薬物と受容体の相互作用を適切に評価することは, 構造と活性を論ずる上で重要である。この相互作用は, 静電相互作用, 立体反発, 分極相互作用, 分散力, 電荷移動相互作用, 疎水相互作用等に分けて考えられる。
静電相互作用の重要性については, 酵素反応に関連した量子化学計算から確かめられている。更に, 酵素と基質あるいは阻害剤の静電ポテンシャルが, たがいに相補的な空間分布をすることが知られている。また, この分布を論ずる際, 系の電荷分布を表すためには, いわゆるマリケンチャージでは定量的には不十分なので, 筆者らは, 非経験的分子軌道法 (
ab initio法) の計算結果を再現する新しい電荷のセットを提案し, 生体関連物質への適用の結果を, 発表している。立体反発・分極相互作用・分散力は原子間の距離を見積ることによって, 評価が可能である。例えば, Lennard-Jonesポテンシャルを仮定して, 数値的に求めればよい。疎水相互作用については, 系のエントロピーを考慮しなければならず, その本質的理解は難しい。しかし, 水-octanol系での分子の移行自由エネルギー変化の実験値と分子の表面積に基づいて, 簡便にそのエネルギーを見積る方法が試みられている。
上に述べた相互作用は, 二分子間の電荷 (電子) の移動を伴わない場合であるが, 酵素等化学反応を特に意識しなければいけない場合は, この電荷移動を考慮に含めなければいけない。
ab initio分子軌道法によれば, 適当な方法論と基底関数に基づいて, 電荷移動相互作用エネルギーを評価できる。しかしながら, 薬学分野で問題にされる系はかなり大きなもので, この方法論をそのまま適用することはできない。
そこで, 電荷移動相互作用に対応する指標, 分子軌道分布相関インデックス (MO distribution correlation (MODIC) インデックス), を考案し, Diels-Alder反応系 (1-methoxy-1, 3-butadiene-acrolein系, cyclopentadiene-maleic acid anhydride系, 2-methoxy-5, 6-dimethylene-1, 3-cyclohexadiene-ethoxyethylene系, 1, 3-pentadiene-methy acrylate系, 6, 6-dimethylfulveneisobenzofuran系) に適用した。その結果, DielsAlder反応系において, 反応中心の位置と置換基配向性が実験と矛盾なく数値的に再現できた。
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