アゲハ蛹期の天敵としてのアオムシ
コバチ
の働きを説明するため,野外調査といくつかの室内実験を行なった。野外調査は,福岡市東区箱崎にある温州ミカンほ場で,1972年と1974年に行なった。
1. アゲハの蛹化は毎年5月から11月にかけて連続的にみられ,アオムシ
コバチ
もこの期間中ずっと活動していた。アゲハ蛹密度は8月中旬以降急に高くなった。アオムシ
コバチ
は,少しの遅れはあったがこれにすぐ反応し,高い寄生率を示した。しかし,その後他の天敵による死亡が増加してアオムシ
コバチ
の寄生率は低下した。
2. このアオムシ
コバチ
の寄生率が低下した時期でも,アオムシ
コバチ
のアゲハ蛹攻撃率は低下しなかった。またこの時期には,アオムシ
コバチ
が攻撃した蛹から他の寄生者が脱出してきたり,その蛹がアリに捕食されるのを観察した。
3. 野外で採集したアゲハ蛹1頭から,平均156.2頭,最高337頭のアオムシ
コバチ
が羽化してきた。
4. 野外百葉箱でのアオムシ
コバチ
雌成虫の寿命は,8, 9月に羽化したもので平均1ヵ月であった。10, 11月に羽化したものは,3ヵ月の寿命のものが多く,寄主体内で越冬したアオムシ
コバチ
が翌春羽化してきた時期まで生存していたものもあった。
5. 野外ではアゲハの5令幼虫や前蛹の上に乗っているアオムシ
コバチ
が観察されたが,アオムシ
コバチ
が寄生可能なアゲハのステージは蛹期のみで,5令幼虫期・前蛹期のアゲハには寄生不可能であった。
6. アゲハを寄主としたときのアオムシ
コバチ
の発育零点は12.2°Cで,卵から羽化までに要する有効積算温量は213.7°C日であった。この値をもとに計算した福岡地方でのアオムシ
コバチ
の年間世代数は9世代であった。
7. 卵巣成熟はsynovigenicな型を示し,給蜜することにより,平均約140の成熟卵を保有した。
8. 無給蜜の場合,1雌当り産仔数は平均189.3,最高311で,この資料をもとに計算したこの蜂の内的自然増加率は日当り0.28であった。
9. 以上の結果をもとに,アゲハ蛹期の天敵としてのアオムシ
コバチ
の働きについて考察した。
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