本論文は、イタリア・ワインを具体事例に取り上げ、政治・経済的な側面を強く呈するようになった現代の食を文化人類学的な手法で考察するものである。近代以降、国家による政治・経済的な政策は食文化のあらゆる側面を規定するようになった。この傾向を捉えたガストロポリティクス研究は、政治政策と集団的な言説や食物自体の変化を読み取ることで、食が政治経済的に規定されることを指摘してきた。
イタリアにおけるワインは、国家が認証制度によって政策の対象としている食品の一つであり、ガストロポリティクの一環として捉えることができる。イタリア中部トスカーナ州のワイン生産の現場の事例からは以下の2点を指摘できる。1点目に、認証制度は生産地に経済的な利潤を与えるだけでなく、世界的な一般知として定着することを通してワインのブランディング貢献している。2点目に、ワイン生産者は認証制度を積極的・戦略的に利用することもある一方で、流通や消費の形態に応じて、逆に認証制度を回避し嫌悪するという、両義的な態度を見せている。
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