本論は, 「ポスター芸術」の発展経緯を基軸として, イギリスの近代
グラフィックデザイン
の発展にみるパトロネージの役割を明確にする。これは同国
グラフィックデザイン
の主要な特徴である。「ポスター芸術」は19世紀末のピアーズ社による公報ポスター, 「しゃぼん玉」以来, 産業界のあらゆる分野で活用された。広告業界の発展とあいまって, 応用芸術論の成熟により, 20世紀初頭までにポスターは芸術の一形態として確実に位置づけられた。更にこれを推進したのが20世紀前半に活躍した3人のパトロン, ロンドン交通公社(後のロンドン運輸局)のフランク・ピック(1878-1941), シェル石油会社のジャック・ベディントン(1893-1959), そして国家公務員スティーヴン・タレンツ(1884-1958)である。彼等がポスター芸術を介して行った一連の広報活動が, デザイナー育成にも繋がった。ただしこうした寡頭的な状況は芸術表現の限界も生んだ。ここでは「ポスター芸術」とパトロネージとの関連性を探求し, 現代的な意味での
グラフィックデザイン
が生成された過程をパトロンとの関係から論じていく。
抄録全体を表示