Ⅰ.はじめに
地方都市の公共交通施策に最も影響を与えたのが,2002年2月の道路運送法改正による規制緩和である.既にモータリゼーションの進展で赤字化していた地方のバス路線に対し,多くの地方都市は赤字補てん等を行い,路線維持に努めたが,利用者の減少はさらに進み,減便や廃止が続いた.本市でも,不採算路線の整理統合や廃止が加速するものと考え,2002年度から関係各課により構成された「公共交通問題研究会」を立ち上げ,市民3,000人を対象にバス利用の意識調査を実施するなど,バス路線の現状把握や対応について研究した.その結果,公共交通を維持するためには路線バスのシステム充実が有効であると結論付けられた.
本市内での唯一のバス事業者である茨城交通㈱も,2002年以降路線の廃止を進めたため,廃線,減便の対象となった地域からバス路線の維持を望む声が上がった.さらに,進展する高齢化で,交通弱者が増えると予想される状況となったため,民間では採算の取れない公共交通を維持・確保する手段として,コミュニティバスを導入することになった.
Ⅱ.スマイルあおぞらバス
2006年度に運行を開始したコミュニティバスは,公募により「スマイルあおぞらバス」と名付けられ,旧勝田地区,旧那珂湊地区のそれぞれ1路線で運行を開始した.路線を設定するにあたっては,自治会の協力によるアンケートの実施や,地域ごとに説明会を開催するなど,地域の意見を反映するよう努め,循環型路線,運賃は100円でスタートした.2007年には5路線,2008年には各路線双方向運行となった.また,2009年度から2011年度まで,国の「地域公共交通活性化・再生総合事業」(2013年度は,「地域公共交通確保・維持事業」)の補助を受け,乗合タクシーの実証運行等を行い,2012年12月,市北部にワゴン車による路線を追加するとともに,既存路線についても大幅な見直しを実施した.可住地が広い本市は,路線設定が難しいが,どのようにすれば効果的な路線になるか,試行錯誤を重ねながら,多くの市民にとって利用しやすいスマイルあおぞらバスを目指したいと考えている.
Ⅲ.ひたちなか海浜鉄道
旧茨城交通湊線も,乗客の減少により存続の危機に直面した.規制緩和により,鉄道事業も撤退が事前届出制に変更されたことから,茨城交通は2008年3月末の路線廃止を申し出た.本市では,「湊鉄道対策協議会」を設立し,県,市,地域が一体となって存続に向けた検討を重ね,2004年3月に第3セクター「ひたちなか海浜鉄道湊線」が誕生した.
存続できた理由の一つに,地域の湊線に対する思い入れがある.存続の原動力となったのは,「おらが湊鐵道応援団」である.廃線の申し出直後から利用促進に取り組むとともに,存続に向けた署名活動も行われた.現在も,商店街と協同して,海浜鉄道利用者に対する特典サービスの実施や広報紙発行などの活動に取り組んでおり,海浜鉄道の重要なパートナーとなっている.
もう一つの理由は,この鉄道が市内で完結していたことも大きな要因である.複数の市町村に跨がる場合,存続に対する市町村の意識の差で廃線となったものも多い.しかし本市では,市長が地域の思いを受け止め,存続させることを決断した.市長自らが先頭に立ち,事業者や銀行と交渉を重ね,市民の日常の重要な交通手段としての必要性を訴えたのである.
海浜鉄道は,2008年度から2012年度まで「湊鉄道線再生計画」に基づき,鉄道施設の改修,利用促進に取り組んできた.2013年度からの「第二期湊線基本計画」では,安定的な利用者増を図るため,新駅の設置や鉄道延伸の調査を行うなど,廃線間近であったとは考えられない状況となっている.
Ⅳ.
ひたちなか市
の公共交通施策
本市では,2008年年3月に公共交通活性化協議会を立ち上げ,「市民の誰もが気軽に利用できる公共交通体系づくり」を目標とし,スマイルあおぞらバスを中心としたネットワークづくりやひたちなか海浜鉄道の安全確保を基本とした「
ひたちなか市
地域公共交通総合連携計画」を2009年3月に策定した.現在
ひたちなか市
の高齢化率は22.2%(2013年9月末現在)で,今後も上昇することが見込まれ,交通弱者や買い物弱者が増えると考えられる.他方,人口の増加は頭打ちであり,公共交通利用者の大幅な増加は見込めない.このような状況から不採算路線が今後も増えていくことが予想され,行政が公共交通を支える必要性がますます高まると考えられる.
2013年8月に実施した市民意識調査によれば,市民の54%が公共交通への行政の支援を現状程度,もしくはより充実させるべきと回答している.これは,行政が公共交通を維持・確保していくことについて,市民の理解が得られていることを示しており,今後さらに積極的に公共交通の充実を図っていきたい.
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