関わる機能遺伝子の発現を調節しているmiRNA(miR-200cおよびmiR-27b)を同定し,これらの機能を阻害することで頭頸部癌の進展を阻害できる可能性を示唆した.また,前立腺癌における各Gleason分類で発現するmiRNAについても検討し,前立腺癌におけるmiRNAの発現量は個々のGleason pattern(GP)ではなく,全体としての悪性度,つまりGleason score(GS)によって変化していること,特にmiRNA-182の発現量は高リスクの癌に対して有用なマーカーとなり得ることを明らかにした.本稿ではこれら我々の研究成果を中心に,これまでに分かっているがんとmiRNAの関連性,特に診断,予後,治療マーカーとしての可能性について概説する.
原著
  • 武藤 正彦
    2013 年 62 巻 4 号 p. 199-204
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    稀少かつ難治な7つの皮膚疾患(天疱瘡,表皮水疱症,先天性魚鱗癬様紅皮症[非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症],膿疱性乾癬,神経線維腫症(Ⅰ・Ⅱ),色素性乾皮症,結節性硬化症の7疾患の生体試料(血液由来の遺伝子,血清および皮膚組織)の収集を厚生労働科学研究費補助金事業の一環として2009年度に着手した.その永続的な管理運営体制の構築に向けて,乗り越えなければならない問題点を探索した.その結果,(1)生体試料は一体誰のものか,(2)研究成果物の知的財産権の帰属先はどこか,ということが問題点として浮上してきた.それに対して,現行のインフォームド・コンセント法理をもってしても不十分であり,社会への利益還元の方策を解決すること,そして配分的正義に基づく研究者間での利益分配の思想の導入の必要性を主張した.
症例報告
  • 河村 大智, 永瀬 隆, 佐村 誠, 山下 修, 村上 雅憲, 末廣 晃太郎, 森景 則保, 濱野 公一
    2013 年 62 巻 4 号 p. 205-210
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    緊急ステントグラフト内挿術で治療した破裂性腹部大動脈瘤の4例について報告する.年齢は60~90歳,男性3例,女性1例であった.術前Rutherford分類はレベル1が1例,レベル2が2例,レベル3が1例,Fitzgerald分類はII型1例,III型3例であった.EVARの術前評価は,2例では紹介医からの単純CTのみで,2例では造影CTでなされた.来院から手術までの時間は119±48分,全例にゴア社製エクスクルーダーが留置された.手術時間は212±93分,出血量は169±197gであった.3例はエンドリークなく経過したが,1例は早期にtypeⅠbエンドリークによる再破裂をきたし,瘤切除・人工血管置換術が行われた.90歳の高齢の1例を失ったが,3例は社会復帰している.
  • 吉田 久美子, 小野田 雅彦, 勝木 健文, 古谷 彰, 河野 和明, 加藤 智栄
    2013 年 62 巻 4 号 p. 211-215
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代の男性で,黄疸を契機に膵癌と診断された.外科的根治切除を目的に開腹したが,術中迅速病理組織検査で傍大動脈リンパ節に転移を認め,非切除となった.そこで総胆管空腸吻合とともに,QOLの維持及び通過障害の予防を目的とした,十二指腸離断を伴う全胃温存十二指腸空腸吻合を行った.その後外来化学療法を行いながら社会復帰を果たし,腫瘍増大は認めたものの黄疸や通過障害を来すことなく,術後2年5ヵ月の生存を得た.切除不能膵頭部癌に対する十二指腸離断を伴う全胃温存十二指腸空腸吻合は,病変部からバイパス路を十分に離すことで腫瘍進展に伴う狭窄を回避することが出来,また全胃温存効果により消化吸収機能の温存と栄養状態の維持を可能とする,有用な術式ではないかと考えられた.
  • 久保 秀文, 中須賀 千代, 多田 耕輔, 宮原 誠, 長谷川 博康
    2013 年 62 巻 4 号 p. 217-222
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    われわれは食道癌術後に発生した難治性の乳糜胸に対し酢酸オクトレオチド投与を含めた保存的治療を行った1例を経験した.症例は52歳男性,2012年9月に進行食道癌;c-T3 N1, M0, StageⅡの診断で術前化学療法を施行し11月に右開胸食道亜全摘術,3領域リンパ節郭清術を施行した.術後第3病日より右胸腔ドレーン排液量が増加し乳糜胸と診断した.低脂肪食摂取を継続し同時に酢酸オクトレオチドを連日投与した.一時的に排液量は漸減したが500ml/日以上の排液が持続した.その後ミノマイシンを胸腔内へ追加注入したがすぐには奏効が見られなかった.脂肪制限食と中心静脈栄養(total parenteral nutrition:以下,TPN)を併用した栄養管理を継続させ,再度の酢酸オクトレオチド投与を連日行ったところ徐々に排液量の減少を認め,術後50日目にドレーン抜去し59日目に軽快退院した.2000年以降に報告された食道癌術後乳糜胸の24例を集計して多角的に検討したので文献的考察を加えて報告する.
  • 久保 秀文, 中須賀 千代, 多田 耕輔, 宮原 誠, 長谷川 博康, 矢野 誠司
    2013 年 62 巻 4 号 p. 223-228
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    患者は81歳,男性.便潜血陽性を主訴に来院した.上行結腸に2型腫瘍を認め,術前スクリーニングとして施行したCTで右腎に約2cmの腫瘍も指摘された.腎癌・上行結腸癌の重複と診断し,一期的に腹腔鏡下で右腎摘出と右半結腸切除を施行した.腎と結腸を各々専門手術チームが担当することにより安全にストレスなく手術を施行できた.手術時間は4時間12分,出血量は30cc以下であった.また術後合併症も認めず,第7病日目に軽快退院した.
  • 尼﨑 陽太郎, 久我 貴之, 田中 裕也, 岡 一斉, 藤井 康宏, 山口 裕樹, 三谷 伸之, 永冨 裕二, 濱野 公一
    2013 年 62 巻 4 号 p. 229-233
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    稀な腹壁筋層内ポートサイト再発をきたした胆嚢癌の1例を経験したので報告する.症例は60歳代の女性.平成17年1月,総胆管結石に対して内視鏡的乳頭切開術を施行し,総胆管結石を排石した.胆嚢結石症に対してLaparoscopic Cholecystectomy(以下LC)を行ったが,術後病理検査にて胆嚢癌と診断された.総胆管切除+リンパ節郭清(D2)を施行し,術後補助化学療法を行った.平成20年7月,右季肋部にポートサイト再発を認め,腫瘤切除術を施行した.腹腔鏡下胆嚢摘出術後に胆嚢癌と診断される頻度は1%弱であり,そのうちポートサイト再発を来した症例は15.6%と報告されている.ポートサイト再発の多くは,腹膜から筋層浸潤したものとされるが,本症例では筋層のみと稀な再発形態であった.
  • 小林 成紀, 林 雅太郎, 上田 和弘, 濱野 公一
    2013 年 62 巻 4 号 p. 235-239
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    症例は40歳代の男性で,検診の胸部X線写真にて肺野の異常陰影を指摘された.原発性肺癌の疑いで右上葉切除術が行われ,pT2aN0M0と診断された.原発巣には大細胞癌と腺癌が同程度に混在し,一部にラブドイド形質が認められた.補助化学療法施行にも関わらず,術後7ヵ月目に腹痛を契機に十二指腸転移を指摘された.化学療法と膵頭十二指腸切除術が行われたが状態は改善せず,初回術後11ヵ月目に永眠された.再発巣は,ほとんどがラブドイド形質を伴う大細胞癌で占められていた.本腫瘍は治療抵抗性で,予後が不良である.完全切除後であっても厳重な経過観察が必要であると同時に,本腫瘍に対する標準的治療法の確立が望まれる.
  • 野口 哲央, 花園 忠相, 森 健治, 沖田 幸祐, 坂井田 功
    2013 年 62 巻 4 号 p. 241-246
    発行日: 2013/11/01
    公開日: 2014/02/13
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の女性で,下腹部痛を主訴に受診し,腹部CTで内臓動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断された.血管造影検査では広範囲にわたって血管径の不整や動脈瘤が認められ,回結腸動脈瘤が出血源と考えられた.動脈塞栓術にて症状は改善した.血管造影所見から分節性動脈中膜融解,segmental arterial mediolysis(以下,SAM)と診断された.TAE後1年10ヵ月のCTでは,未治療の動脈瘤と血管狭窄は消失していた.SAMは比較的稀な疾患であり,長期予後の報告もないため自然予後を理解する上で興味ある症例と思われたので,報告する.
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