パーキンソン病 (PD) は遺伝的素因と環境因子の両者が発症に関与すると考えられる神経変性疾患である。遺伝性PDの原因遺伝子として同定された十数種類の遺伝子がコードするタンパク質の機能解析から、遺伝性PDにおいてはタンパク質分解異常がPD発症に関与することが示唆されているものの、環境因子とタンパク質分解異常の関係は不明な点が多い。PDモデルを作製する際に用いられる代表的な化学物質として、MPTPおよびその活性代謝物MPP
+が挙げられる。これらの作用メカニズムはミトコンドリア呼吸鎖阻害であると信じられてきたが、近年、呼吸鎖阻害のみではMPTP毒性およびPD発症が説明できないことが報告され、他のメカニズムが重要であると考えられるようになっている。MPP
+は数百μMから数mMで細胞実験に用いられることがほとんどであるが、MPTPで作製したPDモデル動物の局所濃度はもっと低いことが報告されている。そこで、10μMおよび200μM MPP
+を用いて実験を行っていたところ、MPP
+を曝露した神経細胞において脂肪滴様の構造が増加することを偶然見出したため、オートファジー異常が起きている可能性を考えた。オートファジーフラックスアッセイなどを行った結果、オートファジーが阻害されていることが明らかとなった。また、その原因の1つは、リソソームの酸性度を変化させることなく、カテプシンDなどリソソーム内酵素活性を低下させることであると考えられた。同じくPD関連神経毒ロテノンによっても同様の現象を見出しており、これらに共通するメカニズムとして、リソソーム構成タンパク質のmRNA発現低下が考えられた。このようなPD関連神経毒によるオートファジー阻害メカニズム解明が、PD病態解明の一助となることが期待される。
抄録全体を表示