肥大型心筋症を合併するヌーナン症候群患者の歯科治療を経験した。患者は29歳, 男性。右上顎側切歯歯根嚢胞の診断にて右上顎側切歯歯根端切除術が予定された。出生後より涕泣時のチアノーゼ, 心雑音を指摘され, 小児科にて加療されており, 身体的特徴よりヌーナン症候群の診断を受けていた。心臓カテーテル検査より肥大型心筋症と診断され, 投薬治療が行われていた。また, てんかん発作を認め, バルプロ酸が投与されていた。当科では過去全身麻酔下で3回, モニタリング下で2回, 静脈内鎮静法下で1回の歯科治療が行われており, 3回の全身麻酔時にはいずれも不整脈が発生していたが, 重篤な事態にはいたらず, 歯科治療を終了していた。
今回, 患者の協力が得られたため, 静脈内鎮静法下で歯科治療を行うこととした。術前に行った心エコーの所見から大動脈弁と僧帽弁の閉鎖不全を認めたため, 術当日朝よりアンピシリン1.5g分3の内服を開始した。ミダゾラム5mgで至適鎮静度が得られ, フェリプレシン含有3%プリロカインを用い浸潤麻酔後, 処置を開始した。術中のバイタルサインは安定しており, 心電図上の変化も認められず, 所定の処置を終了した。
ヌーナン症候群患者の歯科治療の際には, 心合併症をはじめとする全身状態, 患者の協力性, 歯科侵襲を考慮し, 適切な管理方法を選択することが重要である。
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