日本の本社からサンパウロに派遣されてきた駐在員が日本人移民の子弟である二世、三世および「準二世」に対して示す態度に着目して、同じ日本民族としてのアイデンティティが両者の間にどの程度まで存在するかを明らかにすることが本稿の目的である。
駐在員のこうした態度を調べるために、まず二世、三世や「準二世」を「日本人」と考えるか否かについて質問し、ひきつづきその理由について意見を述べてもらい、我妻洋と米山俊直がとりあげた日本人の六つの条件にもとづいて、これらの理由の分析を試みた。その結果は以下の仮説によって要約することが出来る。つまり、「人種」と「民族」の概念上の違いにもとづいて考察したばあい、駐在員と日系二世、三世あるいは「準二世」の間には同じ日本民族としての共属意識は存在しない。
この仮説を検証するために、両者の間にみられる接触形態と社会的距離について考察を試みた。その結果、両者の間で日本民族としての共通のアイデンティティの欠如がますます決定的になりつつあることが明らかになった。
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