本稿では,これまでの観光研究においてほとんど取り上げられることがなかった,観光資源の成立に注目し,近代性を明らかにする地理学的研究課題の提示を行なった.このような研究課題は,「伝統の創造」や「文化のオーセンティシティ」という研究の視点と問題意識を共有すること,そして近年の民族誌記述の再考から観光人類学への研究の展開を整理することによって導きだされる.従来,観光現象と文化のオーセンティシティとは,まったく相反する事象であると考えられてきたが,真正な文化の生産や維持にとって,観光というシステムが果たした役割があらためて問い直されねばならないと考える.
また,近代期に成立したわが国の国立公園制度を事例として,経験的研究への展開をも試みた.わが国の国立公園制度は,日本政府の観光政策のもとで実現したが,そこには国民国家の成立に伴う,意味や価値が充填された国土空間の生産を読み取ることが可能である.
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