パラグァイ国の小麦栽培は一般に不安定であり反当り収量は少ない.これは主として気象的に不利な条件にあるためのようである.すなわち小麦作期間の気温が概して高過ぎること, また早播きすると出穂開花前後に霜害を受け, またおそ播きすると登熟期に高温と強い風雨に出会いそれぞれ被害を受け減収をきたすようである.著者はこのような不利な気象的条件にありながらも比較的安定した作柄を確保し得る播種時期を見出すために本試験を行なつたのであるが, その構想はこの地方の慣行播種期間よりさらにその巾を拡げて小麦を播種し, その生育状態および収量の導き出された試験年次の気象条件と累年の気象条件とを比較対照し本成績が累年の気象条件にもあてはまるか否かを吟味し, あるいはまたこれが累年気象に適合し特に気象的災害からのがれ得るように播種時期を考察選定しようとしたものである.すなわち播種期を4月5日よりおおよそ10日置きに6月15日まで8回に播種して, その生育収量を調査した.収量においては播種期の最も早い4月5日播きが最も少く, これより播種期がおくれるにつれて次第に増加し, 5月25日播きが最高となり, それより播種がおそくなると逆に減収してくるが, その程度は比較的少なかつた.この早播きをした程収量の少いのは冬期の凍霜害によるもので, この寒害は4月5日から4月25日播きまで見られている.一方6月以降のおそ播きの減収程度の比較的少ないのは春の気温上昇が甚だ緩慢であつて長期間に亘つて高温になりえず, また大きな風雨のような災害がなく比較的登熟が順調に進んだことによるものである.試験年次の気象と例年のそれとを比較してみると前者の冬期は特に寒さがきびしかつたのであるが, 当地方では例年とも降霜は5月から8月まで見舞い, また7月が最も寒いことには変りがないのであるから, この期間に最も寒害を受けやすい出穂開花期が出会うような播種は常に危険性があると考えなければならない.しかしてこれに相当する播種期は4月25日頃までである.また試験年次の春は比較的気温上昇が緩慢で長期間に亘つて高温になれなかつた, かつまた大風雨もなく順調であつたが例年ではこのような状態は一般に考えられないことで, 10月中下旬頃から急に高温となり風雨も多くなる機会が多いので, この時期に成熟期には入るような播種も危険性が多いと考えられる.以上から当地方においては比較的安全な播種期間は5月の1ヵ月であろうと考察する.しかしこれにしても大陸的気象下にあるので天候の異変もあることなので2~3回に分けて播種し, 思わざる被害を分散することが必要である.
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