◆なぜ
サーフィン
研究なのか?---発表者はこれまで,バリ島のツーリズムについての調査・研究を行ってきた.なかでも,そこに往来する外国人ツーリストと,そこで「ホスト」的役割を果たすインドネシア人の出稼ぎ就労者,およびバリ在来住民との関係性を考察してきた.そのなかで,近年目立つようになった,バリを基点とするサーファー・トラベラーの「波を求める」移動(サーフ・トリップ)が,バリ島およびインドネシアのツーリズムの空間的展開を理解するうえで重要であると考えるに至った.
◆先行研究---しかし,従来,
サーフィン
を扱った研究というのは,サブカルチャーとしての
サーフィン
文化,サーファーのアイデンティティやジェンダーなどに注目する社会学的な研究が中心で(Boot 1996; Donnelly and Young 1998; Donnelly 2000; Wheaton 2000; Farmer 1992; Ishiwata 2002; Waitt 2008),地理学分野においても,coastscapeやsurfing spaceといった,サーファーの空間形成や空間認識を扱うものに限定されてきた(Sheilds 1991; Corbin 1994; Whyte 2002)。つまり,
サーフィン
もツーリズムの一形態であるにも関わらず,ツーリズム研究との関連においては,ほとんど扱われてこなかったという現状がある。
◆インドネシアにおける
サーフィン
・ツーリズム---従来のバリのツーリズム研究では,文化ツーリズムの側面が強調されてきた.しかし,ビーチを中心とする「近代的」大衆ツーリズムも無視できない規模を持つ.なかでもビーチ・リゾートの中心地であるクタは,1970年代を前後に集まってきた海外からのサーファーによって観光地としての発展が始まり,現在は,世界的なリゾートして確立している.その一方で,サーファーを含むバジェット・トラベラーの目的地としても知られ,バックパッカー・エンクレーブの地としても認識されている.そして,多様な就業機会を持つクタは,国内からの出稼ぎ就労者が集まる基点ともなっている.
クタには,ビーチボーイと呼ばれる出稼ぎ就労者が集まるが,彼らの多くはサーファーでもあり,ツーリストへのサーフボードの貸与や,
サーフィン
のレッスン,あるいは
サーフィン
・スポットの発見・斡旋・ガイドなどの役割も担っており,近年のサーフ・ツーリズムの重要な担い手となっている.
インドネシアには,一部のサーファー・コミュニティのみが知る
サーフィン
・スポットが100ヶ所,あるいは200ヶ所以上あるとも言われ,いわば「サーファー・エンクレーブ」を形成している。そのなかで,一部のスポットには外部資本が入りつつあり,その多くは,クタを拠点とするサーフ・トリップの目的地として成長している。そして,こうしたトリップに,大小の旅行エージェントやビーチボーイなどが関与している状況が見られる.
サーフィン
・スポットとして「発見された」諸地域の住民は,バリのクタをモデルとした観光開発を期待しているが,その一方で,開発資本の側は,あくまでもクタを拠点とした
サーフィン
・スポットの拡張を志向し,なおかつ
サーフィン
という閉じた世界でのネットワーク形成を目指す傾向にある。そして,そうした観光開発の際に,地元有力者との交渉を仲介する役割として,クタで働く出稼ぎ移動者(ビーチ・ボーイ)たちが動員されることがある.
当日は,このような関係性のなかで意図される
サーフィン
・ツーリズムの拡大の具体的な内容と,インドネシア全体の観光地開発に与える影響について発表し,また,ツーリズム研究において
サーフィン
を取り上げることの意味についても考察したい。
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