血液神経関門(blood-nerve barrier, 以下BNBと略す)は末梢神経の内部環境を維持する機構であり,BNB破綻が神経因性疼痛発症原因の一つとされている.我々は神経因性疼痛モデルのBNB破綻の有無およびその時期の検索を行い,モデルによる違いを検討した.またサリドマイドが,BNB破綻を抑制するかを調べた.実験材料および方法:実験材料は体重170〜200gのSprague-Dawley系雄性ラット200匹を使用した.神経因性疼痛モデルとして,Complete Freund's adjuvant neuritis model(以下,CFAモデルと略す),Hashimotoモデル,坐骨神経切断モデル,chronic constriction nerve injury model(以下,CCIモデルと略す)を用いた.手術前にペントバルビタールの腹腔内麻酔後手術を行い,CFAモデルは左側坐骨神経にオキシセル
バンド
にcomplete Freund's adjuvant 150μLをしみ込ませたのちに,縫合した.Hashimotoモデルは左側坐骨神経をシリコンチューブで囲い,そのチューブの内側から導管用チューブを通して浸透圧ポンプにより0.029%パクリタ
キセル
を1週間持続投与した.坐骨神経切断モデルは左側坐骨神経を切断し,縫合した. CCIモデルは左側坐骨神経にchromic gut (4-O)で4か所軽く結紮し,縫合した.シャム手術は左側坐骨神経を露出させるのみで,縫合した.手術2時間後,12時間後,24時間後,7日後,14日後,21日後にEvans blue albumin(以下,EBAと略す)を静脈よリ注入しEBAの神経内への拡散状態を蛍光顕微鏡で観察し,BNB破綻の有無を観察した.また,サリドマイドをCCIモデルに投与してBNBの破綻の有無を観察した.サリドマイドは体重あたり0mg/kg,100mg/kg,200mg/kg,300mg/kgになるよう野菜油に溶解し,Feeding tubeで胃内に注入した.投与はそれぞれ手術2時間前,2時間後,12時間後,24時間後に行い,投与開始後18時間目にEBA染色を行い,BNB破綻の有無を検索した.結果および考察:Hashimotoモデルは21日後に,坐骨神経切断モデルでは14日後に, CCIモデルは12時間後にすべてのラットでBNBが破綻した.しかしCFAモデルおよびシャム手術のラットはBNBが破綻しなかった.またCCIモデルヘのサリドマイドによるBNB破綻抑制効果は,投与量を増やすに従い,また投与時期を早期にするに従いみられた.以上より,BNB破綻時期が神経因性疼痛モデルにより違うことから,それぞれ異なる機序によると考えられた.またCCIモデルで,サリドマイドがBNBの破綻抑制効果を示したことから,BNB破綻にはTNF-αが関与していることが示唆された.
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