本稿の目的は、経営資源が限られた地方放送局が海外新規事業を模索する経営実践の中で、放送事業の国際化の障壁として指摘されてきた文化的差異と制度的差異を克服したプロセスを解明することである。事例分析の対象として、フジテレビ系列の地上波放送局テレビ新広島(TSS)グループが、2009 年にフランスにて放送を開始した『Japan in Motion』を取り上げる。これは日本の
クールジャパン
戦略の先鞭とされている事例である。放送事業の国際化の研究において、メディア研究が着目してきた文化的差異と、国際経営研究が着目してきた制度的差異を統合し、放送事業の国際化の障害となると論じたのがゲマワットである(Ghemawat, 2007)。彼が提示した「CAGE Distance Framework」モデルでは、国家間の差異が文化的、制度的/政治的、地理的、経済的という4種類の「距離(distance)」として分類されており、企業はそれぞれの距離を事前に分析し、それらをコントロールする国際経営戦略を実践する。これに対して、本稿では『Japan in Motion』が文化的距離と制度的距離を克服したプロセスを分析し、そのプロセスが「CAGE Distance Framework」モデルが提示するような分析的・計画的な戦略実践とは異なるものであったことを理論的に整理する。
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