「武士道」は, 富国強兵を目指す明治時代の公定ナショナリズムの流れの中で「創造」された「日本人のアイデンティティ」である. 敗戦後, 国家主義的思想としての武士道は絶えたが, 新渡戸武士道は再び脚光を浴びている. しかし, 新渡戸武士道は本来, 切腹や敵討ちといった武士の行為を西欧人に説明することを主たる目的に英語で書かれた書物である.
武士道に関する著述は, 武士という戦士階級に求められた職業道徳として, 明治時代に多くが記された. その中の一つである新渡戸武士道は, ヒトのもつ道徳的直観の中で, 保護, 公平, 忠誠, 権威の道徳性を重視する. 一方, 現代の医師の職業道徳では, 保護, 公平, 自由の道徳性が求められる. この違いは極めて大きく, 医師の職業道徳に武士道を持ち込むことは, 重大な倫理違反を引き起こす可能性がある.
抄録全体を表示