日本語で政教分離と訳されるフランスのライシテをキーワードとして、マラルメの詩学を読解し、更に19世紀末以降に共和政を開始したフランスの民主主義における神と宗教における問題を考察する。キリスト教への信仰を捨てたマラルメは、神を代換する機能を芸術に託すことによって、神なき時代の社会と芸術のあり方を探究し、20世紀には多くの前衛芸術に絶大なる影響を与えた。また、フランスは18世期末の大革命により王政を廃止して、政治からカトリック教会の影響を切り離すことで共和政を開始し、世界の民主主義に大きな影響を与えた。この二つのテーマはともに、神中心から人間を主役にした仕組みへの移行というライシテの思想に基づいている。というわけで、前衛の理論的支柱となったマラルメの詩学と西洋近代民主義が標榜する普遍性がどの程度有効なのを探るべく、ライシテをキーワードにこの両者の分析を行った。まずはフランスのライシテの背景としてカトリックの思想を受肉とフェティシズムの観点から解説し、更にマラルメがライシテについて言及している断章を読解することによって、フランスのライシテが抱える困難な状況を分析した。それを通して、西洋近代民主主義の問題点を明らかにし、その普遍性について改めて考えてみた。
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