【はじめに】最近の健康志向の高まりの中で呼吸機能を高めるスポーツとして
スポーツ吹矢
がある。現在健常者に留まらず、喘息や脊髄損傷、筋ジストロフィー患者の呼吸機能改善のためにも利用されている。しかし具体的な効果を記載した文献は少ない。本研究の目的はスパイロメーターを用いて吹矢が呼吸機能にどのような効果を及ぼすのかを調査し、呼吸理学療法の一つとして活用できるかを検討することにある。今回健常者を対象に調査し、若干の知見を得たので報告する。
【対象】対象者は健常者12名(男性7名、女性5名)平均年齢30.4歳で、無作為に吹矢群6名(男性4名、女性2名、平均年齢28.2±4.9歳)、非吹矢群6名(男性3名、女性3名、平均年齢32.7±5.9歳)の2グループに分けた。
【方法】本来
スポーツ吹矢
には協会で定められたルールや道具があるが、今回は市販の吹矢(LANARD TOYS社製POP DARTS)を使用し、約5m離れた的へ10本の矢を当てることとした。これを1日1回、週5回(土日を除く)、2週間実施した。呼吸機能はチェスト社製スパイロメーターHi-801を用い、吹矢実施前と実施2週間後(計10回施行)の2回、肺活量・一秒率・ピークフローを測定した。測定は3回行い最高値を用いて検討した。測定値は性差や年齢差が影響するため、実施前の値を100とし、吹矢群と非吹矢群の2群間でその変化率をMann-Whitney U検定で比較した。
【結果】肺活量、一秒率については両群に有意差は認められなかったが、ピークフローについては吹矢群が非吹矢群より有意に高かった。(P<0.05)また、ピークフローの変化率の平均は、吹矢群129%、非吹矢群105%であった。
【考察】今回スパイロメーターを用いて吹矢が呼吸機能に及ぼす効果について調査した結果、肺活量と一秒率に差はなかったが、ピークフローについては有意差が認められた。これは一気に息を呼出する吹矢の特性からきているものと思われる。またピークフローの測定については、正常でも20%以内の変動があるとされている。今回の検討では20%を上回る変化率は非吹矢群では見られないのに対し、吹矢群では6例中3例に見られた。これらを踏まえると、吹矢は呼吸機能におけるピークフローの改善に効果がある可能性があることが示された。
【おわりに】呼吸理学療法における呼吸筋トレーニングは、腹部重錘負荷やPFLEX、Souffleなどの呼吸筋訓練器を用いて行われるが、その多くは吸気筋を対象にしたものである。今回の結果は、呼吸筋トレーニングの中でも呼気筋に対する訓練方法として吹矢が利用できる可能性があることを示唆している。しかしサンプル数は小さく、また健常者を対象としているため今後さらなる検討が必要である。
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