はじめに
当院の母児同室体制は、産後2日目からであり、1998年よりこの体制を取っているが、「早く一緒の部屋になりたい」という意見が2年前の調査で7割を占めたが、早期母児同室により低体温を起こす事も考えられ、小児科医師の許可を得るに至らなかった。そこで今回、褥婦100名に
カンガルー
ケアとその満足度の聞き取り調査をし検証したので、ここに報告する。
1.研究目的
カンガルー
ケアには、低体温を起こさずバイタルサインが安定する効果がある。
2.研究方法
対象
2002年8月から2003年5月 132名中100名・・・
カンガルー
ケア実施していない児(以下B群)
2004年7月から2004年11月 125名中100名・・・
カンガルー
ケアを実施した児(以下A群)
分析方法
A群B群の出生時と新生児室入室時のバイタルサインをとり、t検定にて比較検討した。
3.倫理的配慮
アンケートは本研究以外の目的で使用しないこと、拒否された場合でも入院生活に支障をきたさない事を説明し、褥婦に同意と協力を得た上で実施した。
4.結果
1)出生時のバイタルサインについて
体温の平均値はA群37.138℃でB群の平均値は37.112℃。心拍数の平均値はA群157.78回/分、B群157.5回/分、呼吸の平均値はA群56.59回/分、B群54.09回/分であった。出生時のA群とB群のバイタルサインにおいては有意差はみられなかった。(体温 P=0.683 心拍数 P=0.890 呼吸数 P=0.076)
2)入室時のバイタルサインについて
新生児室入室時の体温変動の平均値はA群36.965℃、B群の平均値は36.73℃であり、t検定においては有意差がみられた。(P=0.000277)
心拍数変動について、A群の平均値は148.08回/分、B群の平均値は149.37回/分であり、t検定では有意差はみられなかった。(P=0.487)
また、呼吸数の平均値はA群58.13回/分、B群59.46回/分であり、t検定では有意差はみられなかった。(P=0.338)
3)
カンガルー
ケアの満足度について
アンケートのうち初産婦、経産婦の割合は、初産婦39名、経産婦61名であった。 児に対するプラス感想は「非常にその通り」「その通り」と回答した褥婦が多く96.3%であった。それに対し、分娩、
カンガルー
ケアに対するマイナス感想は「そんなことはない」と回答した産婦が多く、45%であった。
5.考察
バイタルサイン変動について
ケア後の体温について、A群は出生時より0.173℃の低下がみられたのに対し、B群は入室後0.382℃の低下がみられた。A群B群ともに体温の低下はみられたが、t検定の結果よりA群の方が有意に体温低下が少なく、
カンガルー
ケアは低体温をおこさず体温保持ができることが検証できた。
堀内の研究では、「山内は
カンガルー
ケアにより母体温は0.2から0.3℃上昇するとあり、その理由として皮膚接触により母体が温められるだけでなく、母体側の熱流調節が生じてホメオスターシスを維持する働きを示唆している」
2)と述べている。このことにより、出生直後の体温調節の未熟な児であっても
カンガルー
ケアを行なうことで母親のもとでも十分体温保持ができると検証できた。
6.結論
1)
カンガルー
ケアは保温効果があり、低体温を起こさず、児のバイタルサインは安定する。
2)
カンガルー
ケアは褥婦の満足度が高く、児の愛着形成にも良い影響を与える。
引用文献
1)仁志田博司:新生児学入門,医学書院,p156,2002
2)堀内たけし:
カンガルー
ケア,助産雑誌,55(3),50(234),2001
3)山内芳忠:
カンガルー
ケア,Neonatal Care,p.33から39,2002
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