Neoerysiphe属は5種で構成されるうどんこ病菌の小さな属である.
Neoerysiphe属の系統関係を再構築し, 宿主, 地理的関係から
Neoerysiphe属の進化について考察することを目的として, 35サンプルのITS領域と30サンプルの28SrDNA領域のシークエンスを行い, これに既存のデータを加えて分子系統解析を行った. その結果,
Neoerysiphe属は9つのグループを形成し, それぞれのグループは宿主および地理的分布により特徴づけられた. それぞれのグループの宿主はシソ科, クマツヅラ科, ヤエムグラ属, フウロソウ属,
キク科
の5連により構成された. シソ科寄生菌のグループ
N. galeopsidisは遺伝的に均一であり, これは本菌が最近になってそれぞれのシソ科宿主に分散したことを示している. 一方,
キク科
に寄生する菌は,
キク科
の連ごとに5つのグループに分かれた. うどんこ病の分子時計により,
キク科
の各連に寄生するグループは1000万年前以降に分化していることが示された.
キク科
植物はおよそ3800万年~2000万年前に
キク科
の各連に分化していることから,
Neoerysiphe属の
キク科
宿主の各連への分散はhost-jumpingによるものである可能性が高い. シソ科寄生菌のグループは世界全体,
キク科
の2連とヤエムグラ属とフウロソウ属寄生菌のグループは西アジアとヨーロッパ,
キク科
の2連とクマツヅラ科寄生菌のグループは新大陸,
キク科
の1連に寄生する菌は日本に分布する. また, 今まで
キク科
に寄生する菌は,
N. cumminsiana1種とされてきたが, 今回の解析により5つのグループに分かれることが明らかとなった. このうちの1グループを
N. cumminsianaとし, その他の4グループの新種記載を準備中である.
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