日本歯科大学歯学部高齢者歯科診療科に来院した60歳以上の無歯顎患者を除く初診患者115名を対象に口腔衛生に関する意識調査を行い, 口腔衛生に対する意識や習慣とプラーク付着状態, 現在歯数との関係を評価した。意識調査は歯科衛生士による直接聞き取りによって行われた。その項目として1.現在までの歯科スタッフによる口腔衛生指導経験の有無, 2.口腔清掃時における補助器具の使用とその種類, 3.一日の口腔清掃回数, 4.患者自身による口腔清掃状態の判断, 5.歯の喪失に対する知識の有無を聴取した。口腔清掃状態はプラーク付着状態により判定し現在歯数とともに記録した。
その結果, 1.口腔衛生指導の経験のある者は50.4%であったが, 70歳以上の者に指導経験者が少なく, 指導経験者の方が現在歯数が多かった。しかし, 指導経験の有無はブラッシングの回数口腔衛生状態, 歯の喪失に対する知識に影響を与えていなかった。
2.70歳未満の者のPCRは60.4%, 70歳以上の者は81.1%であり口腔衛生状態はともに不良であり, 70歳以上の者の方が不良であった。
3.現在歯数が少ない者の方が年をとると歯が喪失してしまうのは仕方がないことだと答えた者が多かった。また, 歯が喪失してしまうのは仕方がないと思っている者の方が口腔清掃状態が不良であった。
4.ブラッシングの回数は2回と答えた者が最も多かった。ブラッシングの回数と口腔清掃状態に関係は認あられなかった。
以上のことより, 高齢者にとってブラッシングという行為が歯科疾患予防や治療のための行為として認知されていないと言え, 加齢とともに過去の喪失体験に由来する諦めが高齢者の口腔衛生意識に大きな影響を与えていることが示唆された。
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