足立文太郎博士に関しては国内外を問わず、数名の研究者により報告がなされているが、その報告の主たる内容は軟部組織に生じる人種間の差、いわゆる軟部人類学的な考えからもたらされた「日本人の血管系」に関する業績に関する報告事項がすべてである。今回、著者らはこれらの先行報告を踏まえて、足立の研究に対する姿勢、思考の結果作成された書籍、論文とその様な論文を作成するに至る足立の人物像について述べた。特に人生をかけて作成された「日本人の血管系」の所見報告が、世界中の研究者や解剖教科書の中で、足立の書に典拠を求めるに至ったかについてのその要因については以下の様にまとめることができる。
①当時の医学の主流であるドイツ語で書かれている。
②広く全世界の医系の大学に外務省在外公館の協力のもとで謹呈されたので、現在でも世界の医系の大学図書館に所蔵されている。
③当時の著名な海外の解剖学者にも個人的に謹呈されているので、血管系の研究で足立の業績を引用している。
④我が国においても医学部や医科大学図書館に謹呈されており、容易に調べることができる。
⑤小金井良精(こがねいよしきよ)による多大な足立への援助により、世界の足立へと海外に名を知らせることができた。
以上よりこれまでの報告では触れていなかった足立文太郎博士に関する人物像、研究業績、日本人の脈管系の研究書の出版に関する逸話、などについて、今回、京都大学に保存されている資料を基にこれまでの先行報告に追加して報告した。
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