(1) 工業化の進展につれて資産ストックの価値のフローの所得に対する比重が高くなる蓋然性が大きいので, 資産の経済的影響も重要度を増す.
(2) 1990年代に欧米先進工業国の金融・資産部門は市場化・グローバル化という構造的変化を遂げた.欧米主要国では, その構造変化に対して適切な対応策をとり, 間接金融資産市場から直接金融資産市場へと金融資産の大移動が生じ, 株価が10年間で数倍に高騰した.資産効果に促されて消費も投資も成長し, 近年まれな好景気を経験した, 一方, 金融・資産市場の自由化・グローバル化への適応に失敗した日本と新興アジア工業諸国では金融・資産市場が混乱し, 金融資産型の不況と停滞に陥った,
(3) 金融・資産の市場化の経験で先行していたアメリカは金融資産の株式市場への大移動に伴う好景気によって自国の経済を発展させ, 資産価値を高騰させ, 為替レートの回復とあいまって, 巨大な資産力を持つにいたった.さらに日本やアジア諸国には国際金融機構を通じてグローバル・スタンダードという名目で, 市場化のルールの導入を要請して, 金融・資産の市場化への対応策を持たなかった日本やアジアの経済を混乱させ, 資産価値と為替レートを低下させて, 日本やアジアの資産を低廉な価格で購入した.1980年代に, 日本がアメリカなどの資産を買収したときと同じことをより戦略的効果的に実現する結果になった.金融・資産市場の自由化・グローバル化を市場経済化の成熟度が異なる国にequal footingの条件で導入することは, 経済の安定と公正をかえって損なう場合がある,
(4) リスクを伴う金融・資産市場では取引者間の情報の非対称性が大きく, 一般国民は情報弱者であり, リスク回避的だから市場の失敗 (market failure) が起こりやすい.そのため競争はフェアに行われず, 資産の最適配分から程遠い状態になる.
(5) こうした (2) , (3) , (4) の経済不安, 不公正, 最適配分からの歪みを緩和するために金融・資産の市場化・規制緩和の過渡期には, 資産政策という秩序政策が必要である.資産政策 (assets policy) とは資産の安定, 配分, 分配政策の総称である.
(6) 資産の所得に対する比重が高まるにつれて, フローの需給調節に加えて資産の安定 (stabilization) 政策が経済の安定成長にとって重要度を増す.同時に分配政策 (distribution) としても資産配分 (allocation) 政策としても資産の役割が大きくなる.金融・資産市場が自由市場が発展する場合, 積極的資産分配政策が取られないと所得・資産の不平等化が進む.
金融・資産市場化に際しては一般国民が株式等の資産を形成しやすい制度を作ることによって誰もが資産を所有する資本所有民主主義 (capital owning democracy) を実現し, 所得及び資産所有の不平等の進行を防除することが市場化と分配の公正を両立させるために有効である.この資産分配 (distribution) 平等化政策は同時に金融・資産の配分 (allocation) を間接金融市場から直接金融市場ヘシフトさせ, 資産市場と経済を活性化させ経済効率を改善する上でも有効である.
(6) 金融・資産市場ゲームを公平に行わせるためにはルールと土俵, 当初のsteak (賭け金) が必要である.市場経済化に対応して資産政策で対応することは, 一見, 市場原理に反するように見えるが, 資産政策の場合, 特に当初はゲームのプレイヤー間に金融・資産市場に関する情報が著しく非対称的である上に, 当初の資産の差が大きいので, 少なくとも公平な市場競争が機能するようになるまで, 情報や交渉力の弱い側が著しく不利にならないような秩序政策が必要である.しかし, 一旦, 金融資産市場の秩序が成立し, プレイヤーがフェアな条件でプレイできるようになったら, 資産価値を一定 (
k%) の上昇率で上昇させるようにし, 裁量的介入はできる限り避けることが好ましい.この点は生産物市場の場合と同様である.
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