本論は, 中央アジアのシルダリア川下流デルタ地域に位置するカザフスタン共和国内クジルオルダ州のシルダリア川左岸地区 (以下, クジルオルダ左岸地区) の灌漑農業が今日直面している問題を調査研究したものである.ソフホーズ解体後, 国家の統制が解かれて再編成された共同農場の段階を経て, 独立した農民による小規模個人農場経営 (以下, 小規模個人 (共同) 農場とする) が始められている.主な問題は次のように要約される.(1) 農業機械やその燃料の調達補給が困難なため生産性が激減している.(2) 小規模個人 (共同) 農場により, コメ単作農業が拡大し, 従来の水田・畑輪作が崩壊しつつある.(3) 輪作体系の崩壊は, 土地および水利用のバランスを壊し, 持続的農業という観点から, 用水の使いすぎ, 地下水位の上昇と塩類化問題, 塩害による耕作不能の悪循環を拡大する危険性を帯びている.(4) ソフホーズの解体とともに水利組織も消滅し, 旧体制時代の水管理者の経験とボランティアに依存しており, 農場の水管理に責任をもって応える体制はない.
本論では農業生産体制の再編と農場経営の建て直しのための技術的・社会的課題を明らかにして, 問題解決の糸口を提案する.
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