生体がストレス状況に単独で直面した場合よりも, 仲間と一緒の時の方が胃壁の損傷は少ない, と言われている (2, 4) 。最近, WEISSら (8) は,
ショック
を与えた時に互いに相手を攻撃した群では胃壁の損傷が比較的少ないが, 互いに相手が見えず, 攻撃反応も出現しない群では胃壁の損傷の程度が比較的大きいことを見出した。この実験結果から, 彼らは攻撃は
ショック
に対して緩衝効果をもたらすと主張した。そして, 1)
ショック
を与えると, 大部分のネズミでは攻撃反応が生じるので, 攻撃と
ショック
停止との間に随伴性が保たれる;2) 攻撃は
ショック
の不決さから注意を逸らす;3) 生体にとって危険かつ嫌悪的な状況で多発する〈攻撃〉のような反応は, ストレスの緩衝を導く適切なフィードバック径路を遺伝的に備えている;という3つの説明可能性をあげている (8) 。
ところで, 彼らは上記の研究で, 「同じ部屋に2匹のネズミがいた」ことによる
ショック
緩衝効果 (仲間効果) と攻撃による緩衝効果とを分離できたと主張している。また, 津田ら (5, 6) は, 「学習性絶望」の事態で攻撃の緩衝効果を見ている。しかし, これらの研究ではいずれも仲間効果に対する適切な統制群を欠いている。
本研究の目的は, 条件性抑制の事態で仲間の存在による
ショック
緩衝効果と攻撃による緩衝効果を分離し, 攻撃による緩衝効果をより適確に検討することである。
攻撃の
ショック
緩衝効果を検討するために2つの実験を行なった。実験1において, 「音-
ショック
」対提示の際,
ショック
に対し互いに攻撃反応をしたネズミは, 間に透明の隔壁があって攻撃しなかったネズミや, 単独で「音-
ショック
」対提示の訓練を受けたネズミに比べ, 音による条件性抑制の程度が少なかった。この結果は, 攻撃に
ショック
緩衝効果があることを示している。また,
ショック
は断続的に与えられたので, この効果は攻撃と
ショック停止との随伴性に基づくショック
緩衝効果からは説明できないことが明らかになった。実験2において, 「音-
ショック
」対提示の際に金属標的を与えた群と与えなかった群で, 音による条件性抑制効果に差はなかった。すなわち, 攻撃の
ショック
緩衝効果は金属標的では見られなかった。これらの結果から, 攻撃の
ショック
緩衝効果に関しては攻撃の対象である相手の反応 (反撃・逃避・服従など) がその要因の1つに挙げられる。
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