ハロゲン化銀写真乳剤に対する分光増感作用を, 励起色素からハロゲン化銀粒子への電子移行として説明する場合, 増感色素の励起準位は, 臭化銀の伝導帯の底(-3.5eV ) 近くか, 上になければならないと考えられているが, 色素の励起準位に関する十分な知見はまだ得られていない。本研究では, 芳香族炭化水素を例にとり, 気相, 固相および吸着状態での
イオン化エネルギー
を,定量的に説明できる関係式を導き, これを用いて, 臭化銀粒子に吸着したシアニン色素の
イオン化エネルギー
と励起準位を計算した。その結果, 乳剤中で臭化銀粒子に吸着したシアニン色素の
イオン化エネルギー
は, 4.7~6.0eVで, 色素結晶の外部光電効果の結果と良好な一致を示した。また, 励起準位は-2.9~-3.7eVで, 臭化銀粒子に吸着した励起色素から臭化銀への電子移行は, エネルギー的に可能であることがわかった。上記の結論は, 吸着色素が孤立状態でも, 会合状態でも, 同様に成立することが示された。また, カチオン, アニオンおよび中性などの, 荷電の異なる増感色素についても上記の結論が適用できることが示唆された。
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