近世初期以降、金細工師は都市の手工業者の中でも特別な地位にあったとされるが、彼らが具体的にどのような社会的地位にあり、いかなる役割を果たしていたのかについて言及している研究は少ない。また、中世都市ケルンを研究していたK. ミリッツァーは市政における手工業者の役割を低く見積もっており、この言説は現在も都市社会史研究において影響力を残している。
本稿では16世紀の都市バーゼルを舞台に、ツンフトや市参事会で役職に就いていた金細工師たちが、果たして名目上ツンフトに所属していただけの政治的エリートだったのか、それとも実際に手工業者としての修練を積み、その技能をツンフトや都市に貢献する中で生かしていたのかを確認すべく、都市バーゼルの有力門閥フェッシュ家のハンス・ルドルフ1世を中心に幾人かの有力金細工師を取り上げ、職業訓練歴や社会的地位の変遷、彼らが果たした職業的役割をプロソポグラフィカルに分析した。
抄録全体を表示